第25話 フィリップ・K・ディック「高い城の男(前)

本書は、今まで解析した

「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」、

「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」に比べ、

キャラクターのアクションが少なく、ややこしさも1ランクダウンとなります。


とはいえ、『ややこしい』のがディックの特徴なので、そこら辺を最初にまとめていきます。


☆世界線1・0 本書の世界

本作は、第二次世界大戦で枢軸国が勝利した後の1960年代初頭が舞台になります。


★アメリカの東半分弱がナチス第三帝国の領土。

アメリカの西3分の1程度が、『アメリカ太平洋岸連邦』という名前で、大日本帝国の領土。

アメリカの中央が、緩衝地帯として『ロッキー山脈連邦』という形で残っています。


★ナチス

本作ではヒトラーは老齢で病気がち。

ボルマンが首相となり、ゲッベルス、ゲーリング、ハイドリヒ、フォン・シーラッハ、ザイス・イングバルトが登場します。

ヒムラーは亡くなっているようです。

本世界唯一の核保有国で、最大最強の軍事力を持ち、

火星・金星・月にまで進出。

ユダヤ人、黒人は抹殺されるため、住めません。


★大日本帝国

大東亜共栄圏と、アメリカの西海岸を支配しています。

ナチスと比較すればマシですが、憲兵隊などもいるため、油断はできません。

また、サクラメントには白人による傀儡政府(ピノック)がありますが、事実上日本の占領下と言って良さそうです。


ディックの日本観がおかしいため、日本では易経が非常に盛んです。

というより、本作の中での易経の存在感は凄まじいです。

ナチスに次ぐ世界第二位の国ですが、残念ながらナチスには科学技術で差をつけられ、国力の差で圧倒されています。


日本人の名前が明らかにおかしいため、浅倉訳ではまともな日本人名に変わっていますが、

ネット上で「『カエレマクレ男爵』はこのままで正しい!」という、ぶっちゃけ*よくわからない珍説を語っている方もいらっしゃるので、カエレマクレ男爵も含めて、原著の名前で書かせていただきます。


*カエレマクレは、ハワイにある実際の名字のため、日本国籍をとったハワイ人である。という説。

そうなのかもしれないけど、カエレマクレ男爵がハワイ人という記述は、本書中には恐らく、ない(読み落としの可能性も多分ない。カエレマクレ男爵の登場シーンはわずか2回のため)


★アメリカ

フランクリン・ルーズベルトが暗殺され、ニューディール政策が実施されていない。

ブリッカー大統領など、ルーズベルトのような偉大な政治家がおらず、

1947年に枢軸側に降伏。


★その他

ソ連→ナチスに滅ぼされている。


イタリア→中東一帯を支配しているが、存在感が薄い。



☆世界線1・80 『イナゴ身重く横たわる』の世界


本作品中では『イナゴ身重く横たわる』(以下『イナゴ』)という、小説作品が主に日本統治領で流行しています(ナチス領では発禁処分)。

この小説は、『連合国側が勝利した世界』となります。

しかしここで紛らわしいのが、イコール、『今現在私たちが生きている世界』(世界線2・0)とは微妙に違う事です。

基本的には世界線2・0をベースにして、違うところを列挙します。


★連合国側が勝利。アメリカ・イギリス・ソ連・中国などが勝利国となるが、アメリカとイギリスが二大国として世界に君臨。

アメリカはルーズベルトが1940年に辞任、タグウェル大統領がニューディール政策と反ナチ政策を引き継ぎます。

イギリスはチャーチルが独裁体制を樹立し、アメリカとの冷戦に突入しています。

ソ連はどうもうまくいかなかったようです。

中国は毛沢東ではなく、蒋介石がリーダーになっているようです。



☆前置き

この作品におけるメインの事件はこの2つだけです。


1・ジョーはジュリアナを騙し『イナゴ』の著者、アベンゼンを殺そうと考えるが、ジュリアナが彼を阻止する。

そしてジュリアナは一人、アベンゼン邸へと向かう。


2・ナチス首相ボルマンの死に伴い後継者争いが勃発。ナチ党のヴェゲナーは、ナチス上層部が協議している核戦争計画『タンポポ作戦』の実態を、大日本帝国のタゴミとテデキに伝える。


