終章 光射す未来

 民家を離れ、森を抜け草原を抜け山道を登っていく。

 道中では、何体ものメトラージとすれ違う。

 時に体同士がぶつかり私の体も投げ出されるが、ジッと身を固めているよりマシに思えた。

 背負われ、運ばれていく長い道のり。

 私たちは遂に、ハスコカゲへと辿り着く。


 そびえ立つ山の間にあるハスコカゲの村は、荒らされている様子もなく、静かなものだった。

 昔がどんな風だったのかはわからないが、建物が崩れ落ちていたりもしない。

 私たちは運ばれて村の中を進む。

 そして、入り口の大きく開いた建物の中へ入ると、

 ドサッ

 私は、ここまで連れてきてくれたメトラージと共に倒れ込んだ。

「お疲れ様ですわ」

 そこには、既に外殻を脱いだリンツたちが立っていた。

 私も立ち上がると、頭部を脱ぎ内部を眺める。

 窓もなく、とても質素な造りではあるが、目を引くモノが存在している。

 緑の液体が流れていく水路。

「なんですかね、これ」

 どこまで続いているのか疑問に思うが、入っていく気にはなれない水流である。

「ここに、放り込まれるところだった」

 三白眼の女は、入り口の方を警戒しながら答える。

「死体処理場?」

「調理場かもしれねえぞ」

 まげの男は、倒れたメトラージを液体へと運び入れてみる。

 皮膚が溶けていくような音をさせながら、そのまま流れていく。

「まあ考えていても仕方ありませんわね」

 リンツは、そう言いながら髪を整えていく。

「ここからどうする?」

「礼拝堂を目指してみましょうか」

 背負われていく途中でも確認できた。この村のシンボルである大きな礼拝堂。

「理由は?」

「大きくて立派な建物に住みたがるものでしょう」

 リンツは、当然のように言った。

 明確な理由ではないが、他に思い当たる場所があるわけでもない。

「問題はどうやって行くか、だな」

 まげの男は入り口から外の様子を覗き見る。

 道中、嫌になるほど目にしてきたメトラージだが、当然この村にも多くの姿が見える。

「一体一体誘い出してみる?」

 三白眼の女は懐から、投げナイフのようなモノを取り出すが、

「数が多すぎますわ」

 あまり得策とも思えなかった。

 手間がかかりすぎる上、居場所が気付かれた場合大群がここに押し寄せてくることになる。

 とはいえ、ここで待っていても状況が変わるわけではないが。

「いや、そうしてみるか」

 まげの男が、顎を手で押し上げながら言った。


 メトラージの頭部に刃物が突き刺さって倒れる。

 それに気づいた周りのメトラージが続々と駆け寄ってくる。

 また別の場所で、倒れ駆け寄る。

 何度か繰り返されていくうちに、散らばっていたメトラージが集まり、大群となっていった。

 そろそろ頃合いか。

 キンキンキン!

