第23話 フィリップ・K・ディック「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」(前)

☆作品中に出てくるギミックと、主要登場人物


『プレコグ』→未来予知能力。ただし、未来は確定されておらず、様々な未来の可能性のうちのどれかを見るという。


『キャン・D』→レオ・ビュレロのP・P社が販売している違法薬物。


『パーキー・パット模型セット』→P・P社が販売している模型セット。キャン・Dと共に使う事で、パーキー・パット模型の中に入り込める。

アメリカの生活を模したもので、地球を恋しいと感じる植民者に大人気。

複数人でキャン・Dを使うと、複数人の中で多数派が取りたいと思う行動をとる事になる。


『チュー・Z』→パーマー・エルドリッチが新しく売り出そうとしている、プロキシマ製の麻薬。


『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』→義手・義歯・義眼。チュー・Zの幻覚の中に現れる、エルドリッチの風貌。


『E療法』→頭を肥大させることで、人間を進化させる療法。たまに失敗(退行)する。退行するとむしろ、能力が落ちる。


『徴用令状&スマイル博士』→火星・金星などに移住するよう勧告する令状。これを防ぐため、精神分析医スマイル博士を利用する者もいる。


バーニィ・メイヤスン……P・P社に務めるトップクラスのプレコグ。先妻エミリーを自分から離縁しておいて未練タラタラの様子。


レオ・ビュレロ……P・P社社長。商売敵であるパーマー・エルドリッチの暗殺をもくろむ。


エミリー・ナット……バーニィの元妻。理不尽な理由でバーニィに追い出され、スティーブ・ナットと再婚。模型セット用の陶芸品を作っている。


ロニ・ヒューゲイト……バーニィの副官兼セフレのプレコグ。上昇志向が強く、バーニィの椅子をも狙っているキャリアウーマン。


アン・ホーソーン……火星に行ったバーニィと親しくなる宗教心の厚い女性。実はエルドリッチ失脚をもくろむブラウの手先でもある。


パーマー・エルドリッチ……プロキシマ星から帰ってきた謎の男。義手・義歯・義眼がトレードマーク。チュー・Zを売り出そうとしている。


★あらすじ1 『チュー・Z』登場まで


「地球に住むバーニィ・メイヤスンと、その助手ロニ・フューゲイトは一夜を共にした。

二人は『プレコグ』(予知能力者)で、その能力を生かして商品のマーケティングを担当している。

バーニィはモバイル精神分析医のスマイル博士を持ち歩いていた。

彼は徴用令状を受け取り、徴用逃れのためにスマイル博士を使っているのだ。

昔は精神病を治すのが精神医の仕事だったが、今では精神病にすることが精神医の役割なのだった。


メイヤスンが失脚したら、ロニが後釜に座るかもしれない。

それを二人は理解しており、仕事上ではライバルの立場にある。

P・P・レイアウト社のレオ・ビュレロ社長(プー横チュー在住ww)

