第26話 フィリップ・K・ディック「高い城の男」(下)

タゴミの元にようやくヤタベ氏(=テデキ将軍)が現れた。

ヴェゲナー(バイネス)も現れ、タゴミ・テデキ・ヴェゲナーの三者会談が始まる。


ヴェゲナーが告げたのは、『タンポポ作戦』という恐るべき情報だった。

日本列島本土に核を落とすナチスの破壊的な作戦だ。

留まる事を知らない支配欲につき動かされるナチスは、地球全土を手中にしたいのだ。


ボルマン首相の死によって、その時期は変わった。

タンポポ作戦を支持する後継者候補と、支持しない後継者候補がいるという。

ゲッベルス新首相は、タンポポ作戦の支持派だ。

タンポポ作戦の反対者は、SSのハイドリヒ将軍。

ゲッベルスの参謀にはローゼンベルグがついており、警察(SS・SD)は宇宙植民地(月・火星・金星)を統治することになった。

警察は宇宙計画を推進し、タンポポ作戦には不賛成なのだ。

ゲッベルスが権力を完全に掌握するまでまだ数か月はかかる。

ナチスにおいて最も野蛮な、ハイドリヒが権力を手中にすればタンポポ作戦は回避される。

日本にとっては、最も嫌悪すべき人間を、ナチスの首相に押し上げることこそが国益にかなうのだ。


ハイドリヒと親密で、ドイツ国外にいる人物や、東京とベルリンを始終往復しているような人物にわたりをつけることが重要だ、とヴェゲナー。

イタリアの外相を通じて、ハイドリヒに接触するのが一番だろう、と。


三者会談を聞きつけたメーレが、SDがこのビルを包囲し始めた。

タゴミも銃で武装した。


フランクは銀のイヤリングを作っていた。

フランクの商品は、全く売れず、彼は辞めると言い出した。

そこに、サンフランシスコ警察がやってきて、逮捕令状を見せた。

チルダンに詐欺を働いた罪だ。

警察にユダヤ人だということもバレてしまった。

フランクは逮捕された。


タゴミたちは救援を求めようとしていた。

そのおかげもあって、憲兵隊が救援に向かっている。しかし間に合うだろうか?


タゴミはライス大使に電話をした。

ライス側は引き延ばした末、電話に出なかった。


タゴミは、次にメーレに電話した。

精一杯、悪態をついてヒステリックに騒いで見せる、とタゴミは言う。

「私は大日本帝国政府の顧問、タゴミだ。貴様ら殺し屋と変質者を逮捕した。口にするのも汚らわしい、常軌を逸した金髪の野獣ども。焼夷弾で貴様らを皆殺しにしてやるぞ。文明社会の恥さらしども!!」と大喝すると、電話の向こうではSDの下っ端が動揺した。

(基本穏やかなタゴミさんなので、このシーンは割と迫力がある)


タゴミは電話をしながら、バイネスにウィンクをしてみせた。

「選択の余地はないようだな!」とタゴミは電話を切った。

SDが部屋に突撃してきた。タゴミは骨董品のコルト銃で、銃撃戦を演じ、SD隊員たちを殺した。

やがて憲兵隊がやってきた。

「悪質な事件です。サクラメントの政府が即刻、ナチスに宣戦布告するほどの理由になる」とタゴミは言ったが、バイネスは、恐らくナチスはのらりくらりとかわすだろう、と言った。

