第27話 フィリップ・K・ディック「ユービック」(前)

☆前置き

ディック作品に関しては、話がややこしくSF的なギミックが使われているため、用語解説から入るのが定番でしたが、今回は必要ない……かな?


プレコグ(未来予知者)・テレパス(心を読める)といった、

いつものエスパーが出てくる以外は、前知識として必要なものはないかもです。


☆あらすじ前半 爆発まで

1992年6月(書かれたのは60年代なので未来です)、ランシター合作社が追っていたホリス(ランシターの不倶戴天の敵らしい)所属のテレパスがまたも姿を消した。

最近、異能力者の失踪があまりにも多い。

今回も敵テレパスを不活性者(反超能力者:能力を無効化できる人間)が尾行していたところ、見失ったのだ。


ランシター合作社は、反エスパーの警備会社。

ホリス所属のプレコグ、テレパスなどの異能力者の犯罪に対する、警備会社である。


ランシターは亡くなった女房に相談することにした。

フォーゲル・ザングの経営するモラトリアムに、ランシターの妻エラは安置されている。


モラトリアムとは、亡くなった人間を冷凍保存することで、限られた時間分だけ復活させることができるシステムだ。

例えば2000時間ぶんの半生命が残っているならば、1時間を2000回使ってもいいし、10分を12000回使ってもいい。

もちろん維持費はかかるけれども。

半生命の寿命が尽きれば、今度こそ本当の死を迎える、ということになる。



モラトリアムにランシターがやってきた。

エラは20歳で亡くなったが、非常に頭脳明晰な女性だった。

ランシター合作社の共同経営者として社の重要な決断には、常に彼女の助言を頼りにしている。

ランシターがやってきたのは2年ぶりだ。

彼は既に80歳だ。人口内臓などを多数利用していることだろう。

エラの美しい目はもう開くことはない。表情が動くことはない。

けれど、ヘッドフォンをつけ、機器を使うことで話をすることができるのだ。


エラは夢を見続けていた。それも、他人の夢を。

半生命同士の精神が融合して、他人の夢を見続けていると言うのだ。

ランシターはエラに、メリポーニ失踪の話をした。

一年半前に彼が探知されて以来、常に監視してきた、強力なエスパーなのだ。

「テレビの広告を強化し、大衆に注意を促すのよ。つまり……」とエラは言いかけ、一度遠のきかけ、また戻って来た。

エスパーがいなくなったことで、反エスパーの需要がなくなったことも問題だし、

エスパーが集団で隠れて何をしているのかも気がかりだった。


エラの反応が途絶えた。

と、突然「僕の名前はジョリーだ!」という声が聞こえた。

「僕はジョリーだよ。誰も僕に話しかけてくれない。だからしばらくおじさんと話したいんだ。おじさんの名前はなんて言うんだい?」

「こちらは金を出して妻と話に来ているんだ。エラ・ランシターだ」

ミセス・ランシターは知っているけれど、やっぱり生きている人と話したい、プロキシマへの星間旅行はどうなっている?などと喋るジョリーを無視し、ランシターはモラトリアムの職員を呼びに行った。

責任者のザングが言うには、冷凍保存されているエラの棺がジョリーという少年の隣に安置されているのだという。そのため、霊波が融合したり、一方通行が起こったりするというのだ。

