三章 閉じられた壁と開かれた壁
開けた道を走る一台の荷車を、長い四足の生き物がキュルキュル引く。
メトラージのいない安全なこちら側を、私たちは移動していた。
目的地のハスコカゲへと進むには、その方が良いらしい。
結局、道中まで送ってくれることになったリンツも、大人しく一緒に風に揺られる。
道の先、遠くを見つめるリンツは物静かで、普段と違って見えた。
普段なんて、少し一緒にいただけの私にわかることじゃないのかもしれないけど。
ヨージのほうに目をやると、こちらは普段のように落ち着いた様子で。
「なんだ?」
視線に気づいたヨージは、口を開く。
「いや、えーと。ハスコカゲに元凶はいるんですかね」
特になにか考えていたわけではないが、とっさに尋ねる。
「おそらくとしか言えないな」
当然だ。なんでもわかれば苦労しない。
「だが、可能性はある」
「なぜですか?」
「身を隠すのに都合がいい、メトラージが現れた場所でもある。そして今なお壁の向こう側にメトラージが現れている」
「今なお、現れているってことは」
そこでよくわからなくなり首をひねってみる。
「拠点を移ったりしてはいない、と推測する。アレを生み出すのは、それなりのモノが必要だろう」
「なるほど」
「まあこの世界、崖の外に出てはいない、という希望でもあるが」
確かにそういうこともあるのか。考えてもいなかった。
「だが、壁を破壊している」
先の会議で話していた事件のことか。
「それがこの世界の元凶の仕業と」
「おそらくでしかないがな、外すことなんてままある。確かめてみるしかない」
そう言うとヨージは口を閉じ、再び静寂が訪れる。
壁を壊したのが元凶のせいだとすると、なにを目的としているのだろう。
私の世界にいた元凶のような破壊衝動、ではないのだろう。
壁によって均衡が保たれていた。そこに穴を空ける。
侵攻は被害を出しながらも止められ、また壁によって均衡が訪れる。
生み出されるメトラージ。
終わった戦争。
残された壁。
端のある世界。
魔法のない世界。
この世界で知ったことを思い出していくも、私にはわからなかった。
手持ちにもらった自衛用の棒をギュッと握ってみる。
ドゴオオオォォォン!
どこかで爆発するような鈍い轟音が響いた。
音の感じからすると、そう遠くはないが発生源は見えない、壁の方からの音。
「まさか」
私たちは途端に荷車を飛び降り、
「あなたは戻って報告を!」
操者の兵士に声をかけ、そのまま音のした方向へと走っていく。
荒れる草木をかき分け、徐々に大地を叩く音が近づいてくる。
嫌な汗がヒヤリとたれてきた。
遠くに見えてきたのは人影、いや、
「そんな……」
そこにいたのは、メトラージの大群であった。
数百を越えるだろう数の化物が、けたたましい足音を立て勢いよく進んでくる。
「なんて数ですの」
向かってくる相手を抑えようとしてもどうにもならない。メトラージがこちら側に解き放たれていく。
足を止めてしまう。
どうする、どうすればいい。
こんなの、抑えきれない――。
「うぉらあああああああぁぁぁ!」
それでも先陣へとたどり着いたヨージが、雄叫びを上げながら大剣を振った。
ピューーーイ!