の下で2人は働いていた。

ビュレロはE療法を受け、進化を遂げた人間だった。


地球は温暖化が著しく進んでおり、熱暑は続いていた。

日中に配達員の姿を見なくなってどれぐらいになるだろう。

エミリーは陶芸品を作っていた。

エミリーの前夫はバーニィ・メイヤスンで、この度、彼女の陶芸品を審査するのはバーニィなのだった。

エミリーの夫、リチャード・ナットはその人間関係を、バーニィが仕事に持ち込むのではないかと危惧していた。

バーニィはエミリーが妊娠したせいで、逆恨みし、家を追い出して離縁したのだ(クズすぎ)。

人口増加の関係で、高級住宅を追い出されそうになった彼は、住宅を明け渡すのではなく妻子を捨てたのだ。


ナットはエミリーの陶芸品を持ってP・P・レイアウト社に向かった。

P・Pとは、パーキー・パット人形のイニシャルで、植民地で大流行している。

陶芸品は、パーキー・パット模型セット用のものだった。


冥王星にプロキシマ星系からのロケットが飛来した。パーマー・エルドリッチの帰還かもしれない。


ナットはP・P社に到着した。メイヤスンはツボを一瞬見ただけで、「ダメだ」と言った。

しかしロニは「この陶芸品は良い」と言った。メイヤスンはもう一度ツボを見たが、

「何といわれても、この商品はヒットしないね」と言った。

メイヤスンとロニで意見が食い違ったため、3日ほど商品を預けることになったが、メイヤスンは敵意を剥き出しにした、いけ好かない態度だった。


P・P社の社長レオ・ビュレロはパーマー・エルドリッチの帰還と、彼が重体であることを知った。

ビュレロが国連に賄賂を渡しているのに、彼の子会社が作っている薬物【キャン・D】を国連に押収されたという知らせも届いた。

エルドリッチは地衣類の培養株をプロキシマ星系から持ち帰っていた。これは薬物の素材になる代物だ。

ビュレロとエルドリッチは不倶戴天の敵だった。


バーニィはビュレロに直談判した。

「助手のロニは自分に従うべきだ」、と言いに行ったのだが、ビュレロはバーニィのプライベートを知っていた。

ビュレロはバーニィの判断を受け入れたものの、もしこの判断が間違っていたら、ロニを後釜に据えると脅した。


キャン・Dは依存性があり、違法薬物だった。

しかし、誰かと一緒にキャン・Dを使うと相手と一体化することができるのだ。

また、キャン・Dを飲みながら、パーキー・パットの模型セットを使うと、その模型セットの中に入る事が出来る。


ビュレロの元にロニが呼び寄せられた。

パーマー・エルドリッチが収容された病院を、プレコグ能力で視てほしいという。

「レオ・ビュレロがパーマー・エルドリッチを殺した」という未来を彼女は視た。

これは確定された未来ではない。プレコグの未来視能力は、ありうる未来の一つを視るという能力。

この未来は、40%ほどで実現される未来だという。

これでビュレロはロニに弱みを握られてしまったことになる。

ロニは交換条件として、「バーニィが徴用されるのを黙って見逃し、彼の後釜に自分を据えてほしい」と言った。


バーニィに拒絶されたナットのところに、別会社から誘いの声がかかった。

ボストンの『チュー・Z産業』という会社だった。



☆キャン・D不倫体験記


火星の『水疱瘡ヶ丘』に国連船から供給品が届いた。

サム・リーガンは『キャン・D』の信者だった。

火星の植民者たちは洞穴のような場所で、集団生活をしているのだ。

この水疱瘡ヶ丘は、3家族共住の穴倉で、フランが一番の美女だった。

サムはフランを誘って、こっそり「一緒にキャン・Dを使おう」と持ち掛けた。

パーキーパット人形を使って、サムは一度フランとSEXしたのだ。

フランは「もう二度と不倫はやめましょう」と言った。

しかし、人形を使えば不倫をしようが、殺人をしようが、『幻想』ということで、法律的には誰にも咎められる事はないのだった。

二人はキャン・Dを飲み、サムはウォルト人形に、フランはパット人形に憑依した。

在りし日の地球をモデルにしたセットだ。


今日は休日。サンフランシスコのウォルトは、恋人パットとデートの約束があった。

「これは幻覚だ、お前はサム・リーガンだ。時間を無駄にするな。パットと早くデートしろ!」と書き置きがあった。

ウォルトは一瞬、サム・リーガンである自分を思い出した。

ウォルトはパットに映話した。パット(フラン)は「貴方の下心は見え透いているわ」と言った。

しかしウォルト(サム)は一緒に海に行こうと言った。

二人は海で合流した。

パット(フラン)は「考え直したんだけど、やっぱり得られる限りのものを得るべきだと思う」と言い出した。

パットはセクシーな水着でやってきた。二人は人目につかない岩場にきた。

フランは、自分がパットであるということで不倫の罪悪感を取り除こうとし、サムは、フランと不倫したいからこそ一緒にキャン・Dを飲んだのだ。

(フラン……めんどくせぇ女だなぁ……ラブホの前でモタモタする一番格好悪いパターンだわ)