「こっちこいよ!」

 刃物を鳴らす音とまげの男の声に、大群は反応した。

 轟音と共に、砂埃を巻き上げながら大群が、まげの男へと一斉に向かっていく。

 まげの男は、動かない。ギリギリまで音を立てて引きつける。

 メトラージの腕が、まげの男を捉える位置までやってくる。

 そこでようやくまげの男が、反転して全速力で建物へと引っ込んでいく。

 追い続けるメトラージの集団。

「どりゃあ!」

 まげの男は、壁へと飛んだ。

 壁を蹴り、なんとか突き刺しておいた剣を握ってぶら下がった。

 襲いかかるメトラージの腕は、わずかに空を切る。

 そして、

 バチャバチャバチャ。

 と、次から次へとやってくるメトラージの勢いに押され、緑色の液体へと落水して流されていった。

 押し落としたメトラージが更に押し落とされる。

 怒涛の足音と跳ねる水音は、しばらくの間止みそうもなかった。

「大丈夫ですか?」

 私はまげの男へ手を差し伸べる。

「おう」

 手を掴んだまげの男を、精一杯の力で屋根の上まで引き上げた。

「ふう、なんとかなりそうだな」

 まげの男は、腰を下ろして一息つく。

「そうでもないかもしれませんわ」

 リンツが、下の様子を眺めながら言う。

「あ? うまくいってんだろ」

 そう言う、まげの男だったが、

 ミシミシミシ

 なにかが限界を迎えそうな音を立て、顔色を変える。

 眼下では、建物を取り巻くメトラージの集団が入り口へと殺到していく。

 互いに押し押されひしめき合い、衝撃に建物が揺らされ、遂に、

「やべやべやべ」

 ガラガラと崩壊が始まっていく。

「とにかく礼拝堂の方へ」

「つってもよお!」

 崩れ行く足場から、足を動かす。

 もう飛ぶしかない。

 私たちは、意を決し崩壊していく建物から飛び立つ。

「ひゃーっ!」

 思わず叫び声があがり、空を足掻く。

 着地点にいるメトラージの顔面を踏み、落下の勢いを軽減させつつ私は地面へと転がった。

「けほっ」

「走りますわよ」

 リンツの手を借りて立ち上がり、そのまま私たちは走り出す。

 迫りくるメトラージを振り払い、追いかけてくるメトラージから逃げ出していく。

 目的地の礼拝堂までは、まだ辿り着かない。

 けれどメトラージは次から次へと湧いてくる。

 このまま走り抜けるのは困難だ。

「お前らはそのまま突っ走れ」

「えっ」

 まげの男は振り返ると、刃物を打ち鳴らしながら襲いかかってくるメトラージを迎撃していく。

「無茶です!」

「走れ!」

 立ち止まる余裕もない。まげの男が誘い込もうとしても、全てを誘導することは出来ない。

「馬鹿」

 取り囲まれないように、走りながら倒しながら考える。

 どうにかできないか。

 ピューイ!

 甲高い指笛の音が遠くから聞こえる。

 村の両脇にそびえる山、その急斜面に人間の姿が見えた。

「ヨージさん!」

 彼は片腕を挙げて、そのまま礼拝堂の方へ行くように指さす。

「とにかくこのまま向かいましょう」

 私たちは、ヨージの指示を信じてまっすぐ前を見て走り続ける。

 ヨージは大剣を振り上げると、勢いよく山へと突き刺した。

 ゴウンッ!