「あいつを妻の心から追い出して、妻をわしに返してくれ! さもないと告訴して、営業停止に追い込んでやるぞ!」とランシターは激怒した。


個室に入れれば、脳が混線することはなくなるが、夢の中で反生状態の人々と交わる事が出来ない。

ジョリーの脳波はエラの中に、半永久的にもう混在しているという。



☆パットの過去遡行能力

ジョー・チップは伝送新聞機の太陽系ニュースを読んでいた。

「人間嫌いの大富豪スタントン・ミックは、未曽有の巨額融資を受けている。いったい何を企んでいるのか」というニュースだった。


ランシター合作社のスカウト、アシュウッドが訪ねてきた。

ランシターに紹介する前に、チップの元で19歳の女性不活性者の有望株をテストしたいという。

超能力を持つ親に対して、中和能力を発達させる形で、不活性者になるパターンは多い。彼女の親もまた、プレコグ(未来予知者)だそうだ。

ジョーの住むマンションは、ドアを開けるだけで5セントをドアに要求されるのだが、ジョーは無一文で、それすら払えないのだった。


「こちらはパット」とアシュウッドが言った。

パットの能力は反プレコグだという。それも時を逆行するというのだ。

過去に行くことはできないが、過去を変えることができる。

変えたい過去を思い浮かべ、強く念じる事で、できるのだ。

彼女の父は、パットが子供の頃、彼女が像を壊す未来視をして一週間も前から彼女にお仕置きをした。

パットは悔しくて像が壊れた後、悔しくて像が壊れない過去を思い浮かべ続けた。

ある日、像は元に戻っていたが、両親はそれに気づかなかった。


パットのいたトピーカのキブツではシャワーも扉も無料だった。

パットは服を脱ぎ始めた。ジョーは喜びながらもそれに仰天し、パットに本当にいいのか?と聞いた。

すると、パットは言い始めた。

服を脱がなかった未来では、ジョーが反能力テストを改竄したという。

その証拠の紙片をパットは彼に突き付けた。

これをもってしても、パットの能力はもう確認されたようなものだ。

それでもジョーがテストを強行しようとすると、

「自分が外に出るために、ドアに払うお金さえない官僚主義者のくせに」とパットに言われてしまった。

ドアを開けるにも、冷蔵庫を開けるにも、シャワーを浴びるにも、何をするにしてもお金を取られるのだ。

反プレコグの能力をジョーの機械でテストするなど不可能だ、とパットは言う。

過去に作用して、過去で力場が発動するのに、現在の力場を図っても意味がないのだ。

ジョーは、こっそり『社にとって有害、危険人物』と書き込んだ。



ランシターはニューヨークの自社へと戻って来た。

反能力者への広告の頻度を高めたいという。


女性客のミス・ワートがやってきた。社内でホリス側のテレパスの被害に遭っているという。

しかし、ミス・ワートは急げというばかりで詳細な情報を明かそうとしない。

そこで、ランシターは自前のテレパスを隣室に呼び寄せ、ワートを探らせることにした。

テレパスの報告によれば、ミス・ワートは大富豪で人間嫌いの変人、ミックの配下であり、ルナでの仕事を頼みに来たのだという。

ミックは40人の不活性者を、大金を叩いてでも手に入れたいと考えていると、テレパスは言った。

しかし、ミックは大金持ちだということが知られているため、足元を見られるのが嫌さに、

身分を隠そうとするのだという。

消えたホリスのテレパスたちは、ひょっとするとミックの所に潜り込んでいるのかもしれない。


ランシターのところに、ジョーとパットが来ていた。

ランシターはジョーの、パット能力査定表を見た。

優秀だが、裏切りの可能性がある危険人物だと書いてある。

ミス・ワートは「11人の不活性者」が欲しいと言った。

ランシターは初任給をケチり、低額でパットと契約した。



反テレパスのティッピー・ジャクソンは、仕事が急になくなったのでたくさん寝る事にしていた。

ある日、ホリス側の最強テレパス兄弟が夢の中に現れた。彼らはビルとマットと名乗り、「今に俺たちがお前を消すという事さ!」と彼らは言った。

ランシターからの電話でティッピーは目覚めた。


ミックへ投入する11人の選抜メンバーに、ティッピーが選ばれたという。

ティッピーの夢には、読んだこともない詩が出てきた。

そのこととホリス側のテレパス&プレコグの兄弟の事を伝えた方が良いのだろうか、とティッピーは不安になった。


ランシターはパットの事を、反プレコグではなく、過去遡行ができる能力者だと考えていた。

ジョーは、パットを危険人物だと書いてきたくせに、11人のメンバーに入れるようにごり押しをしているという。ランシターはジョーの心の狭さを見破っていた。

11人のメンバーが、ランシターの元に集まった。

パットもそのメンバーに入っていた。


と、唐突にランシターはアメリカの古銭コレクションをウィンドウショッピングしていた。

ランシターは古銭になど興味がないのに。

彼は、11人のメンバーを集めたが、何の仕事をしているのか忘れてしまった。

去年、心臓発作で引退したことをランシターは思い出した。

しかし、今しがたオフィスにいたこともまた思い出した。

眼をつぶると、また11人のメンバーと共にオフィスの中に戻っていた。パットの事を彼は思い出せなかった。

パットが、また過去変更の能力を使ったらしい。

彼のオフィスは、いつの間にか上品な美術品がなくなり、粗野な美術品が飾ってあった。

それについて、ジョーだけが気づいていた。

「ここで夫婦喧嘩はやめてくれ」とランシターは言った。

「夫婦喧嘩!?」

パットの指には結婚指輪がハマっていた。1年前、ジョーは彼女に指輪を贈った事を思い出した。

「なぜ、スタントン・ミックがわが社ではなく、他の会社に契約を持ち込んだのか、考え直さなければならん!」とランシターは言った。

ジョーは、パットが何か超能力を持っていた気がした。別の時間線でそれについて聞いた気がする。

パットはランシター社では働いていなかった。ただ、夫のジョーについて食事に立ち寄っただけだった。

パットについて調べると、ジョーのテスト報告書が見つかった。

そこには、アンダーラインされた二つの✖印「危険人物」のマークがあった。

ランシターは急に思い出した。やはり、ミックの依頼はランシターに持ち込まれたのだ。

パットに何ができるのかをランシターが尋ねたところ、パットはその能力を見せたのだ。


11人の一人、スパニッシュ・フランセスカは記憶を持っているようだった。

「誰かが、私たちみんなを異世界へと連れて行きました。そして、私たちはまたここに戻ってきました」と言う。

「それはパットだよ」とジョーは言った。

アポストス氏は「昨夜遅く、ホリスの手先の2人と接触した」とジョーに告げた。

テレパスとプレコグが連携を取っているらしい(恐らくフランセスカのところに現れた兄弟)。



11人の反エスパー+ジョー・ランシター・ワードの14人はルナに到着した。とはいえ、ランシターは11人の活動が始まったら地球に帰るという。

皆が、ビルとマット(ホリスの手下の兄弟)の夢を見ていた。

そこに、スタントン・ミックが皆の前に現れた。

ミックもワードも念力場測定を禁止させたがったが、ランシターはテストを続行した。

結果は、念力場は存在しないとのこと。つまり、ランシター一行以外のエスパーは周囲にいないということだった。

ランシターは早急にここを離れる事を決めた。

するとスタントンは自爆型爆弾を使った。理由はわからないものの、敵の罠だったのだ。



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