第21話 フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(前)

☆簡単な世界観を箇条書きに

・この世界にはムード・オルガンという機械で、心理を調節できる。これをダイヤルする事で、人の気分・行動まで左右できる。


・核戦争の影響で、地球にはほぼ人がいない。今でも放射線の影響が残っており、被曝していない人間はほとんど植民惑星に移住している。

被曝者は『マル得』、知的障碍者は『ピンボケ』と呼ばれ、これらの障碍者は植民地に受け入れられない。


・核戦争で多くの「なま」の生物が死に絶えている。

そして、道徳的になまの動物を飼う事が、人間のモラルの高さを示し、

動物を飼っていない人間は、後ろ指を指される。

なまの動物は高いため、「模造動物(電気動物)」も売られている。


・植民惑星に住む人間のために、アンドロイドが提供されている(ローゼン協会の独占事業??)。

ただし、アンドロイドにはエンパシー(他者への共感)能力がない。

また、アンドロイドには『偽の記憶』を植え付けられていることがある。


・地球に脱走してきたアンドロイドを殺して、賞金を得るのがバウンティ・ハンター(主人公のリック)の仕事である。

アンドロイドか人間かを測定するために、『フォークト・ケンプフ検査法』という検査法が取られている。


・「マーサー教」という宗教が流行っている。これは、『エンパシーボックス』という道具を使って、マーサー&エンパシーボックスをリアルタイムで繋いでいる人々と一体化できる。


・テレビでは『バスターフレンドリーと、フレンドリー・フレンズ』という番組が大ヒットしている。


・物語はバウンティ・ハンターの『リック』と、ピンボケの『イジドア』の二人が語り手となって綴られる。


あらすじ(起)