しかし、モタモタしている間にノーム・シャイン(フランの夫)がやってきて、更にトッドもウォルトに憑依してきた。

ウォルトはパットにキスをした。

パットは「私もここにいるのよ。ヘレン。メアリーもいるわ」と言った。

3人が憑依をしたパットがウォルトとSEXの体形を取った。

サムは慌ててしまったが、トッドとノームはSEXを続けた。

サムは、フランとの逢瀬に失敗してしまったのだ。

そして、サムのキャン・Dは効果を失い、火星の穴倉に連れ戻されてしまった。


一足早く帰ってきたサムは、虚脱状態で意識を失った周囲の5人を見つめた。

模型セットの中では、セクシーな水着を着たパットとウォルトが寄り添っていた。

フランが火星へと戻って来た。「私たち、手間取りすぎたのね」。

「あなたの言うとおりだったわ。すぐに始めれば良かった。でも私はSEXの前の予備段階が好きなの」

「みんなはまだ目が覚めないはずだ」とサムが言うと、

「私の部屋に来て、早く!」とフランが言った。

結局、サムとフランは不倫に成功したのだった。(良かったね!)


レオ・ビュレロがパーマー・エルドリッチに会いに来た。

娘のゾー・エルドリッチがビュレロに相対し、ビュレロは追い払われた。


ボストンに一夜にして新会社が出来た。

『コニ―・コンパニオン人形』。チュー・Zを扱う、パーマー・エルドリッチの会社だ。

ビュレロは舌の中から毒矢を放つことができた。

(この技、最後まで一度も発動できなかったな……)

火星では、キャン・D離れが少しずつ進み始め、チュー・Zを使う集落が出てきたらしい。


バーニィもまた、レオ・ビュレロがエルドリッチを殺害する未来を予知した。

そこで、バーニィはビュレロを強請り、P・P・社の実権を握ろうとした。

「あなたは3日以内にエルドリッチに会えます。月に向かうのです。そこでは彼は無防備です。

そして、エルドリッチの開発したチュー・Zはキャン・Dと違って、合法薬物として売られることになります。国連も承認しています」

「君がこの件をもう2年早く予知してくれなかったのが残念だ……」とビュレロは肩を落とした。

バーニィは、パーマー・エルドリッチの側につくことも辞さない、と言った。

あまりにも法外な要求に、レオ・ビュレロはバーニィに決別を言い渡した。


バーニィはロニと手を組むという考えにたどり着いた。

二人はビュレロを見限り、エルドリッチにつくことも考えた。

しかし一方で、エルドリッチとビュレロが手を組んだら今度は二人の行き場がなくなる。

ビュレロが勝った場合も勿論そうだ。

しかし、ロニはバーニィの痛いところを突いた。

ロニは、バーニィが前妻エミリーの陶芸品をNGにしたことで、エルドリッチに利敵行為をしたと指摘した。

(最後にはマシになるんだけど、序盤のバーニィは胸糞すぎる)