後はサブストーリーです。



☆あらすじ

ロッキー山脈連邦からの荷物はチルダンの元に届かなかった。

チルダンは西海岸でアメリカの古物を商っている。

日本人のタゴミから電話がかかってきた。

「贈り物にするものなんだ」とタゴミは言った。

「もうこれ以上は待てない! では、代替品にしましょう。何をお薦めしますか、チルダーーーーーン君」

身分を笠に着やがって、とチルダンは腹を立てた。

チルダンは戦前の、もう一つの時代を覚えていた。フランクリン・ルーズベルト大統領時代。

今よりもずっと良かった時代。

西海岸は、今やアメリカ太平洋岸連邦。

サンフランシスコは最後の爆弾が落ちる前に、下品な飲み屋街に占められてしまった。


チルダンの元に、礼儀正しい日本人夫婦が入って来た。

戦争そのものも覚えていない、若い夫婦(カソウラ夫妻)はアメリカ人であるチルダンを見下すことなく、同じ趣味を持つ人間同士の暖かい絆を、チルダンに感じさせてくれた。


1947年、アメリカは第二次世界大戦に無条件降伏、東側はナチス・ドイツに、西側は大日本帝国に占領されている。

そして、中央はロッキー山脈連邦という形で、緩衝地帯とされていた。


ユダヤ系アメリカ人のフランク・フリンクはクビになったばかりだった。

職長はサクラメントの白人傀儡政府(アメリカ太平洋岸連邦=日本)との繋がりがあったのだ。

独ソ戦、ソ連が降伏する直後に彼はアメリカ陸軍で戦った。ハワイが日本に占領された頃だった。

正午のラジオでは、ナチスドイツが火星に到着したニュースを伝えていた。

太平洋岸連邦が、アマゾン開拓にかかりきりになっている間に、ドイツは火星にまで進出しているのだ。

ユダヤ人のフランクは、ナチス統治領で暮らすわけにはいかない。

彼は、筮竹を取り出した。

「ウィンダム・マトスン(上司)と和解するためにはどうするべきか!」

易占いによれば『謙虚である事』と出た。これは吉兆だ。

「元妻、ジュリアナに会える見込みはあるだろうか?」

1年前離婚した妻に、彼は未練があった。

これまで何度も易占いに尋ねた問いだった。

『その女、凶相なり。娶るなかれ』。ジュリアナに対してこの結果が出たのはこれで二度目だった。

ジュリアナは最高の美人だった。彼女と出会い、そして別れ、今でも忘れられない事は彼にとって最大の不幸ではあった。

(個人的にジュリアナはビッチなので、この易は正しい。しかし、美人に男は弱い……)


今日の客、スウェーデン人のバイネス氏を饗応するため、全力を尽くしたいとタゴミは考えていた。

タゴミ氏も易経を重視していた。今日のバイネス氏との会合について易に問うと、

『大禍。明らかに道を外る。咎もなく、誉れもなし』と出た。

しかしバイネス氏の正体が謎な事を踏まえた上で、会合がうまくいくかどうかと易に問うと

『誠あれば小さき贈り物もよろし。咎なし』とのことだった。

ここ数年来、大日本帝国はナチス・ドイツに科学技術面で大きく劣っていた。


日本人を見たらお辞儀をする事、日没後の外出は禁止といった、日本の法律をチルダンは予習していた。

チルダンがこの商売を始め、成功することができた恩人は、フモ・イトウという日本人との出会い。

フモ・イトウの友人が『戦争の惨劇カード』というお菓子のカードを集めていて、1枚だけ持っていないカードがある。そのカードがあるなら、お金に目途はつけないほどの熱狂ぶりだという。

