第6話

 こうして立川は自然とサークルの中に馴染んでいき、特に岡田、小林、高村と立川はつるむようになっていった。


 大学生の意気投合などひどいものだ。酒が入ると悪化の一途をたどる。


 岡田は金がなかったから、よく小林の家で酒を飲んでいた。小林の家は大学から歩いて行ける場所にあったから、講義終わりにそのまま遊びに行ける場所としてたまり場のようになっていた。講義のスケジュールは各々によって異なるので、小林の家に時間差で集まる。自分たちが飲みたいお酒と食べ物をなんとなく買ってくるのだ。


 この習慣は大学一年の秋ごろからついた。スーパーは今時珍しく年齢確認をされることはなかったから、当時19歳の岡田でも問題なく酒を買うことができた。小林の家は六畳のワンルームとかなり狭い。その場所に小林、岡田、高村、立川がひしめき合うように、床にそのまま座るというのが恒例だった。


 講義後のグループワークなどをこなすために半分くらいは夜の20時頃まで戻ってこないこともある。ある日、岡田が小林の家に行くと小林しかいなかった。


「よし、将棋指そうぜ」


 そうなると暇なので、将棋を指すことになる。しかし、酒を入れながらの将棋になるから本来は九手読めるところが五手になり、見落とさないはずの駒を見落とす。お互いに悪手ばかりの酷い将棋を指すことになる。この日は小林が間違った。


「はい、小林これタダね」


 そういいながら岡田が盤の隅に置かれた飛車を角で取ってしまう。


「あ!おい!俺の飛車持っていくんじゃねえよ」


 大駒である飛車や角が盗まれてしまうことなど日常茶飯事になる。そのまま形成が逆転することはなく、対局はそのまま終わってしまった。


「ハイ終了、俺の勝ち」


 小林の玉を詰ませる最後の一手を指し、岡田が得意げに王様を取り上げる。


「は~腹立つ、ふざけんなマジで。もう一局やるぞ」


「まあお前となら何回やっても同じだけどね」


「うぜ~」


 などという会話をよくしていた。そして次の局では酒もさらに重なり、とんでもないミスをして岡田が負けて立場が逆転するのである。


 しばらくすると講義を終えた高村と立川がやってくる。小林が玄関に行くと、二人ともそれぞれレジ袋をさげていた。


「お、おかえり~。講義おつかれさん」


「おいっす~」


「よっしゃ、やるか」


 四人集まると、麻雀をやったり、小林が持っているニンテンドースイッチの対戦ゲームになったりするのが常だった。この日は麻雀だった。


「よし、やるぞ」


 そう言いつつ小林がちゃぶ台を広げる。ただでさえ狭い一人用の部屋なのにそこにちゃぶ台が加わるのだから、部屋の中は満足に足も伸ばせない状態となる。


 酔っぱらいの会話などとりとめがなく、あちらこちらに話題が広がっているがその端々を岡田は今でもよく思い出すことができる。とても昼間には話すことのできない猥談や授業の話、サークルの話に流行りの歌の話、アニメの話をしながら麻雀を打つ。そして雑談に花が咲いて麻雀牌に目がいかなくなった頃に、大体誰かからロンと言われる。


「おいおいおい」


「それは落としちゃダメでしょ、ハイ、満貫で12000点ね」


 得意げな顔をする高村に対して、は~、ふざけやがってと振り込んだ岡田が悪態をつく。岡田の点棒は半分近く削られることとなる。その局は結局振込が響いて、岡田は四着となってしまった。


 このように誰かの家で遊んでいるだけではなく、たまに酒を飲みに街に出ることもあった。正直かなり迷惑をかけたほうだと岡田は考えている。立川を除いて、遊びには岡田も小林も高村も慣れていない。だから羽目の外し方も慣れておらず、眼を覆いたくなるような事態に発展することもある。


 大学のキャンパスの裏門から出て、三分ほど歩いたところにある雑居ビルの一角に、将棋サークル御用達の居酒屋があった。居酒屋といっても全部で六~七席のカウンター席しかないもので、70くらいのお婆さんが一人でやっていて他に誰もいなかった。たまに金に余裕があるときは、部室で夜の八時頃までのんびりしてからその居酒屋に行く。その日も四人で行くことになった。確か、一学期のテストが終わったから行こうということになったのだと岡田は記憶している。


「あらいらっしゃい、久しぶりだね」


 店を開けると開けた厨房に立っているお婆さんが声をかけてくれる。


「おばちゃん、久しぶり」


 暖簾をはじめにくぐった岡田が返事を出した。ほかの四人もどやどやと入ってくる。高度経済成長期に建てられたと思われるビルは天井が低く、背の高い立川には多少苦しそうだが、本人はそれも楽しんでいたようだった。


「ビールがいいのかな」


「うん、とりあえず4本頼む~。あとおでんを20本くらい」


 店の名物はお婆さんが昼から仕込みをしてくれているおでんだった。一本100円ほどで食べることができ、学生だからとサービスをしてくれることもあるから四人はますます行くようになった。


 おでんとビールが来て乾杯をしていると、お婆さんが話しかけてきたりする。最近の大学のことや若者のことが気になるらしい。話しかけられることは四人とも嫌いではなかったので、よく大学の話や最近の流行りについて話すことが多かった。ところがこの日はなぜか恋愛の話になってしまった。

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