 山が轟き悲鳴をあげる。

 ヨージは突き刺した大剣で、そのまま強引に山を砕き降下していく。

 割れる山肌は耐えきれずに、大きな落石を引き起こしていった。

「化物」

 思わず三白眼の女は呟いた。

 土砂崩れと共に村へ辿り着いたヨージは、メトラージの大群の中を颯爽と駆けていく。

「先に入りますわよ」

 ようやく礼拝堂の扉へと辿り着いた私たちは、追っ手を振り払って中へと走り込んだ。


「ハァハァ」

 私たちは、乱れた息を整えつつ、内部を確認する。

 ここにまでメトラージがいなくて助かった。

 光射し込む広い空間には、いくつもの長椅子とそれを眺める大きな像が立っていた。

「大丈夫、かな」

 扉の向こうにいる二人が心配だ。

「折を見て、救援に、参りましょう」

 切れる息遣いに途切れる会話。

 私たちは再度、メトラージの元へ向かおうとするが、

 コツコツ

 何者かが足音を鳴らし、奥からソレは現れる。

「ここまで辿り着くにしては、あまりいい素体には見えないな」

 体格はヒトの三倍ほど、真っ白な体躯に翼を携えた異形がこちらを見ている。

 それは、メトラージとも私の世界にいた元凶とも違う存在に思えた。

 だけど、この世界の元凶であることは理解できた。

 私たちは危険を感じて身構える。

「あなたが、メトラージを産み出している張本人ですの?」

 リンツは重圧を感じつつも、口調を落ち着かせて尋ねる。

「そうだとも言える」

 白い異形は、言葉を返す。

「曖昧な言い方ですわね」

「あの出来損ないはおまえたちの成れの果てだ」

 低く重い答えが返ってくる。

 私たちの成れの果てとは、

「まさか、人間をメトラージへと変化させている、とでも言いますの?」

「アレにしかなれないのが有象無象だ」

 白い異形は嘆き、自らの身を強く抱きしめ羽を広げた。

「我の手をもってしても、優れた生物を造るほどが叶わない!」

 悲痛のこもった声に、私たちは戸惑う。

「知恵を授かりながら、愚か故に進化していくことすらも叶わない!」

 白い異形はひとり大きく肩を落とした。

 何様なのだ。

「じゃあ、もう人間に手出ししないでください!」

 私は叫ぶ。

「我がどうして愚かモノを野放しにできる」

「迷惑です。人間は愚かではありませんし、自らで成長していきます」

「進化を知らぬ、浅慮なモノだ」

「あなたの言う進化などいらない、と言っているのですわ」

「やはり、狭い世界では得られぬのか」

 白い異形はそう言うと、踵を返し私たちに背中を向ける。

 すかさず三白眼の女が、ナイフを投げつけたが、広げた羽に弾き落とされた。

 そのまま、何事もなかったように、白い異形は奥へと戻っていく。

 入れ違いとなるように、また別の異形が現れる。

 メトラージのようで、メトラージとは違うモノを感じる。

 ギョロリと目が光ると、それは猛然と向かってきた。

 速いっ!

 私たちはそれぞれ左右へ飛び避ける。

 異形は勢いのまま床を踏み割り、即座に進行方向を変えた。

 私の方へ、来る!

 異形は、刺し貫くように右腕での打撃を放った。

「ぐっ」

 間一髪、棒を盾に防げたが、体は吹き飛ばされる。

 だが間を許さない異形は追撃にくる。

 「こっち!」

 それを止めようとする投げナイフが振り払われた。

 と、同時にリンツの細剣が異形の肩を刺し貫く。

 だが物ともしない異形は、そのまま細剣を掴み、リンツの心臓目掛けて押し返した。

「ぐふっ」

 リンツの手から細剣は奪われ、押し飛ばされてしまう。

 そのわずかな隙きを三白眼の女が詰める。

 異形の頭部へとナイフを向けた。

「!」

 異形から眩い白い光が三白眼の女へと放たれた。

 これは……。

 脳裏によぎるのも一瞬、三白眼の女の体が光の中で細剣に刺し貫かれる。

「うわああああああ!」

 私は思わず、叫びながら異形へと駆け出す。

 光は収まり、振り向く異形の右腕が細剣を構える。

 構え方は、リンツと同じ――。

 一瞬にして向かってくる細剣が腕をかすめながら、棒に体重ごと力を込め態勢を崩した。

 もう一撃、棒を振りかぶるが、異形の蹴りによって体が宙へ舞う。

「こちらですわ!」

 胸を抑えつつ起き上がるリンツの手にはナイフが握られていた。

 リンツの呼びかけに応えるように、異形はリンツをひと目見ると、途端に飛びかかっていく。

「本当に人間の、成れの果てでしたのね……」

 相対するリンツは小さく呟く。

 右腕で構える異形から、再び眩い白い光が放たれる。

 それでもリンツは目をつぶって構える。

 既にそこまで迫る細剣を、体を横に流して滑らかにかわした。

 そのまま流れるような動きで、違えることなく頭部を貫く。

 血液が吹き出すこともかまわず。

 暴れる体を押さえつけ、力が完全に抜けるまで深く。

「お姉様を助けていただいて、ありがとうございました」

 光が収まると共に、異形から力が抜けていく。

「ゆっくりお休みください」

 ナイフを引き抜き、細剣を回収するリンツの顔は、真っ赤な悲しみに塗られていた。


 私は痛む体を抑えつつ、三白眼の女へと駆け寄った。

「大丈夫ですか?」

「なんとか」

 苦しそうに抑える腹部からは血が溢れ滲んでいる。

「なんとかじゃないですよ」

 私は自身のローブ端をナイフで破り、止血していく。

 ギイ、バタン!

