32:賑やかなひと時より

 なんやかんやで命懸けの迷宮攻略を終えてから数日。俺はいつものように病院を訪れていた。

 両親は相変わらず寝ており、大きな部屋は静かだ。まあ、親父が起きてたあの時が特別だったんだろう。


「またな親父、おふくろ」


 必要なものを置いて俺は病室を出る。なんやかんやでいろいろあったが、今となって思えばいい思い出だ。

 カナエと出会えたし、なんやかんやで活動しやすくなったしな。


 だけど、引っかかることがある。なんであんな試験をしたんだ? あれじゃあまるで、同じ探索者が敵対する想定じゃないか。


「考えすぎか」


 ま、どんなことがトラブルになるかわからないか。そんなことより借金があるんだ。早くクエストを達成して足しにしないとな。

 そんなことを考えながら病院を出るとスマフォが唸った。どうやらカナエが配信を始めたという通知のようだ。


 俺は何となく配信アプリ〈Wetube〉を開くと、そこには元気なカナエの姿があった。


『みんなおっはよー!』

〈おはよー!〉〈おはー〉〈おはおは〉〈おっはー〉

〈かなちーん!〉〈おはー〉〈おはー〉


『今日はなんと! 朝から夜まで配信ぶっ続けちゃうぞ!』

〈マジ!〉〈うわあああ〉〈会社休む〉〈仕事いやー!〉

〈働きたくない〉〈おらに時間を!〉〈見たいー!〉

〈く!仕事!〉〈隠れてみなきゃ!〉


『さて、本日の企画はこれだ!――〈一日かけて作れるか? はじめてのエリクサーの調合〉』

〈おおおおお!〉〈おおおおお!〉〈おお!〉〈マジか!〉

〈まじー?〉〈エリクサー作れるの?〉

〈やば〉〈ノリが三分クッキング〉〈かなちんキッチン!〉


『でも、私エリクサーなんて作るの初めて! だから今回頼もしいゲストを呼んでるんだ。ということでカモン頼もしいゲストちゃーん!』

『みんな、おはよー!』

「ぶぅぅぅぅぅ!!!」


 俺は自販機で買った缶ジュースを口に含んだ瞬間、盛大に噴き出した。

 なぜならカナエちゃんねるになぜか翠の姿があったためである。


「ゲホッ、ゲホッ! 何してんだあいつ!」


 つーかなんで一緒にいるんだ?

 というか、え? エリクサーを調合するの?


〈おおおおお!〉〈おおおおお!〉〈おおおおお!〉〈おおおおお!〉

〈翠ちゃーん〉〈翠サマー!〉〈翠サマだー!〉〈神々しい〉

〈生初めて見た〉〈かわいい〉〈やべかわいい〉


『みんな初めまして! 翠です。今日は一生懸命に頑張るよ!』

『頼もしいゲストが来たし、さっそくやってくよ! レッツクッキング!』


 いや、調合だろ。

 俺がツッコミを入れる中、カナエと翠の共同作業が始まる。それはまあ、なかなかに面白くひどいもの。


 何はともあれ、本日もカナエちゃんねるは大盛り上がり。俺は頭を抱えつつも、楽しんでいる翠を見て、「まあいいか」と諦めたのだった。

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借金返済のために迷宮攻略してたら有名配信者に懐かれました ~アカ氏の迷宮配信~ 小日向ななつ @sasanoha7730

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