第22話 フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(後)

☆あらすじ(結)


リックがアンドロイド狩りに、イジドアのアパートにやってきた。

リックはアンドロイドの居場所を聞いたが、イジドアはアンドロイドを庇って教えなかった。

(どうやって、ここにアンドロイドが住んでいることをリックは嗅ぎつけたんだろう? まぁいいけど)


リックが人影を見つけ銃を構えると、そこにいたのはマーサーだった。

マーサーにアンドロイドの居場所を教えられ、リックはアンドロイドと対決した。

プリスだった。

リックはプリスを撃ち殺した。そして、残りの2人もリックは追いつめた。

アームガルデが撃たれると、ロイは悲痛な声を挙げた。

「そうか、お前も妻を愛していたんだな」と言って、リックは撃った。

これで全部のアンドロイドを倒した、とリックは思った。


家に帰ると、妻のイーランが「ヤギが死んだ」と言って謝った。

誰かがヤギを殺したのだ、という。犯人はレイチェルだった。


(レイチェルの意図がさっぱりわからねぇ。バカすぎないか?)


リックは、バウンティ・ハンターの仕事を続ける意欲を取り戻した。

アンドロイドへのエンパシーを完全に失ったのだ。

リックは、ウィルバー・マーサーと永遠に融合したと話した。

(ウィルバー・マーサーは永遠に、山を登り石を投げつけられている?)


リックは絶滅種のはずの、ヒキガエルを見つけた。

ウィルバー・マーサーにとってヒキガエルとロバは最も神聖な動物だった(イジドアのエピソードと完全に対応しているけど、含意までは読み取れず)

しかし、ヒキガエルは死んでいた。


リックは帰宅した。

イーランはリックを暖かく出迎えた。リックはイーランにヒキガエルを見せた。

しかし、イーランはヒキガエルが、模造動物だったことに気づいた。

リックの顔には失望の色が広がった。

イーランは夫を慰めた。

「あなたがここに帰ってきてくれてとても嬉しいわ」。

リックの顔がぱっと輝いた。


マーサーは時間を逆行させてはいけない、と殺し屋たちに教えられた。(イジドアと同じエピソード)

その時から、時間は戻ることなく、進むだけになった。

殺し屋たちがマーサーに石を投げている。


イーランは模造ヒキガエルのために、人工ハエを注文する事にした。




☆感想


え……と、んん?? これ、設定破綻してません?


アンドロイドをぶっ倒すメインストーリー部分はわかりやすいので、問題ないです。


ただ、ローゼン協会の目論見がよくわからないですし、マーサー教については

キリスト教をモチーフにして、宗教全般を語ったのだとは思うんですが、

無宗教な僕にはイマイチわかりません。


アンドロイドと人間の区別がつきづらい、という話がテーマな気もしましたが、

レイチェルのヤギ殺しによって、リックはアンドロイドと完全に決別してしまいましたし、

「模造生物でもいいじゃない」なエンディングも、今までの流れと違う気がします

(それなら、アンドロイド(レイチェル)でもいいじゃない、な展開になるべきでは?)


なるほど、映画版「ブレードランナー」は、ハリソン・フォードがただただアンドロイドと格闘戦を演じる、原作とは似ても似つかない作品になっていましたが、

映画製作者も、原作の意味がわからなかったんだろうなぁと思いました。

ディックの場合、深い意味が込められているのか、彼が薬でラリっていたのかがわからないのが

何とも言えないです。


☆わからない点1 マーサー教と、エンパシー・ボックスの謎


エンパシーボックスを使うと、「石を投げつけられる」のは恐らく

『マーサーが石を投げつけられる』+『マーサーとも一体化するから』なのかもしれないが、毎回石をぶつけられる装置を使いたがるのか?