正当防衛ではあったが、タゴミは落ち込んでいるようだった。


デンバーで、ジュリアナはジョーとショッピングを楽しんでいた。

ジュリアナはジョーの金で、大量の服や鞄、アクセサリー一式を買い込んだ(こいつ……)。

ジュリアナがセクシーなドレスを買うと、ジョーは

「アベンゼンのところに行くときには、この服を着るんだぞ、いいな!」と命令するように言った。

ジョーは理髪店に行くと、ショートカットの金髪になって戻って来た。

ジュリアナの買い物があまりに長いので、ジョーは苛立ち始めた(当たり前だ)。

更にナイトガウンを欲しがるジュリアナに、「もう買い物の時間は終わりだ!」とジョーが怒鳴る。

ちゃんとした高級なホテルにしてほしいわね、とジュリアナは思う(図々しい女すぎて萎える)。


ジュリアナの望みどおり、高級ホテルに二人はチェックインした。

「アベンゼンのところに行くのはいつにする? 3日ぐらい泊まってからにしましょうか」とジュリアナが言うと、ジョーは

「今晩出発だ!」と言った。ジュリアナはとても信じられなかった。

「食事が済んだらな。で、あのドレスを着ろよ。わかったな!」とジョーは命じ、バスルームの方に向かった。

「今夜はもう遅いわ」とジュリアナ。

「いや、向こうについてもまだ20時半か21時だ。『デンバーにいられるのは今夜だけだ』と電話で言うんだ」

「なぜ? 今夜これからなんて行きたくないわ。この街をゆっくり見物するって約束してくれたじゃない」

「大急ぎで行ってこられるさ。その後、ゆっくり観光すればいいじゃないか」

「嫌よ」

「あのドレスを着ろよ! いいな!」

「フランク、助けてちょうだい」とジュリアナは心の中で言った(お前がフランクから去って、ジョーなんかとくっついたんだろ……)

「そのドレスを着ろよ、着ないと殺すぞ!」


(あのさぁ……ジョー、頭悪すぎない?? 普通に考えてアポなしで当日夜21時に会いに行くなんておかしいし、1時間滞在したとして、帰ってくるの0時過ぎでしょ? なぜ明日じゃいけないのか、意味がわからん。殺すぞ、とかバッカじゃねぇの?? 事を荒立ててジュリアナを警戒させる意味がどこにあるの? 普通に説得して、明日朝に行くことにすればいいじゃん)


「殺すですって? それなら、あんたを永久に不具にしてやる。行きたいならあんた一人で行きなさいよ。あたしに手を出したら本当にやってやる」

「おい、いい加減にしろよ! 早くそのドレスを着ろったら。気でも狂ったのかい? 人を殺すだとか不具にするだとか。俺は食事の後にドライブにでも行こうと誘っているだけじゃないか」


(どこから突っ込んでいいのかわからんぐらい、ジョーは頭が悪い。いい加減にするのはジョーの方だし、気が狂ってるのもジョーの方だし、殺すと最初に言ったのもジョーだし、脅し一辺倒でアベンゼンのところに無理やりジュリアナを連れていけると思っているなら、知能指数0だわ。

最初からいけ好かないクズだったジョーと、セックス三昧して貢がせてたジュリアナもジュリアナだが)


そこにルームサービスがやってきた。

買ったばかりのYシャツを渡し、アイロンがけしてほしいと言う。

「あんた、ほんとは元々金髪で、黒髪のカツラを被ってたんでしょ? イタリア人なんて嘘で、ナチスのSDでしょ? アベンゼンを殺すために来たのよね、違う?」

とジュリアナが(ようやく)気づくと、ジョーもそれを認めた。

「俺は早くドレスを着て、一緒にドライブに行ってほしいだけだ」

「どうやって彼を殺すつもり?」

「いいからドレスを着てくれよ」(何度同じこと言うんだよ。普通、協力しねぇだろ)

「どうして私を連れて行かなきゃいけないの?」

「アベンゼンは、地中海人種の女が好きなんだ」

吐きそうだ、とジュリアナは言ってバスルームに入った。薬戸棚の中に安全剃刀の替え刃を見つけた。

ジュリアナはぼーっとしていて、服を着たままシャワーを浴びてしまった。ジュリアナは裸になって泣き出した。

『ユダヤ人と結婚していながら、ナチスと寝た罪の報いだわ』と彼女は思った。

「君は頭がどうかしてる! 仕方がない、明日まで待とう」とジョーは言った(最初からそうすれば、疑われなかったのに、バッカじゃねーの?)