近未来(1990年代。書かれたのは1969年)のサンフランシスコ。

アンドロイド・ハンターのリック・デッカードは、妻のイーランと暮らしている。


彼が飼っている電気羊は、羊そっくりに作られている。

地球は最終世界大戦の核に汚染されているのだ。


「うちの馬が妊娠したんだ」と隣人のバーバーが自慢してきた。

受精プラズムを買ったのだ。

リックが電気羊のパネルを見せると、バーバーは「お気の毒に」と哀れんだ。

元々はなまの羊を育てていたのだが、破傷風で死んでしまったのだと、リックは主張した。

なまの動物を飼っていない人間は、戦前は犯罪者扱いされていた。

今では犯罪ではないが、差別意識は残っている。


戦争がなぜ起こったのか、どこが勝ったのか、もはやわけがわからなくなってしまった。

地球大半を覆った核の灰が、人類を含め生物を殺していったのだ。


様々なアンドロイドが移住惑星で生産され、植民惑星に行けば無料で配られる。

国連は、放射能に汚染された地球からの植民を、強く推進していた。



郊外にはイジドアという男が住んでいた。

イジドアは『スペシャル』(核汚染された人物)であり、『ピンボケ』(知的障害者。イジドアは軽度な方)である。

遺伝子的に正常でない人間は、植民惑星に移住できないため、イジドアは地球にいるしかないのだ。

エンパシー・ボックスの取っ手を回すと、取っ手を回している人間たち全員の意識が融合し、ウィルバー・マーサーと一体化できる。


イジドアは昔から動物が大好きで、動物をよみがえらせる事すらできた。

イジドアは特にロバとヒキガエルが大好きだった。

今は電気動物の店で働いている。

彼は時間逆行能力を使っていたため、『殺し屋』たちが現れ、彼の脳をいじってしまったのだ。


イジドアのアパートに、新入居者が来たようだ。こちらがピンボケだと気づかれたらまずい、とイジドアは思った。



トップ・バウンティハンターのデイヴが撃たれたというニュースがリックの元に入った。

マックス・ポロコフというアンドロイドは、デイヴをレーザー銃で撃ち抜いたのである。

「高機能新型アンドロイド、ネクサス6型の仕業だろう」と秘書のミス・マーステン。

アンドロイド全般に言える事だが、彼らは他者への共感力を欠き、躊躇なく相手を殺すことができるのだ。


8人(体?)のネクサス6型アンドロイドが、地球に向けて脱走した。

デイヴが2人を片付けたが、残り6人のアンドロイドが残っている。


『フォークト・カンプフ検査法』は新型アンドロイドに通用するとは限らない。

分裂病患者をフォークト・カンプフ検査法が、アンドロイドだと誤認する可能性も取りざたされているという。


リックはネクサス6型アンドロイドを製造するローゼン協会に赴き、実際に『フォークト・カンプフ検査法』がネクサス6型に通用するのか試すことになった。


ローゼン協会に出向くと、レイチェル・ローゼンという女性が彼を出迎えた。

アンドロイド大手のローゼン協会は動物をたくさん飼っており、絶滅動物のフクロウもいた。

リックはアンドロイドと電気動物の相似について思いを巡らせた。


レイチェルは、リックに(というよりバウンティ・ハンターに)悪意を持っているようだった。


社長のエルドン・ローゼンがやってきた。

ローゼン協会はリックを恐れているようだ。

彼の検査でネクサス6型に欠陥があるとわかれば、ネクサス6型を市場から回収しなければならなくなるからだ。


まず、レイチェル・ローゼンをフォークト・ケンプフ検査にかけることになった。

「君は誕生日のプレゼントに子牛の鞄をもらった」

「絶対に受け取らないわ。そんなものをくれる人は、警察に通報します」

「君には子供がいる。その子が、蝶の標本と殺虫スプレーを持ってきた」

「すぐ医者に連れて行くわ」

「君は座ってテレビを見ている。突然手首にスズメバチが這っていた」

「殺すわ」

この質問に対しては、針はほとんど触れなかった。

「君は雑誌を読んでいたら、女性のヌード写真に出くわした」

「これはアンドロイドのテスト? それともレズビアンのテスト?」

「君の夫はその写真が気に入ったようだ。ヌードの女はうつぶせになっていて熊の毛皮に寝そべっている」

針は触れなかった。アンドロイド的反応だった。

「君の夫は、その写真を居間に飾った」今度は針が動いた。

「そんなことをしたら黙っちゃいないわ!」

「戦前の話だ。腹をすかせた男がエビやシーフードを頼んだ」

「まぁ、なんてことを!」とレイチェルは言葉では言ったが、針は触れなかった。

その後も検査を続けていったが、レイチェルはアンドロイド的反応を示していた。


しかし、エルドンは「レイチェルは、アンドロイドではないよ」と言う。

レイチェルは18歳だが、そのうち14年間を宇宙船の中で過ごした。

そのため、一般的な地球人とは違う生活をしてきたのだ。


そして「リックの行なったフォークト・ケンプフ検査法は、人間をアンドロイドと誤認してしまった。

今まで、アンドロイドだと思っていた人間を、何人も誤殺してきたかもしれない」。

ローゼン協会はそう言っている。

しかしリックには、やはりレイチェルはアンドロイドに思えてならなかった。

そして、レイチェルは実際ネクサス6型『アンドロイド』だった。

フクロウもまた、電気動物だった。

(なぜローゼン協会が、リックを騙そうとするのかがわからん。

小説のテーマ提示という意味ではわかるのだけど)



『バスターフレンドリーとフレンドリーフレンズ』のすっぱ抜き情報、があと10時間で行なわれるらしい。

イジドアが新しくきた隣人を訪ねると、隣人の女性は怯えているようだった。

『バスターフレンドリー』は1日23時間放送している番組で、地球の人々はずっとその番組を見ているのだった。

(しかし、この番組クッソつまらなそうなんだが。なんか海外の通販番組を延々やってる感じ)


誰も見ていないと、キップル(ゴミや埃のようなもの)がどんどん増えていく、とイジドアは語った。

誰もいないと、キップルがどんどん溜まっていく。

宇宙全体がキップルに支配されていく、と彼は言う。

女性はエンパシー・ボックスも持っていない。(読者にとっては明らかにアンドロイドだとわかるのだが、イジドアは気づかない)

イジドアは自分がピンボケだと女性にわかってしまったと思い、彼女に告白をした。

彼女は、「私はプリス・ストラットン」と言った。


イジドアはまた「バスター」を見ていた。

彼らは毎日23時間延々喋っているが、どうやってそんなことができるのだろう、とイジドアは思った。

バスターはいつもマーサーを敵視しており、マーサーとバスターは人気を二分しているため、「バスターはマーサーに嫉妬しているのではないか」、とイジドアは思った。


イジドアが引き取って来た猫は、電気猫だと勝手に思っていたが、実は本物の猫だった。

イジドアが気づかなかったため、猫は死んでしまったのだ。

映話(テレビ電話)恐怖症のイジドアだが、飼い主に電話をするように店主のスロートに命令されてしまった。

イジドアは飼い主の妻に、猫の死を伝えた。

そして、飼い主の夫に内緒で、代替の電気猫を送る事になった。


(そもそも、電気動物店になまの動物を持ち込んだ客が悪いと思うのだが???)