ナットとビュレロはE療法の場で顔を合わせた。

ビュレロが「君はエルドリッチのところに商品を売ったそうだな」と言ったが、

ナットは「余計なお世話だ。あんたの会社のプレコグが、うちの商品を断ったんだからな」とにべもなく返した。

ナットとエミリーはエルドリッチとの契約金で、この療法を受けられるほどの大金を手に入れたのだ(E療法を受ける事に、エミリーは尻込みしていたが)。

E療法を受けたが、ナットは進化したのに対し、エミリーは療法に失敗し退化してしまったようだった

(かわいそう。エミリーは前夫のバーニィといい、このナットといい、夫の決定に逆らう勇気がないのよね……)。


★あらすじ2 ビュレロの『チュー・Z』体験

レオ・ビュレロは月にあるエルドリッチの私有地に向かった。

バーニィが提案したように(←メモ忘れ)新聞記者として、潜り込むことに成功したのだ。

しかしビュレロは簡単に捕まってしまい、拘束された状態でエルドリッチと対面することになった。

プロキシマ星人と関係を結ぶことで、エルドリッチは力を得た。

エルドリッチが持ち帰った地衣類を、プロキシマ星人は宗教的な用途で使っていたという(やっぱ麻薬やん)。

ビュレロは、商売敵のエルドリッチに抗議した。

エルドリッチはビュレロに『チュー・Z』を注射した。

閃光が走り、一瞬後にビュレロは草原に立っていた。隣に一人の少女が立っている。

少女はプロキシマ星で流行っている遊び(ヨーヨー)をしていた。


少女は「これは魔法のヨーヨーなの。これがあれば何でもできちゃうの。何でも言って」とビュレロに言った。

この場所は、地球にしては涼しかった。

「パーマー・エルドリッチが私の商売に割り込もうとしていて、このままだと私は倒産してしまう。だから、彼と協定を結ばないといけない」とビュレロは言った。

「カードね。トランプをしましょ」と少女(モニカ)は言った。地面からスーツケースが現れた。

スーツケースは開かなかった。「ちぇっ、これは違う。これはスマイル博士だ」とモニカは言った。

スマイル博士が喋り出した。

「やぁ、モニカ。あなたもですか、ビュレロ―さん。あなたは退行なさったんですか?」

「ここはどこだね? 病院なのか? 私はここにいたくないんだ」

スマイル博士がバーニィを知っているというと、ビュレロはバーニィに連絡をさせ、自分の居場所を調査してくれ、と頼んだ。


巨大なネズミが通りかかった。ビュレロは逃げ出した。ネズミはビュレロの横を通り過ぎて、そのままどこかに行ってしまった。

モニカは「あいつらには見えないのよ」とくすくす笑った。

ビュレロは理解した。ここはチュー・Zが作りだした架空世界だ。

「君はゾー・エルドリッチだろう?」

「ゾーなんて人はいないわ」

「君の父親はパーマー・エルドリッチだろう?」

モニカはいやいやうなずいた。

「私のお父さんはプロキシマ星人から、みんなを救いたいのよ。チュー・Zの世界を作っているのはプロキシマ星人よ。薬の力で、地球を侵略しようとしているの」

「私もプロキシマ星人の影響下にあります」とスマイル博士。

ビュレロは「そんな事は信じないぞ!」と言って立ち去った。

しかし、後ろから何者かがとびかかって来た。グラックという獣が襲い掛かって来たのだ。


スマイル博士の映像に、バーニィは映っていた。

「現在、地球を周回している衛星、シグマ14Bにいるようだ」とバーニィが言っている。

この衛星、シグマ14Bは「チュー・Z産業」の所有している衛星なのだった。


月での記者会見はビュレロをおびき出す罠だった。

「帰ってきたのはパーマー・エルドリッチじゃなくて、プロキシマ星人じゃないかしら」とロニは言った。

「そして、その後に来るのはチュー・Zでの地球侵略よ」

ゾー・エルドリッチに映話が繋がった。

「レオを取り戻すには、私はどうすればいいですか?」とバーニィ。

「ビュレロさんは私たちの私有地に来てから、健康を害したのです。今、私たちの私有地で療養しています」とゾーは言った。


バーニィとロニは未来を視た。

「太陽放射線の浴びすぎで、P・P社の社員(バーニィ)が死んだ」という新聞記事だった。

写真に怯え、バーニィはビュレロ救出に行く気をなくした。


グラックに噛みつかれ、ビュレロが悲鳴をあげた。

すると目の前にエルドリッチが現れた。

エルドリッチがグラックをつつくと、ビュレロから離れ、逃げ出して行った。

「キャン・Dは時代遅れだ。束の間の逃避だ。だが、チュー・Zは紛い物ではない。我々は今、その世界にいるんだよ。チュー・Z世界で50年暮らしたとしても、実際の世界では時間は経過していない。そこがキャン・Dと違うところだ。