 ドアが開き閉じる。

 目を向けると、そこにはヨージと担がれたボロボロのまげの男がいた。

「無事か?」

「遅いですわよ」

「すまん」

 ようやく合流することができた。

 それだけで、なんだか安堵してしまう。

「一旦、落ち着かせてもらいましょう」

 私たちはそれぞれ、治療などを行いながら状況を確認していく。


「そいつが元凶だな」

 私たちは、ここで起きたことをヨージへと説明した。

 早速ヨージは立ち上がり、奥へと向かおうとする。

「お二人は、どうしましょう」

 私は、負傷した三白眼の女とボロボロのまげの男を心配する。

「私たちにかまう必要はないよ、自分たちのことは自分たちでやる」

 三白眼の女は体を寝かせたまま言った。

「ここにいればまだ安全だ。おまえもここで十分だ」

 と、ヨージはリンツを見て勧告するが、

「私は、行きますわ」

 顔を綺麗に拭ったリンツは、綺麗な瞳で真っ直ぐに意思を伝える。

「そうか」

 リンツの目をジッと見つめて、少しなにかを考えるヨージ。

 そして、袋からなにか取り出すと、体を倒す二人の元へ置いた。

「なにこれ?」

 三白眼の女は尋ねる。

「ただの食料だ」

「そう、ありがと」

 横になったまま礼を言う。

「俺とトルテュは、ここへ戻ってこない」

 ヨージは二人に宣言した。

「おまえみたいなのが、やられちまうって言うのかよ」

 まげの男が、ボロボロになった痛みを我慢しながら喋る。

「ヤツは必ず倒す」

 迷いなく言い切る。

「後の世界のことは、きっとおまえたち次第だ」

 そう言葉をかけると二人に背中を向け、歩き出す。

 私とリンツも、ヨージの隣についていく。

「無茶はしなくていい」

 三人は、元凶のいる奥へと進んでいく。


 光の届かない真っ暗な空間。

 ヨージは懐からなにかを取り出し、光らせて辺りを照らす。

 ここもまた、広さのある部屋だったが少々不気味であった。

 緑の液体に満たされた透明な円柱の中に、先ほど戦ったメトラージらしきモノ。

 それが、両脇の壁際にいくつも並べられていた。

「まだいたのか」

 部屋の中央から声が聞こえる。

 白い異形だ。

「進化させているとおっしゃられていましたが、元の姿の方がよっぽど素晴らしい人間でしたわ」

 リンツは、目つきを鋭くさせ言った。

「それもおまえたちの限界だ」

「あなたの驕りでしょう?」

 白い異形は勢いよく翼を大きく広げる。

 すると、次々と透明な円柱が開き、緑の液体が床へと流れていく。

「排除しろ」

 目覚めたメトラージが私たちへ一斉に襲いかかる。

 横一閃。

 ヨージが振る大剣によって、全てが吹き飛ばされた。

「おお」

 振るわれた剣圧を感じ、白い異形は息を呑んだ。

「素晴らしい、いるではないか、我に見合う素体!」

 歓喜の声をあげるその体は、興奮にうち震えている。

「おまえはさらなる進化に興味はないか?」

「ない」

 あっさりとした答えと共に、ヨージは白い異形へと足を踏み出した。

「ならば、捕らえる」

 白い異形の体が瞬間的に光る。

 とっさに身構えたヨージだったが、白い異形からは暗い闇が広がっていく。

 それは、ヨージが照らす光をも飲み込み、再び真っ暗な空間となる。

 光じゃなくて今度は暗闇……。

 なにも見えない状況に、私は身構え考える。

 羽ばたきと大剣を振るうヨージの音が聞こえてくる。

「良い反応だ、実に素晴らしい」

 白い異形の期待に満ちた声がする。

 声に近寄ってヨージの邪魔をすることもできない。

 魔法使いの役割は後方支援。

 体を張って守ってくれる人たちの状況を変え、力になること。

 暗闇の中、私は部屋の状況を思い出しながら、慎重に足と腕を動かしていく。

「ぐっ!」

 なにかがぶつかり床へ転がるのが聞こえる。