ジュリアナが「バイバイ」と言って部屋を出ようとすると、ジョーは掴みかかってきた。

ジュリアナは振り返りざま、剃刀の刃でジョーの喉を切り裂いた。

「嫌ね、男はすぐに乱暴するんだから」とジュリアナは呟き、廊下を歩きだす。

しかし、ホテルの女性に部屋に連れ戻された。全裸のまま部屋を出ていたようだ。


首の傷を掴んだまま、ジョーは言った。

「俺の大動脈を切った……」

「頸動脈よ」とジュリアナはくすくすと笑った。

「この手を離すと、出血で命が持たない。だから誰かを呼んできてくれ。わかるだろ」

「自分でやれば」

「傷口をうまく塞げないんだ。だから動けない。ここでじっとしていなきゃならない」

ジュリアナはコートとスーツケース、手に持てる限りの荷物を持った(殺したついでに、貢いでもらった品物はもらっていくジュリアナww)。


「色々あったけど、さよなら」

ジュリアナの荷物はボーイが歩道まで運んでくれ、彼女は自分の車に乗った。

ホテル代はジョーが払ってくれると、皆は思っているようだった。

ジョーのために人を呼ぼうか、と思ったが、やはりやめることにした。

ジュリアナは易を立てることを思いついた。


「私はどうすれば良いでしょう? お願いです、教えてください」と念じる。

『行って、事を為すがよろし。大河を渡るがよろし』

旅の事だわ、と思った。

『凶事を通じて益を受く。君主に印璽を持てば咎なし』

君主とはアベンゼンの事だろう。

他にも、殺し屋がアベンゼンを撃つ、ジョーの代わりの殺し屋がすぐに来る、すぐにアベンゼンに警告せよ、と易は告げていた。(易、最強)

ジュリアナはモーテルに泊まり、翌日アベンゼンを訪ねるべく、今夜のうちに電話をかけることにした。

アベンゼンの妻が電話に出た。

「私は何もお約束できません。でも、それを承知の上でお越しになるのであれば」と妻が言うと、

ジュリアナは了解した。

「聞いてください。易を立てたら、シャイアン(アベンゼンの住居)に行くように、と出たんです。

今、易を読みます」

殺し屋が来る話、凶運、危うきこと有り、という卦を読むと、アベンゼン夫人は真剣になった。

ジュリアナは電話を切ると、モーテルにとまった。



タゴミは人を殺したコルト45口径を手放したかった。

彼はチルダンの店に行き、この銃を他の品と交換してもらおうと思ったのだ。

今日のチルダンは様子が違う、とタゴミは思った。

タゴミがコルトを見せると、チルダンは少し冷淡になった。

タゴミはチルダンの顔色を察し、無理押しはしないことにした。

チルダンは、タゴミにフリック&エドの装飾品を見せた。

タゴミはその装飾品に少し心を奪われたが、その良さがよくわからなかった。

チルダンが他の品物を見せないので、タゴミは「君は他の商品を見せてくれないね。押し付けがましすぎるようだ」と言ったが、チルダンは委縮しなかった。

「いずれ、近いうちにまた訪ねてくるよ」とタゴミは店を後にしたが、気持ちを変えて、

「やはり、装身具を一つもらうことにするよ。今は藁にもすがりたい想いなんでね」とタゴミ。

「2か月たっても、良さを感じられなかったら、全額返金いたします」とチルダン。

「これで気持ちが落ち着きますよ! この商品は、良さがわかるまで時間がかかるんです!」と、チルダンは装飾品をタゴミに渡した。


タゴミは公園のベンチで、購入した装飾品をじっと見つめていた。

しかし15分眺めても何も起こらなかった。

悲しいかな、大人になると時間に追われるようになる。

タゴミは耳に当てて見たり、装身具を嗅いでみたり、なでてみたり、クラッカーのように口に放り込んでみた(ww)。しかし、何も起こらない。五感を総動員してもダメなのか。

それでもいろいろな角度で光にかざしたり、瞑想してみたりした。どこか深い世界に入り込めたような気がしたが、通りすがりの白人警官に「知恵の輪ですか?」と話しかけられ、現実世界に戻ってしまった。


タゴミは歩きかけたが、タクシーが見当たらない。

どうも視界が定まらない。道行く人々の忙しない歩み。自動車はどれもこれも見慣れない形をしている。

地平線が歪んで見える。行く手に白人ばかりが食べている軽食堂があった。満席だった。

タゴミはいつもの癖で「どかんか!!」と大声をあげた。

(太平洋岸連邦は日本人が支配者なので、白人はお辞儀をし、時には席を空けなければならない)

「ふざけるんじゃねぇぜ、東条!」と返された。誰も席を立たず、敵意の視線を感じる。

タゴミは店を出た。ここは俺の時空間じゃない。

装身具がない。書類鞄もない。大変だ。公園に置いて来てしまったらしい。

公園には鞄も装身具もあった。

もう一度、装身具に集中しよう。焦点ボケはどうやら収まったらしい。

タゴミは公園で遊んでいる子供たちにお金をやり、タクシーが走っているかどうか見てきてほしいと言った。

子供たちはタクシーを6台見た!と言った。

タゴミが呼ぶと、タクシーがやってきた。「日本タイムズビル」行きをタゴミは頼んだ。

(世界線を超えたのは、このシーンのタゴミだけ!)