ここにいられる時間は、我々の気持ちだ。いたければ、いつまでもいられる。この世界は、私が作りだした。チュー・Zは姿すら思い通りに変えられる。グラックは私のエッセンスから生まれたものだ」

ビュレロが精神を集中すると、グラック捕りの罠が出現した。グラックがその罠に入ると、グラックは焦げた。

ビュレロは次に聖書を作りだした。しかしエルドリッチが身振りをすると聖書は消えた。

ビュレロが階段を作りだした。ニューヨークに繋がる階段だ。

「そういえば、モニカはどこに行った?」とビュレロが尋ねた。

「私がモニカだったのさ」とエルドリッチ。エルドリッチの姿が消え、モニカが現れた。

「私を信じた方がいいわよ。そうしないと、この世界から生きて帰れないから」

ビュレロが階段を上り始めると「じゃあ、勝手に上りなさい。私はしーらないっと」とモニカが言った。

炎熱下のニューヨークにビュレロはついた。なんとか、会社にたどりつく。

「バーニィはなぜ助けに来なかった!? 彼を呼び出してくれ!」とビュレロは言った。

バーニィとロニが部屋に入って来た。

「どうして私を助けに来なかったんだ? まぁ、チュー・Zの体験から自力で抜け出してきたがね」

ロニがデスクの下を指さすと、そこには謎の怪物がいた。怪物はドアの隙間からどこかへ消えた。

このニューヨークすらもチュー・Zの影響下にあるのだ。

「君は、バーニィの愛人だね。そして、私みたいな老人の愛人にはなりたくないと以前言っていたね」

ビュレロは言った。

「君は私よりも年上だ。この世界に限ってはな。君は100歳をとうに超えている」

背後でカサカサ音がした。

「あぁ、社長」と悲鳴が聞こえる。

「今のは取り消すよ」とビュレロは言った。

しかし、そこには肉の落ちた両頬とドロドロと潤んだ両眼。

「君は元の姿に戻るんだ! 済んだらそう言ってくれ」とビュレロは目を閉じた。

「うわぁ!」とバーニィが戻って来た。

「彼女はどこに行ったんです。これはなんです!」

何かの液体がたまり、その中に何かの物質が泳ぎ回り、もつれあった髪の毛。しゃれこうべがモニカの声で言った。

「だって、ビュレロさん。ロニはそんなに長生きしなかったのよ。彼女は70歳までしか生きられないのに、あなたが100歳にしちゃった」としゃれこうべは言い、バラバラになった。