また、使用者は石をぶつけられて血まで出ているが、バスターは『石は、怪我をしないような柔らかいボールでできている』とすっぱ抜いている。


更に、エンパシーボックスを使っている間に死人が出たら、ボックスに繋いでいる皆は死ぬのか。


☆わからない点2 不可解な存在、フィル・レッシュ


謎のバウンティ・ハンター、フィル・レッシュはなぜ『フォークト・カンプフ検査法』を知らないのか。

フィル・レッシュは3年前からガーランドの部下だったと言っているが、半年前に来たガーランドの部下を3年務められるはずもない。

バウンティハンターになりたての頃に、レイチェルと寝ているのだが、レイチェルが作られたのは2年前。


また、なぜ主人公のリックは『ボネリ検査』を知らないのか?

レッシュもリックも、ベテランのバウンティ・ハンターのはずだが??

設定ミスか?


☆わからない点3 ローゼン協会はアンドロイドに占領されている?


ローゼン協会の狙いは何か。

ネクサス6型を市場から回収されたくないという理由だけで、

レイチェル・ローゼンというアンドロイドを作ってまで、不法アンドロイドを匿うのは危険すぎないだろうか?

レイチェルの発言によると、『人間と見分けがつかない、ネクサス7型』の開発も考えているようだが、ネクサス6型ですら検査法が追いついていないのに、更なる新型の製造は危険がすぎる。

ローゼン協会はアンドロイドが社会進出をするための企業として、乗っ取られているとしか考えられない。


レイチェル・ローゼンを使っているローゼン協会は、国連によって営業停止に追い込まれるレベルの不祥事企業だと思うし、レイチェル・ローゼンには抹殺指令(バウンティ・ハンターリスト載り)が出てもおかしくないはずだが、その結末は?


☆わからない点4 作品テーマの一貫性の欠如


『アンドロイド(偽物)』と『模造動物』。

これは『人間(本物)』と『なまの動物』に対応しているはずだが、

『アンドロイド』は✖という展開である(レイチェルの行為がダメ押し)

にもかかわらず、『模造動物』は〇という結末に至るのは、テーマ的におかしくないか。

(論理的には、単に、有害か無害かという理由で解決できるのだが、小説的に対比させるには伝えたい何かがあったはず。ケースバイケースで良いということでいいのだろうか?


アンドロイドのレイチェルと結ばれ、レイチェル側にもエンパシーが生まれるという展開なら、よりアンドロイドと人間の区分がなくなり、より混沌とした作品になっただろうし、そちらの方がディックらしい気がするのだが。


唯一、レイチェルの『ヤギ殺し』を人間的に見た場合、レイチェルはリックを本当に愛し、そのために生じた『イーランへの嫉妬』という線も考えられなくもないのだが、それなら「愛人でいいわ」などと自分で言うだろうか?)


しかし、レイチェル(アンドロイドの一部)が『エンパシー能力を持っており』、フォークト・カンプフ検査法が当てにならず、フィル・レッシュもアンドロイドである、と考えればかなりの矛盾が解決するのだが、実はそうなのだろうか?


(その方が面白いと思うけど、それを読み解くのはかなり難易度が高いと思う)

わからない点5 アンドロイドのパーソナリティーの謎

そもそも『エンパシー』能力がないアンドロイドに、人間の世話が務まるとはとても思えないのですが……??

これが一番の謎で、この設定がおかしいとそもそも設定破綻に感じてしまうので、フォローが欲しいところ。


(例に挙げられている、『肉食種』はエンパシーを持たないという話があるが、アンドロイドは肉食種ではなく、むしろ人間を助けるために作られた『草食種的パーソナリティ』こそ必要とされているはずである。


ローゼン協会の技術力不足で、どうしてもその能力をアンドロイドに植え付けられなかったというのなら話は別だが。


☆ 総論

ディック作品の中で、日本では最も知名度が高い作品ではあるが、

それはタイトルの突飛さ(カッコよさ)と、映画『ブレードランナー』の存在によるものが大きいと勝手に感じている。


しかし、タイトルに反して蜘蛛の足をちょん切ったり、不必要にヤギを殺す『ネクサス6型は電気羊の夢を見る』とは到底思えないため、タイトル付けとしては内容にマッチしているように思えない。


また、「ブレードランナー」は本作の設定だけを借りただけで、ストーリーは全然違うので何とも言えない。

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