日本タイムズビルにつくと、タゴミはラムジー(部下)に電話をした。

テデキ将軍は既に出発した後だという。

バイネス氏はドイツに帰国したのだろう。

ドイツ領事のライスがやってきた。事件の際、居留守を使った男だ。


「帰国のSD2人を殺したのはこの私です」とタゴミ。

「あの暴漢どもが、ドイツ帝国と関連性があるとは立証できません。この一件は不問に付すという事で、紳士協定を結びませんか?」とライス。

「しかし、私の魂に罪悪感は残ります。血の染みは、インクのようにあっさり消えてくれません」。

「今、貴国はこれまで以上の堕落に突き進みつつあります。日本政府の代表者ではなく、一個人として申します。あらゆる比較を超えた、大流血が行なわれようとしている。なのに、あなたはちっぽけな利己的欲望でしか動いていない。対立候補のSDをうまく出し抜こうとする、とか。

貴国の指導者たちの計画に対しては、『悔い、改めよ』としか言えません」


二人の会見中に、タゴミのもとにフランクの送還の書類が到着した。「釈放せよ」とタゴミは記入し、ライスに向かい

「それではこれで。今後の交渉は、郵便・電話・電信などでおすましください。直接お会いにならずに」

「あなたは、私の関知しない上層部の事まで、私の責任にしておられます」

「寝言をほざくな」とタゴミは歯ぎしりするように言った。

「これは文明人のやり方ではない。この種の問題は私情をさしはさまずに、形式的に処理すべきなのに」ライスは煙草をポイ捨てして出ていった。

「その臭い煙草を拾っていけ」とタゴミは呟いた。

あまりのストレスのため、タゴミは心臓発作に襲われた。彼は長椅子に運ばれた。

どのみち、俺のキャリアは終わった、とタゴミは思った。



夕方、フランクは釈放された。

フランクが共同工場に戻ると、エドは喜んでくれた。



ヴェゲナーはドイツ行きのルフトハンザの中で考えた。

とにかく、テデキ将軍にドイツの『タンポポ作戦』の事だけは伝えた。

ナチスの思想は、神々の黄昏ラグナロクだ。全人類の最終的なホロコーストだ。

その後に何が残るだろう? あらゆる場所で、あらゆる生命に終止符が打たれる。

人間自身が、地球の生物を全て滅ぼすのだろう。

ヴェゲナーは武装SSに取り囲まれた。ハイドリヒの息がかかった武装SSだ。

国防軍とSSが手を結んだ。

ハイドリヒは生きていて、ゲッベルス政権に対して自分の力を誇示しようとしている。

こうなると、ゲッベルス政権も安泰ではない。



ジュリアナはアベンゼンの家に向かっていた。

新聞にはジョー・チナデーラ殺害事件が報道されていた。

夫婦喧嘩という報道で、ジュリアナの名前も出ていない。

ジュリアナは「イナゴ」の本を読み終えた。

ジュリアナはフランクの声が聴きたくなって、フランク支払いでのコレクトコールをかけた。

彼なら大喜びで、お金を払い彼女と電話をするだろう(勘違い女は最後まで治らない……)

しかしフランクは電話に出なかった。


アベンゼン邸では内輪のカジュアルパーティーが行なわれていた。

ここは「高い城」どころか、普通の邸宅だった。

ジュリアナはアベンゼンに、「易経を使って小説を書いたのか」と尋ねた。

アベンゼンは巧みに話題をそらそうとしたが、徐々にいらだってきているようだった。


ジュリアナは、殺し屋のジョーを返り討ちにしたことを話した。

そして、アベンゼンに身を隠してほしいと訴えた。

アベンゼンは必死に隠そうとしたが、妻のキャロラインがジュリアナに全ての秘密を話した。


「イナゴ」の本は、アベンゼンが全ての筋に易を立て、物語を書いたという。

なぜ、易がこの物語を書いたのか、とジュリアナは疑問をぶつけた。

ジュリアナが、易に問いを掛けたいというと、アベンゼンは、ジュリアナに易を渡した。

『易経よ。あなたはなぜ、「イナゴ身重く横たわる」を書いたのですか? 私たちはそこから何を学ぶべきなのですか?』

『それが真実だから』という卦が出た。


アベンゼン本人すら、これには取り乱した。

ナチスと日本が負けたのが真実だなんて、信じられなかったのだ。

アベンゼンもキャロラインも、喜ぶどころではなく、ただただ取り乱していた。

ジュリアナは別れを告げる前に、改めて身辺の警護に気をつけて、と言った。

「奥様も、アメリカの勝利を私と同じように興奮し、喜んでくれると思っていました。でも、誤解でしたのね」。


彼女は、もう一度フランクに電話をしてみようかと思った。


☆感想


アメリカではディックの代表作と言えばこれ!らしいんですが、うーん……どうなんだろ?