チルダンが、昔牛乳瓶の蓋を集めていたことを話すと、フモ・イトウは目を輝かせた。


ジュリアナ・フリンクはコロラド州キャノン・シティで柔道の教師をして暮らしている。

チャールズのレストランで食事をしていると、トラック運転手が二人入って来た。

自称イタリア人のジョー・チナデーラは人種差別に腹を立てているようだった。

アメリカ人のチャールズは、ナチスの「ニュルンベルク法」に腹を立てていた。

「ニューヨークが繁栄しているのはナチスの法案で、ユダヤ人から金をふんだくったからだ」とチャールズは言う。

ヒトラーの一家は近親相姦だらけだった。彼は脳梅毒で、死にかかっている。

ボルマン首相も老齢で死にかかっていた。

脳梅毒の男が、世界の半分を支配している。

トラック運転手が、ジュリアナを好色そうな目でじろじろと見ていた。



バイネスをタゴミが待っていた。

バイネスの荷物はタゴミと共に来た日本人カタマチが運んでくれるという。

タゴミは、チルダンが用意したミッキーマウス・ウォッチをバイネスに渡した。


フランク・フリンクは元上司のマトスンと元同僚のエドを見かけた。

復職を願い出る前に「すまんなぁフランク、君を復職させることはできないよ」と断られてしまう。

フランクは、「工具を取りに来ただけですよ」と胸を張って言った。

「仕事に戻りたくて来たんだろ?」というエドに、「他じゃ働けないからな……」とフランクは答えた。

エドが「独立する気はないか?」と持ち掛けた。

フランクが作品を作り、チルダンに小売りを頼んだらどうか、と。

フランクは易経に問うてみた

『エドに薦められた独立事業をやってみるべきか?』。

易は

『平和。小は去り大は来たる』と出たが、1つの変爻のみが気になった。

『城郭崩れて堀に還る』。

「これは酷い!」とフランクは叫んだ。

大吉と大凶が混ざり合ったような予言。どうしたものだろうか。


恐らく、独立事業に関しては吉なのだろう。

しかしその後の大凶は、未来の破局を表している。「戦争だ」とフランクは思った。

「第三次世界大戦だ。水爆が雨あられと降ってくる! 何が起こるんだろう」とフランクは戦慄した。

フランクはエドを呼び止めると、「独立事業をやってみる」と言った。

するとエドは、俺もマトスンの仕事をやめてお前に合流する、と答えた。

この仕事がうまくいけば、ジュリアナが戻ってくるかもしれない! とフランクは胸を躍らせた。


チルダンは、もう出張販売はやめようか、と思った。

そんなチルダンのところに、白人が来た。

航空母艦翔鶴の艦長、ハルサワ提督の名刺を渡し、白人はその代理で来たらしい。

ハルサワ提督は部下に『南北戦争時代のピストル12丁』を贈りたいという。

チルダンはこの大きな商談に小躍りした。

しかしピストルを見せたところ、白人は『これは模造品ですよ』と見破ってしまった。

「あなたはどうやら騙されたようですな……この件はサンフランシスコ市警に報告しなければなりません。こちらのお店にはまだ他にも模造品があるかもしれません。西海岸で最も有名な貴店が、本物と模造品の区別がおつきにならないとは……。ハルサワ提督もさぞやガッカリなさることでしょう」

チルダンは茫然としていた。

「誰か専門家を雇って、お店の在庫を徹底的にお調べなさい。お店の信用のためにも」と白人は言い、おじぎをして帰って行った。

「あの客が嘘をついたんじゃないか? 競争相手のどこかがよこしたんだ!」とチルダンは思った。

しかし、カリフォルニア大学に真贋鑑定を頼んでみたところ、やはり模造品だった。

問題の模造品の入手経路を調べてみたところ、サンフランシスコの卸売業者だった。

チルダンは卸売業者キャルヴィンを怒鳴りつけ、次に航空母艦翔鶴の居場所を尋ねるべく新聞社に電話をかけた。

すると、相手の女性は「航空母艦翔鶴は、1945年フィリピン沖の海底に沈みました」という答えだった。

航空母艦翔鶴の代理、というのは嘘だった(後でわかるが、これはフランク。模造品を作っているマトスン工場への嫌がらせ。要らん事しなければいいのに:苦笑)