「こっちだろうがああああああぁぁぁ!」
指笛を吹き、走りながらまた叫び、目前のメトラージへ派手に大剣を振り降ろし、土草を舞い上げ大地を響かせて鳴かせる。
わざと注目を集めるように、戦っているのか。
音を感じ取ったのか、姿を感じ取ったのか、それ以外か。
目論見通り、周囲にいたメトラージがヨージの方を向いていった。
数を増やし続ける大群が、彼を囲み襲いかかる。
この人はなんでこんなに。
「加勢しますわよ」
ヨージの元へ集まるメトラージを減らすため、私とリンツは動き出すが、
「邪魔だああああああああぁぁぁ!」
大剣に吹き飛ばされたメトラージと斬風が、そこら中へ吹き飛んでくる。
ここに立っているだけでも危険だ。
それでも襲いくるメトラージは増えていくばかりで。
「多すぎます、無茶ですわ!」
「うっせええええええええぇぇぇ!やらせろおおおおおおおぉぉぉ!」
普段のヨージからは想像のつかない叫び声と形相で答える。
いや、これだけの力を持つ彼でも今、必死なのだ。周りに気なんて遣う余裕のないくらいに。
ここで私たちが同じことはできないし、突破することもできない。
考えているうちにもメトラージは数を増やし、こちら側の大地を踏み抜いていく。
嫌になる。なんでこんな時にも魔法が使えないのか。
ここにいるだけで彼の邪魔になってしまうのか。
だからといって、目の前の状況をなにもしないでいることなんて、無理だ。
だけど、
「任せましょう」
私は、振り絞ってリンツへと言った。
「放置できるはずないでしょう!」
迫りくる光景と狂騒に、熱を当てられたリンツは納得しない。
「壁は塞ぐっ! おまえらが守るもん守れよやああああああああぁぁぁ!」
大剣を大きく振るう音とぶつかり合う音が鳴り響く。
叫ぶのも辛そうで、力がないのがもどかしい。
「ヨージさんならやってくれます。実家のほうへ向かいましょう」
地図で見た、リンツの実家がある村はここから近いはずだ。
「っ、公私混同致しませんわっ!」
頑なに拒否して立ち向かっていこうとするリンツと、自身の焦燥感から、
「どっちが公私混同なの!? リンツが守るべきはなに!?」
リンツの腕をきつく掴んで止めてしまう。
「私もなんだってしたいよ! でも」
熱くなってリンツに当たってしまう、けど。
「今は、ヨージさんを信じましょう」
リンツの目を見てお願いする。
「……わかりました」
苦痛の表情を浮かべ、リンツは了承した。
私たちはなにもできずにたった一人に託して、圧倒的脅威から背中を向けて走り出す。
正しい判断かはわからない。
彼ならきっと大丈夫。
自分へと言い聞かせる。
やがて派手な狂騒は遠く届かなくなった。
草木をかき分け、村へと辿り着くまで、何度もメトラージに遭遇した。
一体一体、確実に倒し、また走り抜ける。
呼吸が苦しくなり、足がふらついてくる。
それでも走り続ける。
ようやく、木の柵の建っている場所が見えてきたものの、既に一部崩されていた。
村にまで侵入されてしまっていたか。
私たちは一目散に、飛び越えて中へと入った。
周囲を見回す。
そこでは、建物が崩され、メトラージと人間が倒れていた。
「ハァハァ、そんな……」
リンツの顔が深く沈む。
遅かったのか……、いや、まだいるはず。
私たちは、被害を更に目の当たりにしながら村の中を走る。
そこかしこに、争いのあった形跡と匂いが残っている。
漏れそうになる嗚咽を戻しながら、ひたすら走る。
すると、コツ、コツと小さくも通る音が聞こえてきた。
すぐに音のする方へと近づいていく、そこには異様な光景があった。
集うように折り重なり倒れているメトラージ。その中心に綺麗な女性が立っていた。
左手の杖で木材を鳴らしながら、右手で細剣を握る女性。
「お姉様!」
リンツが思わず駆け寄り抱きつく。
見た様子、おそらく片方の足を悪くしている女性。
にも関わらず、ここで戦っていたのか。
「来てくれたの」
「わたしっ、ほんと、ごめんなさい」
息を切りながら震える声で謝るリンツを、
「来てくれてありがとう」
彼女は優しく抱きしめ返す。
「ハァハァ、村の状況はどうなっていますか?」
膝に手をつきながらも、私が聞かずにいられない。