まぁ、良くも悪くもディックらしくはない作品で、ややこしくて頭が混乱する事はないと思います

(パーマー・エルドリッチみたいなヤバさはない)。


日本の描かれ方が色々とおかしいのは不問に付すにしても(とはいえ、よく知らない人種を書くなら、有名人やスポーツ選手などから名前を拝借してくればいいのに、と思う。

なんだよ、タゴミとかテデキとかフマとかカソウラとか、とどめにカエレマクレとか)


ただ、はっきり言ってアクションは乏しいですし、ディックにそんなものを求める向きは少ないでしょうが、キャラ萌えもしません。

まぁ、タゴミ大臣はいいキャラしてるので、おじさま萌えにはお薦めかな?

後はエドとフランクが仲が凄く良いので、薔薇妄想するとか……ないな。

結末にしても、結局何も解決していませんしね。


つまり、本作は別の時間線を生きる人たちの生活をスケッチした作品、という趣が強く、そこにディックが持っている色々な人種・文化(ドイツ人・日本人・イタリア人・アメリカ人中心)が結構なステレオタイプとして描かれており、そこに人種差別問題が絡んでくるなぁというところです。


ディック作品には、『神』と呼べる存在が登場する事が多いのですが、

前回は『パーマー・エルドリッチ』でしたし、今回は『易経』が神ですね。

全知全能すぎて、これだけ当たるなら僕も易経にハマりそうです。


もちろん、易経が言うには、世界線1・8こそが『真実』ですので、

2・0で暮らす僕たちもまた、虚構の世界で生きているという仕掛けになっているのが若干のディック成分ではありますが、

ディック成分を濃密に浴びたいなら、彼の他作品で十分だと思いますし……。



☆ドラマ版感想

なんだかんだで13話ぐらい見てしまいました(全40話だったはず)


まず、原作とは95%別モノ。

原作レイプと言ってもいいほどですが、300ページ超の小説を、長編ドラマでやるわけですから、オリジナル要素が多いのは当然と言えば当然ですね。


とりあえず、ジュリアナは別方向でバカ娘になっていますね。

目の前の感情に動かされて、結果、恋人や恋人の家族を犠牲にする、暴走機関車。

その場の感情だけで動いて生きていそうです。


本作で相当かわいそうなのはフランク。

いきなり(原作には出てこない)親戚を皆殺しにされたり、ジュリアナのせいで酷い目に遭ってばかり。

ただ、原作ではタゴミに装飾品を渡す以外は、どうでもいい役割しかなかった彼ですので、ドラマ版ではある意味目立っています。


ジョーは原作ではクソウザナチスですが、こちらではイケメンナチスです。まぁ結局ナチスなんですが、こっちのジョーになら惹かれる気持ちもわからないではない(とはいえフランクもいい奴なので、やっぱフランクを捨ててジョーには靡かないかな)


キャラブレが少ないのはタゴミ氏で、原作よりも更に良い人かもしれないです。


他には、人のいいカソウラ夫妻がなぜかこちらでは感じの悪いヤクザ御用達弁護士にされています。

原作では勝手にチルダンが劣等感を持って内心好んだり憎んだり忙しかったですが、こちらのカソウラ夫妻はあんまり良い人には見えないですね。

それに伴ってチルダンが原作よりもマシになっています。


原作ではナチスが日本に水爆を落とそうとしているので、ナチスが完全悪役、日本はマシな役ですが、こちらでは日本がナチス統治下のサンフランシスコに原爆を落とそうとしています。

また、憲兵隊の木戸といういい味出してる悪役っぽい人がいるので、総じて日本の印象は原作より悪いです。カソウラさんたちもアレだし。

『ヘンテコ日本』は原作にある意味忠実で、切腹とかしてます。


木戸さんの他には、ジョン・スミスといアメリカ出身のナチ党員が、かなり活躍していたり、レジスタンスの人たちがよく出てきますね。

動きのない原作と違い、よく銃撃戦をしている気がしますが、別に銃撃戦に興味はない……。


ナチスの会議のシーンで「上を向いて歩こう」が流れたのは爆笑しました。何のギャグだよwと思いました。


最後まで観るかは検討中ですが、多分見ないんじゃないかな……。

積極的に「こんなの見てられるかぁっ!!」というほどつまらなくはないですが、続きが気になる!というほどでもないので、見るなら惰性で見る感じですね。 

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