しかし、ピストルが模造品だったのも確かだ。


卸売業者キャルヴィンから怒りの電話がマトスンの元に届いた。

マトスンの工場は元々、模造品を作っている会社なのだった。

キャルヴィン自身もそれは知っていたが、バレないだろうと思って利用していたのだ。

マトスンはわざと稚拙な模造品をフランクとエドが作ったのだろう、と考えた。

『史実性』というものには、もともと商品自体にはない、とマトスンは言った。

ただ、頭の中にしかないという。

例えば、ルーズベルト大統領が愛用していたハンカチ。

これには普通のハンカチと違って、プレミアムがつくだろう。

しかし、ハンカチはハンカチだ。ただ、『証明書』だけが価値を生み出すのだ。

「ルーズベルトがもし生きていたら、戦争には負けなかった、と両親はいつも言っていた」と愛人リタは言った。


リタは、『イナゴ』について「その本は、必読よ」と言った。

ナチス占領地のアメリカ東部・ヨーロッパで発禁処分されている、ホーソーン・アベンゼンの作品だ。

「戦争の小説よ。ルーズベルトがマイアミで暗殺されなかった、としたら。その後、ルーズベルトが大不況からアメリカを救い出して、軍備を整え、リンカーンと比較されるほどの大統領になっていた。ルーズベルトは無事任期を務め、1937年に再選される。戦争の最中も大統領だった。

ガーナ―というのは本当に無能だったのよね。1940年、ブリッカーの代わりに民主党の大統領が選出されて、更にひどくなった」

「『イナゴ』で1940年に再選されたのはブリッカーのような孤立主義じゃなくて、タグウェルなの。タグウェルはルーズベルトの反ナチ政策を引き継いだ。だから、ナチスは1941年の日本救援をやれなくなった。

三国同盟を守れなくなってしまった。それで、日本とドイツは戦争に負けてしまうのよ」


これが、『イナゴ』の概要だった。

この本は、日本が占領している太平洋岸連邦や、日本本土では発禁になっておらず、大ヒットしているという。


「タグウェル大統領は、先見の明があるから真珠湾では、軍艦を全部洋上に出しておいたの。

日本軍は真珠湾を攻撃したけど、やられたのは小さな船だけだった。

アメリカ艦隊が、フィリピンとオーストラリアを日本から解放したのよ」


「ドイツがマルタ島を占領しなかったら、イギリスもチャーチルが辞職せずに済み、戦争を勝利に導いたはずなのよ。チャーチルがアフリカでロンメルを打ち負かすの。だからロンメルが、南下してくるドイツ軍と合流する代わりに、イギリス軍はトルコを横断し、ソ連軍と合流して防衛線に加わる。

ヴォルガ河沿いのスターリングラードで流れは変わるの。

ドイツ軍は中東に入り込めず、石油も手に入らなかったし、インドに侵攻して日本を支援することもできなかった」


ロンメルが解任され、ランメルスが後任になったのがいけなかったんだわ、とリタは言った。

強制収容所やガス室が拡大されたのは、ランメルスの時代からだ。

ロンメルは昔のプロイセン軍人の面影があった、とリタ。

「アメリカ経済復興の立役者は誰か教えてやろう。アルベルト・シュペーアだよ。彼は北アフリカで全ての事業をよみがえらせたんじゃ。経済競争ほど、愚劣なものではない」と頑固なマトスン老人は言い張った。



タゴミは正座し、バイネスを迎えた。

二人の会合に、ヤタベ・シンジロウ(と名乗るテデキ将軍)という老人が参加するという。

日本は、ナチス・ドイツのユダヤ人殺害の指示を「野蛮だ」としてはねつけた。

ナチス・ドイツはユダヤ人を「アジア人扱い」しているという。

その意味を、日本は見逃していない。

バイネスが立ち去る間際、若い日本人はスウェーデン語でバイネスに話しかけたが、バイネスには理解できなかった。

バイネスはスウェーデン語がほとんどわからないのだった。



ジュリアナは買い出しに出ていた。

ナチスにはユーモアのセンスがない。エンターテイメントをほとんど殺してしまった。

ボルマンが死んだ後はゲーリングが後釜に座るのかもしれない。

ヒトラーの精神状態がおかしかった時期に、ボルマンが後継者の椅子に座ってしまったのだ。


イギリスを倒したのは、ゲーリングのドイツ空軍だった。

しかし、ボルマンの後任は恐らくゲッベルスだろう。ハイドリヒじゃなければ誰でもいい、とジュリアナは思う。ハイドリヒなら庶民全員を殺しかねない。

ジュリアナは、フォン・シーラッハが一番良いと思った。しかし彼が後任になるとは思わなかった。

ジュリアナが帰ると、トラック運転手のジョー・チナデーラはまだ残っていた。

ゆうべ、ジュリアナとジョーはSEXしたのだった。

イタリア人、34歳。彼は枢軸側だ。カイロ、という刺青をしていた。

バイエルライン将軍からもらったという、勲章をジュリアナは見つめた。

イギリスのチャーチルが無差別焼夷爆撃で、ハンブルクやエッセンの庶民を焼き殺した、と言い、ジョーはナチスを擁護した。


ジョーは「イナゴ」を取り出した。

大英帝国が地中海全土を支配する。イタリアもドイツもどこにもない。

(イナゴ、は『現実の歴史とも違う点に注意』)