「戦えない方たちは、丘の上の集会所に避難しています。他の方は、村の見回りをしてくれているはずです」
一旦の脅威は収められていたみたいだ。
それでもまだメトラージがいないとは言えない。
「じゃあ、私も見回ってきます」
「わ、私も行きます」
いっぱいいっぱいの顔を拭ったリンツと私は、それぞれ村を警戒し回った。
村にメトラージが残っていないことを確認した後、遺体を安全な場所へと移動させた。
村の被害は少なくはない。
倒壊した建物。
踏み荒らされた作物。
そして、抵抗の中で命を落とした人。
私たちが来た頃には、もう遅かった。
結局、なにもできなかった。
なのに、言いようもない疲労感が体に重くのしかかってくる。
崩れた柵を見張りながら、棒のように立ち尽くす私を、光が照らしている。
「ありがとうな」
急に声をかけられ振り返ると、年配の男性が杯を差し出してきた。
「いえ、私はなにも」
杯を受け取るも、見つめるだけで口をつける気分になれなかった。
「道中、ヤツらを倒してきてくれたんだろ」
「……」
「俺ァまた死にそびれちまったよ」
男性の言葉に思わず顔をあげる。
「そんなこと、言わないでください」
「俺だってまだまだやれるんだ。なのに、若いヤツにばっか面倒やらせちまう」
男性の目は、崩れた柵の先へ向けられていた。
私も、続いてそちらを向く。
ヨージさんは無事なのだろうか。
視線の先に、何者かが向かってくる様子が映る。
私はとっさに身構えるが、やって来たのは鎧を身に着けた兵士たちであった。
「無事でありますか!?」
「全部が、ってわけではねえけど、とりあえずはな」
ハキハキ喋る兵士に男性は答える。
「各員、周辺の警戒と柵の修繕に当たれ!」
「壁の穴はどうなりましたか?」
私は、不安な気持ちを堪えられずに尋ねる。
「一時的に塞がれたと、聞いております!」
「そこにいた男性は?」
「申し訳ありません! 詳しいことは聞かされておりません!」
壁は塞がれている。きっとヨージさんだ。
私は自分に信じ込ませる、根拠もないのに。
「私、もう行きます」
男性に杯を返し、再び壁へと向かう、も、
「おい!」
ふらついた体を兵士が受け止める。
「現在、メトラージが出没しております! 出歩かないようにお願い致します!」
私は、私がしたいことをできない。
「兵士の兄さん、その子を運んできてくれ」
抱えられる、意識が遠のいていく……私は――。
ぼんやりとした意識が戻ってくる。
見知らぬ、天井。
どこだろう。
そうだ、どこに行っても見知ったところなんてないんだ。
なんでだろう、涙が溢れてきた。
見知らぬ天井が滲んでいく。
ここはなんなのだっけ。
今までどうしていたのだっけ。
私はなにがしたいのだっけ。
私になにができるのだっけ
流れていく涙を腕で抑えても流れていく。
嗚咽が聞こえる。私から漏れていく。
遠い意識の中……。
いつの間にか、眠っていた私はゆっくりまぶたを開いた。
見知らぬ、天井。
でも、少し知っている気がした。
それだけで、ちょっと心が安心できた。
私はゆっくりと身を起こす。
「おはよう」
声をかけられる。
そこにいたのは綺麗な女性、リンツのお姉さんだった。
「おはよう、ございます」
ここはお姉さんの家だろうか、物が少なく綺麗に片付けられている。
「ちょっと待っててね、お腹空いているでしょう」
そう言ってお姉さんは杖をついて歩き、鍋に火をかけた。
私はゆっくり立ち上がる。
いつの間にか、ゆったりとしたワンピースに着替えられていた。
「どうぞ、ここに座ってて」
お姉さんは、机に杯を置いて促す。
まだ頭がぼんやりとしている。椅子に座ると置かれた飲み物を眺めた。
見たことのある茶色の液体。
口をつけると、やはり少し苦くて、
でも、その苦味が体に染み渡ると、なにかスッキリする気がした。
「おまたせ」
お姉さんは、私に温めたスープを差し出し、対面へと座る。
色とりどりの野菜が細かく入れられた、透明のスープ。
私は、曲がりの大きいスプーンを使って、口の中へと運ぶ。
スープの温もりと甘味が広がっていった。
薄めのスープが、野菜の旨味と優しさを引き出していくようで。
