2019年4月①

あれは恋だった。


僕の人生でたった一度の、一目惚れといつやつだった。



浪人を経てなんとか入ったW大。


中高の青い時間を、男子校で、束の間の自由に捧げた僕は、大学では早々に持ち前の人見知りを発揮していた。


あくまで、好き好んで1人でいるだけ。


そんな顔を装うのにすら慣れてしまっていたのだから、プロの人見知りである。


なんとなく話したことのある高校の同期、浪人の知り合いなんかはすぐに大学で友達を作ったみたいで、1週間もすればとっくに興味がなくなっていた。


そんな冷め切った素振りの僕とは裏腹に、W大は伝統的に新歓が賑やかしい。


大学の門をくぐるや否や、新入生を迎える溢れんばかりの勧誘は、若さゆえの熱と、期待と、青い欲に満ち満ちていた。


陽気に当てられると、どうにも素直になれない僕は、1人肩で風を切ってキャンパス内を歩いた。


そんな僕でも、入ろうと思っていたサークルがあった。

バンドサークルだ。


中学の時「カノジョは嘘を愛し過ぎてる」を見た僕は、すぐさまベースの虜になった。


ギターと違って、敢えて目立たないベースを選んだ僕を訝しむ両親を傍目に、その低音の存在感に酔いしれた。


だけど、一緒にバンドをやってくれる、楽器が弾ける友達なんてのは僕にはいなかった。


バンドメンバーが幼馴染で、クラスメイトでたまたま、なんていう奇跡は、それこそまさに出来過ぎたお伽噺だ。


だから僕は1人で。

黙々と、イヤホンから流れる音楽と自分のベースを聴く。


そんな日々が続いていた。



そんな僕にW大に通っていた先輩が、自分のサークルを見にこないか、と声をかけてくれたのだった。


ベースに至っては4年近い経歴があったし、それなりに自負もあった。


知り合いの先輩もいることだし不安もない。


新歓向けに楽器体験会をやるというから、どんなものか見てやろう、そんな高飛車な気持ちで向かった。


今思えば、なんて厄介な新入生だったのだろう。


恥ずかしくて顔から火が出る。



でも、その時。


君に初めて出逢ったその時に、僕の中で何かが動き出したんだと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る