☆あらすじ(承)

リックはポロコフを倒すため、動き出した。

ポロコフの出社先に電話をかけてみたが、ポロコフは欠勤しており、彼の家は留守だった。


ローゼン協会のレイチェルから、リックに電話がかかってきた。

「ポロコフの捜査に、ローゼン協会のネクサス6型(レイチェル)が同行する事で、彼の油断を誘えるかもしれない」という。

しかし、リックはそれをやんわりと断った。

ソ蓮警察のカダリーという男と合流し、ポロコフ狩りは続けられた。

しかしそのカダリーこそ、ポロコフだった。

リックはポロコフを倒した。


リックはやはりレイチェルの協力を仰ぐことにした。

次のターゲット、ルーバ・ラフトを仕留めに向かう。

ラフトはオペラ歌手だ。リックはラフトの楽屋に向かった。

アンドロイド特有の、優れた知能と冷たさを感じさせる女性だ。


ラフトは言い逃れをしようとしたが、リックはフォークト・カンプフ検査をラフトに行い始めた。

しかし、ラフトは英語がわからない様子で、全くテストは要領を得なかった。

そして、ラフトは隙をついてレーザー銃をリックに突き付けた。


ラフトは警官を呼んだ。

やってきた警官、クラムズ巡査は、偽物のようにリックには思えた。

クラムズ巡査は「バウンティハンターはすべて知っているが、君の名前は聞いたことがない」と言った。

リックはブライアント警視に映話をかけた。

ブライアント警視が映話に出、そこにいたクラムズ巡査と話をしたいと言ったが、いつの間にか映話は切れていた。

そして、何度かけてもつながらなかった。


クラムズ巡査が映話をかけ、そこにいた警官と話したが、ブライアント警視もリックの名前も知らないと答えた。

クラムズ巡査が向かったのは、リックの知っている警察署ではなかった。


クラムズ巡査たちアンドロイドは、偽物の警察署を作り上げたのだ。

リックの知っている警察署には絶対に行こうとせず、自分たちの偽物の警察署にリックを連行した。

リックが映話を妻にかけたが、イーランではない謎の女に繋がった。

偽物の警察署のガーランド署長も、バウンティハンターのリストに載っている。


バウンティハンターのフィル・レッシュという男が呼ばれた。

しかし、ガーランド署長がポロコフの骨髄検査をすると、ポロコフがアンドロイドだという事が確認された。

レッシュが一時立ち去ると、ガーランド署長がレーザー銃をリックに向けたが、気を変えた。

「レッシュはアンドロイドだが、レッシュ本人はそれを知らない」とガーランドは言った。

ガーランドは、ポロコフの事を知らなかった。そのせいで、墓穴を掘ってしまったのだ。

(事前にリストを見ているのに、なぜその程度の連想もできなかったん?)


この警察署からかけた電話は、警察署内部のオフィスに繋がるだけなのだ。

(じゃあなんで、最初ブライアント警部に電話が繋がったの!?)


ガーランドがレッシュを撃とうとする前に、レッシュがガーランドを撃ち抜いた。

レッシュはガーランドが3年以上前から、自分の上司だったと言った。

しかしガーランドが脱走してきたのは半年前のはずだ。

アンドロイドであるレッシュには偽の記憶が植え付けられているのだろう。

レッシュはリスを飼っているらしい。

レッシュは、自分が人間であると確信するため、自発的に「フォークト・カンプフ検査法」を受けたいと言った。


ムンク展にいるらしいラフトを、レッシュとリックは追いかけた。

(一応、地球でもオペラや展覧会は行われているのね)

ラフトはリックを見ると血の気が引いた。彼女は諦めたようにリックについてきた。

ラフトはアンドロイドを嫌悪していた。

ラフトがレッシュを挑発し、レッシュはラフトを撃った。


レッシュの名前は脱走アンドロイドのリストには入っていなかった。

そして、『フォークト・カンプフ検査法』を行なった結果、レッシュはアンドロイドではなかった。

(レッシュの正体が不自然すぎるけど後述)