「どう? お口に合った?」
問うお姉さんに、
「とてもおいしいです」
素直に答えられた。
ゆっくりと、生き渡らせるようにしてスープを飲み干した。
「ありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ」
ずっとそこに座っていたお姉さんは優しい笑顔で答えた。
「あの、リンツはどうしてますか」
落ち着いた私は、ようやく現状を確認しはじめる。
「リンツは、『ヨージさんのこと探しておくから、まずはしっかり体を休めて』って言っていたわ」
「そうですか」
リンツも色んなコトがあって大変だったのに、凄いな。
「ありがとうね」
不意にお礼を言われるも、
「いえ、私はなにも」
また同じように答えていた。
「リンツと仲良くしてもらって、あなたたちからたくさん影響受けたみたい」
「ヨージさんは、本当に凄い人です」
「あなたもとても素敵な人だと思うわ」
「そんなこと、ないです」
また肩が落ち込んでしまいそうになる。
「全く見知らぬ土地に来て、不安もある。それでも、自分のためじゃなく動けるんだもの」
「でも、そんな力はありませんでした」
「大きな力なんて誰も持っていないわ。でも、私たちは力合わせてやっていく」
「……」
「危険な中駆けつけてくれて、一緒に村のために動いてくれて、みんな感謝しているのよ」
彼女の言葉がとても暖かくて、
私はいつもだれかに支えてもらえていたと思う。
この知らない世界でもそうだ。
「ありがとうございます」
私は顔を見てお礼を言う。
お姉さんは笑顔で返し、立ち上がると器を下げていく。
「あの、足大丈夫ですか?」
私は杖をついて引きずる左足のことを聞く。
「ああ、これは今回のことでなったわけじゃないから大丈夫よ」
過去に負傷していたもの。
あまり迂闊に聞くべきではなかっただろうか。
「前に壁が壊された時、私も兵士の一員として戦ったんだけど、その時にやられちゃって」
お姉さんの器を洗う後ろ姿を眺めながら、なんて言えばいいのか迷う。
「だけど、私は助けてもらえてこうして生活していける。守ってくれた人たちの分も、私も出来ることはやらないとね」
お姉さんは器を洗い終え、私の正面へと座り直し、
「トルテュちゃんは、ちょっとリンツと似てるよね」
と急に言う。
「えっ、そんな全然ですよ」
「そうかな?」
「リンツはしっかりしてて、剣さばきとかも凄くて、何事にも立ち向かっていけて」
「うふふ、じゃあまだ知らないのかも」
「まだ会ってそれほど経っていませんから」
「自分のこともよ」
自分のこと、と言われてもあまりピンとこなかった。
会ってすぐのお姉さんに見抜かれているようで、なんだかモヤモヤする。
「リンツはねえ」
お姉さんは、私の顔をまっすぐ見つめる。
「何事も一生懸命で、それがちょっと危なっかしくて、意地張っちゃうコトもあるけど、優しくて、人思いのいい子だから。良かったら支えてあげてくれる?」
「はい、私にできることがあればもちろん」
「ありがとう」
お姉さんの優しい眼差しが、リンツへの愛を想わせた。
「それでは、色々ありがとうございました」
私は着替えを済ませ、お姉さんに改めてお礼を言う。
「きっと無茶はしないで、気をつけてね」
見送る彼女の表情は、どこか物悲しさを感じる笑顔であった。
柵が補修された村を後にし、私はひとり、壁に穴が空いた場所へと向かって行く。
まだメトラージが周辺を徘徊している可能性があるため、道中では兵士たちが辺りを警戒していた。
この世界に来てから始めてひとりで歩く。
知らない道、揺れる木々、伸びていく影。
それだけでとても不安な気持ちが襲ってきた。
ヨージさんは無事でいるだろうか、リンツはちゃんと休めているのかな。
二人のことが頭に浮かんでくる。
ほんと、支えてもらってばかりだ。
二人を目指して足を動かす。
ひとりで歩く道中は長い。
どれくらい歩いただろうか。
ようやくヨージと別れた場所へたどり着く。
そこには、おびただしい数のメトラージが倒れていた。
「凄い」
改めて思い知らされる。
動かず、その場に倒れているだけなのに、足を運び入れるのに躊躇してしまうほどの数と異形。