「おい、パーマー……私はもう諦めたよ、本当だ」と言うと、会社のオフィスにすくすくと植物が生え始め、そこは草原に戻った。

ビュレロがパーマーに悪態をつくと、モニカは

「あらあら、そんな事を言っちゃだめよ。私の性分は知っているでしょう?」

「条件はこうだ」とモニカは言った。

「私は君の宣伝衛星と、土地がほしい。キャン・Dはなくなり、チュー・Zが市場を支配する。君は引退することになる。いいな」

ビュレロはモニカにとびかかり、首を絞めた。彼が手を離すと少女は死んでいた。

しかし、偽の世界は消えなかった。

ビュレロはスマイル博士のスイッチを入れた。

「ここからどうやれば帰れるんだ。現実世界へ」

「あなたは現実の世界に間もなく帰れますよ。この世界の時間軸では……数年かかるかもしれません。

時間の感覚は主観的なものですからね。結局はあなた次第ではないですか?」とスマイル博士は言った。

「この世界を維持できるのはエルドリッチさんだけです。だから、ひょっとすると……」スマイル博士は黙った。

ビュレロはジェットタクシーを作りだそうとしたが、もうものを作り出すことができなかった。

ビュレロが探索するとプロキシマ星人が逃げ出した。

ビュレロはプロキシマ星人が逃げ出した方向に、何時間も歩いた。すると正体不明の宇宙船と宇宙人が現れた。

「たまげたな、アレック。あれは旧形態の一人だぜ」と一人が言った

「君たち、地球の英語を使ってるね。君は地球人を知っているのか?」とビュレロが言うと、

「俺たちが地球人だぜ。あんたは出来損ないの一人か? 暁人とかいうやつ。繁殖はまだできるのか? 女はまだいるのか?」などと失礼な事を尋ねてくる。

彼らはE療法を使った地球人なのだろうか。

「私はE療法を行なっているんだよ。キチン質はどこに行ったんだね?」と尋ねると、

「地球の猛暑は、プロキシマ星人とパーマー・エルドリッチがやりやがったんだ」と新地球人が言った。

ビュレロが頼むと、彼らはビュレロを地球に帰らせてくれるという。

しかし、この未来と思われる世界ですら、パーマー・エルドリッチが作りだした幻覚かもしれない。

ビュレロはアレックと握手しようとしたが、すり抜けてしまった。

「なぁ、こいつはチュー・Zとかいう悪魔の薬を使っていた手合いじゃないか? このチューザーの写真を俺は大昔に見たことがある」と一人が言い出した。


ひょっとすると、この新地球人たちこそが本物で、自分はチュー・Zの力で未来世界に迷い込んだのかもしれない、と

ビュレロはまた考えた。

名を尋ねられ、ビュレロだと答えると彼らは驚いた。

「パーマー・エルドリッチを殺した男だ! 英雄なんだぜ、あんた!!」とアレックは言った。

2人は興奮し、新聞に知らせなければ!と言った。しかし、「エルドリッチの幽霊もここに現れるかもしれん」と言う。

「もう現れたよ。私が首を絞めて殺したんだ」とビュレロが言った。

「この連中は永遠に殺し合いを繰り返しているんだろうか!」とアレックは言った。

「私が彼を殺したのは初めてだ……しかし、また近々、私は彼を殺さなければならないのだろうか」とビュレロは言った。

2人の新地球人に連れられて、記念碑へと向かった。

御影石があり、真鍮のプレートに『2016年、9つの星を代表する戦士レオ・ビュレロが、太陽系の敵パーマー・エルドリッチを倒し、これを建つ』と書いてあった。

何十年か前にビュレロは死んでいる、という。


3人が後ろを振り返ると、白い犬が近づいてきた。「チューザー犬のようだ」と新地球人。

アレックが投げた小石は、犬をすり抜けた。

犬は記念碑を見上げ、そして小便をひっかけた。……2人の新地球人が冒涜だ!と怒りだした。

「あれは、パーマー・エルドリッチだ」とビュレロは言った。

何の前触れもなしに、世界が消えうせた。

次の瞬間、ビュレロはエルドリッチ私有地へと戻っていた。

【ビュレロのチュー・Zはここでようやく切れる】


「そう、私は記念碑を見たよ。未来の約45%にこれがある」とエルドリッチが言った。

「私は君を約24時間、釈放してやる。そこでこの状況をよく考えてみたまえ。君はチュー・Zの威力がわかっただろう。……念のために言っておくが、私は慈悲をかけたんだよ、レオ。私はいつでも君を殺すことができたんだからね。

もし、私と手を握らないなら、私は君を殺す。わかったな」



☆キャン・Dとチュー・Zの簡易比較

「キャン・D」

・他人と一緒に服用すると、他人との同一化ができる。

・効果時間は短く、1時間ほど。

・基本はパーキー・パットの模型セットを使う(模型セットなしで服用も可能らしいが、よくわからん)


「チュー・Z」

・基本的に一人で使う。

・効果時間は、使用者の希望により永遠に近い状態にまで延長できる。

・基本は模型セットは要らない(ただし、空想力の補助のために模型セットを使う事はできる)


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