リックは、自分にも『フォークト・カンプフ検査法』を行なってみた。

リックは、女性のアンドロイドに対してエンパシーを感じるようだ。

実際ラフトのオペラ歌手としての実力に対して、もったいなさを感じていたのだ。

しかしレッシュは、「リックが単に女性型アンドロイドに性的魅力を感じているだけだ」と言った。


☆あらすじ(転)

イジドアは自分のアパートに帰り、プリスの部屋を訪れた。

プリスはイジドアに話し始めた。

「アンドロイドも寂しいのよ」とプリスは言う。


ロイとアームガルデの夫妻(プリスの仲間)が彼女の部屋に合流した。

ロイが一行のボスのようだった。

イジドアを「ピンボケ」と嘲るプリスを、アームガルデが注意した。

アンドロイド3人の意見は分かれたが、結局イジドアを利用し、

アンドロイドたちの庇護者として頼る事にした。


リックはヤギを買って帰ってきた。

イーランはこの喜びを分かち合うために、マーサー教の皆と一体化しようと言い出した。

一体化することで、他人の喜びも悲しみも分かち合うことができるのだ。


「アンドロイドは命が助かりたいだけなんだ」とリックは思った。

スクリーンにマーサーの映像が映った。

「救済は、どこにもないのじゃ」とマーサーは言う。

「あんた方が孤独でない事を、示すためにわしはいるのじゃ」。

石ころが飛んできて、耳に命中した。

(イジドアがエンパシーボックスを使った時も、石が飛んできて出血をしている)


リックは残り3人と戦い、それで仕事を終わりにしたいと考えていた。

リックはレイチェルに映話をし、助力を求める事にした。

アンドロイドは夢を見るという。だから、たまに雇い主から脱走し、地球にやってくるのだ。

(夢=睡眠時の夢ではなく、希望・野望のこと)

レイチェルは急いで来てくれた。


レイチェルに言わせると、プリスはレイチェルとそっくりだという。

レイチェルはプリスに「エンパシー」的なものを感じ、塞いでいた。


リックはレイチェルにキスをした。

レイチェルはリックに「愛してる」といい、ベッドに誘うが、リックは難しいと感じた。

アンドロイドと性行為をするのは、理性的にならず欲望に任せれば可能だという。

レイチェルと同じ顔をしたプリスをこれから殺すリックにとって、それは難しかったが、

とうとうリックはレイチェルと寝た。(結局寝るんかーい!)


アンドロイドの寿命は4年ほど。

レイチェルは2年生きているので、残りは2年ほどということになる。

リックはレイチェルに惹かれ、アンドロイドを殺すことができなくなりつつあった。

しかしリックはレイチェルに謀られていた。

レイチェルは以前から、バウンティ・ハンターと寝ることによって、バウンティ・ハンターを骨抜きにしてきたのだ。

ただし、駆け出しだった頃のフィル・レッシュだけは骨抜きにできなかった。

レイチェルは彼らの仲間だった。


(レイチェルがここで、そんな余計な事を言うのは、彼女が人間の機微に欠けるからで説明がつくが、愚かすぎる失策で片付きますが、

他に意味不明な点が多すぎ。最大の謎はフィル・レッシュ。

第二の謎はローゼン協会)


アンドロイドたちはテレビで「バスター・フレンドリー」を見ようと言い始めた。

例の大発表があるのだ。

イジドアが蜘蛛を見つけアンドロイドたちに見せると、アンドロイドたちは

「8本も足は必要ないでしょ」と蜘蛛の足を切ってみようと言い出した。

イジドアは驚いて「お願いだから、足を切らないでくれ」と言った。

しかしプリスは蜘蛛の足を1本切り落とした。

(これも、イジドアの心を離れさせる愚かすぎるミス。エンパシー云々以前の問題で、単にアンドロイドはバカなんだと思う)


「バスター・フレンドリー」が発表した内容はこうだ。

マーサーが歩いている空は、地球の空ではなく、人工的に作られた空だという。

月は書き割りの月、マーサーはハリウッド映画の舞台セットを歩いている、ジャリ―という三文役者だとのことだ。

要するに、マーサー教はイカサマだというのが「バスター」のすっぱ抜きだった。


蜘蛛の足を切り裂き続けるアンドロイドたちに、イジドアは恐怖を感じ続けていた。

「あなたが損をしたわけじゃないじゃん」とプリスが言う。

そして、バスターの正体はアンドロイドだった。


イジドアはマーサーは「インチキ役者」だと認めたが、

足を切られた蜘蛛はいつの間にか治っていた。


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