「それがそんな悪い世の中?」とジュリアナは聞いた。彼女はフランクとよくその話をした。

『イタリアが連合国側に寝返った』という本の内容が、ジョーには不愉快なようだった。

そこに、アメリカが日本を破ってやってくる。世界をアメリカとイギリスが山分けにする。


(本作では)イタリアは中東を支配し、「新ローマ帝国」と名付けた。しかしアメリカには進出できていなかった。

ジュリアナは『イナゴ』に興味を惹かれた。



ボルマン首相逝去のニュースが流れ、ナチス内で後継者争いが始まっていた。

(ヒムラーは既に故人になっている)。

「あの連中は共産主義者から俺たちを救った」とジョーは言った

(こいつマジでウザいし、ずっとジュリアナに付きまとうから、最後まで付き合わなきゃならなくてつらい)。


ナチス以前は、ブルーワーカーが差別されていたとジョーは言う。

トッドとロンメルは戦後アメリカにやってきてアウトバーンを作り、ユダヤ人を生かしておいてくれた。その後はトッドもロンメルも引退。

スラブ人、ポーランド人、プエルトリコ人は差別され、アングロ・サクソン人は優遇されている。

ジョーは『イナゴ』をトイレに隠れて読んだ。

イナゴの作者、アベンゼンは屋敷の周囲に鉄条網を張り巡らせ、この近くの山奥に住んでいる。

その屋敷をアベンゼンは『高い城』と呼んでいた。



シーラッハは軟禁され、恐らくもう死んでいるだろう。

ゲーリングはドイツ空軍の基地で寝起きしていて、歴戦の勇士が身辺を警護している。

ルドルフ・ヴェゲナーという男が、バイネスというスウェーデン人に変装してタゴミと会っている。

日本の老軍人テデキがお忍びでサンフランシスコに来ているらしい。

また、ゲッベルスが突然、演説をしたらしいというニュースも伝わった。


「イナゴ」ではイギリス軍の猛攻を受けたベルリン陥落が描かれていた。

ヒトラーが連合軍の裁判を受けていた。ゲッベルスも、ゲーリングもだ。

(この辺も、リアル歴史とは違う)


アベンゼンはユダヤ人かもしれない、とナチ党のライスは思った。

イングヴァルトがアフリカで大虐殺を起こしたのは、いつだっただろうか。


エド&フランクの会社は最初の商品(装飾品)を完成させた。

チルダンの店に売り込みに行こうと二人は思ったが、こればかりはエドが行くしかなかった。

以前フランクが、ハルサワ提督の部下だと偽って、悪戯をした事があるからである。


フランクは、ジュリアナの事を思い出していた。

仮に復縁できなかったとしても、モデルとしてこの商品をつけてほしい、とフランクは思った。

自分の美しさに見とれ、注目の的になるのがジュリアナは好きだった。

いつも男が周囲にいて、お世辞を言ってやらないとダメなのだ。


ジュリアナはジョーと汗っEXしていた(羨ましい奴だな)

ジョーはトラック運転手ではなかった。

トラック運転手の振りをしていれば、ハイジャック除けになるとのことだ。

ジュリアナの車をジョーが運転し、ジュリアナは車内で「イナゴ」を読みながらドライブする事にした。


チルダンのところに、エドが宝飾品を持ってきた。

チルダンは巧みに、エドの商品を委託販売ということで預かってしまった。

チルダンは、ベティ・カソウラの好意を得るため、エドたちの宝飾品を贈ろうと決めた。


バイネスとタゴミの会見は未だに実現していなかった。

ヤタベ氏が現れないからだ。

ナチ党の首班はゲッベルスに決まった。

ヤタベ氏はSDのメーレにでも捕まったのだろうか?