それでも、合間を縫うようにして、足を踏み入れて行く。
急に動き出してこないか、緊張してしまう。
そのまま進むと、多くの兵士たちがメトラージを運び出している姿が見え、
更にその奥、壁を眺めるリンツと総司令官のトタールが話し込んでいた。
ヨージの姿は見当たらない。
「お疲れさまです」
私は二人に声をかけると共に、壁を見た。
壁は上方まで壊され、その瓦礫とメトラージが積み重なって山となり、向こう側との通行を塞いでいた。
「お疲れさまですわ、お加減はもうよろしいのですか?」
リンツがこちらに振り返り尋ねる。
「大丈夫です。ありがとうございました」
私のお礼に、リンツは笑顔で返す。
リンツも、普段のリンツのようだ。
「では、状況を説明させていただきますわ」
リンツは改めて壁の方へ体を向ける。
「ご覧の通り、壁は塞がれております」
「これはヨージさんが?」
「そう考えてます。このような芸当が出来る方は、他にいないでしょうし、先に駆けつけた者の話でも、既にこのような状態だったそうですから」
確かに、穴が空いていたとしても、私ならそれを崩すことさえ難しく思う。
「ヨージさんはどちらに?」
「こっちで掃討ついでに捜索はしてみているけど、見つかってないの」
トタールが不機嫌な顔で答える。
「ですので、向こう側にいる、と考えていますわ」
「向こう側に……」
これだけの大群を相手にしてそのまま突入したというのか。
無事でいられるものだろうか、不安が募る。
きっとここに倒れている何倍ものメトラージがいるはずだ。
「じゃあ、私も向こうへ行ってきます」
兎にも角にも、ヨージさんを探し出さないと。
「お待ちになってください」
「リンツ」
止めるリンツを、険しい表情で呼び止めるトタール。
「もう決めましたので」
「勝手に決めないでって言ってるじゃん」
トタールの真剣な口調に、私はなにが起きているのか、見ていることしかできない。
「ですので、軍は辞めますわ」
「それが勝手なんだって」
互いにまっすぐ顔を見てそらさずにいる。
「今までお世話になりました」
「向こうに発端のもとなんてないかもよ」
「あるかもしれませんわ」
「死ぬかもよ」
「覚悟の上です」
「お姉ちゃんはいいの?」
リンツの瞳が揺れるが、それでも強い口調で話す。
「お姉様にはもう話してきました」
「……」
リンツはトタールへと、語りかけていく。
「トタールさん、私はもう、このような壁を終わりにしたいのですわ。
上の方針通り、壁さえ守れば、今までのように暮らしていけるのかもしれません。けれど、私は、彼女たちのような救世主が現れた今を、逃したくはありませんの。」
お互いに口を結び沈黙となるが、やがて肩を落としてトタールが折れた。
「わかったわよ、もう」
「ありがとうございます」
「ほんと、誰かに似て頑固なんだもん」
ため息をつき、近くの村にいる誰かを思う。
「はあ、私も辞めたいなー」
「総司令官がなに言ってるんですか」
「お飾りだもん、こんなの」
トタールは上空を仰ぎ思いっきり一伸びして息を吐く。
「トルテュちゃんごめんね、この子のこと頼める?」
「はい、もちろんです」
リンツも来てくれるなら、私としてはとても心強い。
「こちら側は、しっかり守ってくださいまし」
「そうねー。今回みたいなことないようにしないと」
互いに微笑み合った。
「さて、ではご一緒させていただきますわ」
リンツは私の方へ顔を向ける。
「はい。どこから中に向かうんですか」
「それは、こちらからでしょう」
リンツの顔が瓦礫の山へと向けられた。
「えっ」
「さあ、行きますわよ」
リンツは瓦礫へと近づき、ひとつひとつ確かめるように登っていく。
遅れを取った私もそれに習い、恐る恐る手足を進めていく。
パラパラと落ちていく破片が恐怖心を煽った。
先行きは不安だ。
「無茶はしないでねー、危なくなったら戻ってくるんだよー!」
トタールの大声が届いてくる。
私たちは、山を越え、壁の向こう側へと進んで行く。
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