 それをかき消すかのように大剣が空を切る音。

 羽ばたきが上方まで遠ざかる。

 そんな音たちが、激しく何度も繰り返されていく。

 ヨージさんとはいえ、あまりいい状況ではないのか。

「そろそろ終わるか?」

「わけないだろ」

 白い異形に答えるヨージの口調は落ち着いている。

 音だけでの判断が難しい。

 とにかく落ち着いて状況に対応できるようにしなければ。

 大剣を振るう音に、間髪入れず鋭い刃音が聞こえた。

「邪魔だ」

 鋭い刃音も空を切ったようで、鈍い音と壁にぶつかる衝撃音へと変わっていく。

「こっちだ」

 ヨージの声と大剣を振るう音が再び鳴る。

 私の心の中が、不安にかられる。


 先の見えない不安。

 なにが起きているのかわからない不安。

 良くしてくれた人たちの身に、大変なことが起きていないだろうか。

 今までも、そんな時がいっぱいあった。

 元の世界で。

 こちらの世界に来てからも。

 でも、たくさんの人達に助けられてきて。

 そんな不安を感じさせないほどに、助けられてきて。

 私は、今まで来られた。

 だから、私も精一杯助けることができればいいと思う。

 一緒に歩んでいければいいなと思う。

 やる準備は出来た。

 試せていないし、成功するのかはわからない。

 でも、学んだことやってきたことは、きっとこちらでも通用する。

 勝負は一発。

 大剣が振るわれる音を聞いて、動き出す。


 私は、棒の先につけた緑色の液体を、白い異形のいるであろう方へ振り飛ばす。

「あなたを倒します!」

 暗闇の中、大声で叫ぶ。

「小物はいらないのだっ!」

 羽音がこちらに向かってくるのを感じて、描き完成させる。

「なんだとっ!」

 タイミングはバッチリだった。

 床から眩い真白い光が、強く輝き放たれる。

 緑の液体で描かれた紋様から溢れ出る光。

 その天へと広がっていく光に、白い異形は顔を覆い狼狽えた。

 私は、すぐに白い異形の体へと飛びつき捕らえる。

 ここで飛ばせはしない。

 しかし、体を押し倒すまでには至れない。

「なんだおまえはあああああああああ!」

 白い異形は羽を大きく動かし、体を激しく揺らして振り解こうとする。

 そこへ、一足早く駆けつけたリンツが、どうにか片翼を掴んだ。

「うおおおおおおおおおおおお!」

 それでも尋常ではない力を完全に抑えることができない。

 白い異形の体が宙へと羽ばたいた。

 振り落とされぬよう、精一杯の力でしがみつく。

 未だに顔を抑え錯乱する白い異形は、勢いのまま体ごと壁をぶち抜き外に出た。

「くっ!」

 必死に歯を食いしばり手に力を込め、衝撃に耐える。

「離れろよおおおおおおおおお!」

 白い異形は、ハスコカゲから逃げるように大きな空を飛び続け、大きく羽を動かし体をひねる。

 光射す大地を離れ、天高く登っていく

「眩しすぎてずっと見えていなかったのですわ」

 風を受けながら羽をよじ登り、頭部へと迫ったリンツが細剣を構える。

「終わりです」

 白い異形を刺し貫いた。

 ピクリと大きく反応した体は、次第に羽ばたきが小さくなっていき、私たちは共に落ちていく。

 

 終わったんだ。

 光射す空と世界の端が目の前に映る。

 落ちていくまま崖壁が続く。

 そこに、私たちの元へと勢いよく飛び込んでくるモノが見えた。

 ヨージさん。

 私はリンツと手を繋ぎ、ふたりヨージの腕に抱えられた。

 そして、あの時と同じ、手の感覚だけが残り他が消えていく。

 この世界で最後に見た景色は、支えるものがなにもない崖壁の切れ端。

 空に浮かぶ大地。

 ただそれだけだった。

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