メーレは、1943年のイギリスとチェコスロバキアが共謀したハイドリヒ暗殺計画を阻止し、ただの警察官僚を超える力を持っていた。


ジョーが車を運転し、ジュリアナは「イナゴ」の本を読んでいた。

ジョーがうるさいのでジュリアナは手で耳に栓をした。

アメリカのテレビが、アフリカの国々に広まっていく章にジュリアナは興味を惹かれた。

タグウェル大統領のニューディール政策。

中国は蒋介石がアメリカの建設技術を採り入れた(蒋介石なのね)


ジョーはいちいち突っかかり、イタリアを礼賛する(マジでウザい。ジュリアナはなんでこんな男と一緒にいるのかさっぱりわからん)。


イギリスの統治下では、有色人種はアパルトヘイトで人種差別をされていた。

しかしアメリカの統治下では、人種問題が解決し、白人も黒人も肩を並べて暮らしている。

第二次世界大戦が、人種差別に終止符を打ったのだ。

アメリカは太平洋岸を取る。今の大東亜共栄圏のように。

ソ連は半分を取る。だが、そこからうまくいかなくなる。

チャーチルはアメリカを敵視する。中国の華僑を保護しているから。

そしてチャーチルは独裁者となり、中国人を隔離する。


一人の人間がずっと治められる独裁制こそが優れていると、ジョーは言う(さすがファシスト野郎……)

アメリカはタグウェル以降、ロクな指導者が出ていない。

チャーチルがマルタ島での戦いで解任されなければ、第二次大戦ももう少しイギリスは善戦しただろう、とジョー。


アメリカは日本の持っていた大東亜共栄圏を奪い、高い経済力を手に入れる。

「アングロ・サクソンが、貧しい人々を救うわけがない」というのがジョーの主張だ。

アメリカには魂がないから、成長もない。ナチスも追いはぎの集団だ、とジョーは言う。

ジョーは喋りまくった挙句「俺みたいに無言実行が大事だ」と言ったため、ジュリアナは笑った。

ジョーは腹を立て、読書を邪魔するように車内BGMを大きくした。


ライスの元に、ルドルフ・ヴェゲナー=バイネスの情報が流れてきた後、ゲッベルスから電話がかかってきた。

メーレとライスは、ヴェゲナーをドイツに強制送還するための措置を講じ始めていた。

秘密警察はゲッベルスまでも操り始めている。


チルダンは、ポール・カソウラの家に向かった。

チルダンが、人妻のベティ・カソウラに下心で贈り物をした後なので、チルダンは内心ビクビクだった。

しかしポールは妻にまだ装身具を渡しておらず、代わりに友人たちに、この装身具を見せたらしい。

最初、この作品を見た時はその真価に気づかなかった。

しかしよく見ると、この装身具にはワビはないが、老子の言われる『ウー』があるという。

ポールは友人たちにこの素晴らしさを熱弁し、友人たちもそれを認めたらしい。

ポールは、チルダンに装飾品を返した。

彼はチルダンに、この装身具をうまく売るよう、よく考えてみろとアドバイスをした。


ポールは、彼の友人たちにチルダンの店を紹介し、名刺を配った。

その中の一人は、チルダンの装身具に非常な興味を示し、「大量生産して売り出したい」とまで言っている。

「大量生産しても、『ウー』は残るのか?」とチルダンが尋ねると、ポールは彼(大量生産業者)に聞いてくれという。

大量生産業者は、『魔よけのお守り』として販売したいそうだ。

「無教育な人々は、大量生産の魔よけのお守りを珍重して喜ぶだろう」とポール。

被支配民族である日本人に劣等感を強く持つチルダンは、『アメリカの工芸品が大量生産の魔よけ程度

の価値しかない』とポールの発言を曲解し、怒りを覚えた。

「ポール、あなたは私を侮辱しました。私はこの作品に誇りがあります。それを安っぽいお守りにするなんて、侮辱です。謝罪してください」とチルダンは言った。

ポールはしばらく沈黙した後、「生意気な提案をしたことをお許しください」と謝り、謝罪の握手を求めた。

(ポールはチルダンの遠慮=逆差別を取り除こうとしたかったのだろうと、読んでいて思った。そしてチルダンが対等の立場として怒った事で、チルダンも一皮剥け、日本人に劣等感も悪感情も抱くことなく付き合えるようになっていく)。


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