第19話 アガサ・クリスティ「ナイルに死す」(3)
☆あらすじ7(ロザリー殺害事件)
荷物検査で、ロザリーの荷物から小型のピストルが発見された。
そして、ルイーズのベッドの下から、心臓を刺された彼女の死体が発見された。
ルイーズは紙幣の欠片を持っていた。
彼女は、殺人犯を脅迫し、殺されてしまったのだろう。
『どうして私に何かを観るか、聞くかをできるんですか? 私は近くにいなかったんです。
私は下のデッキにいたんです。何も聞こえるはずがないんです。
もちろん眠れずに上のデッキにいたら、マダムを殺した犯人を見ることができたかもしれませんけど』
朝、彼女はそう言っていた。実際、彼女は上のデッキに行って真犯人を見たのだ。
これで事件に明るい光が見え始めた。
この犯人は、度胸・大胆さ・行動力を持っている。
こうした人は、物惜しみする慎重さはあまり持っていないものだ、とポワロは言う。
ルイーズはメスのようなもので殺されたという。
ベスナー医師のメスが盗まれていないか?とレイス大佐が聞くと、ベスナー医師は烈火のごとく怒りだした。
ジャクリーンとロザリーが、笑いながら話していた。
ロザリーが笑っているのを、ポワロは初めて見た。
口紅の比べっこをしていたらしい。
ジャクリーンとロザリーの2人を相手に、ポワロは殺されたルイーズの話をするが、
目はロザリーを凝視していた。
「なぜ私を見るんです? 何を考えているんですか?」と言うロザリーに
「なぜ本当の事を全て話してくださらないんですか?
ピストルを鞄に入れている事を話していません、それにゆうべ見た事もすべて話していません」とポワロ。
「変な事を言わないで、ご自分の目で確かめてください」とロザリーがハンドバッグを渡すと、ピストルはなかった。
「あなたが何を見たか、私に言ってほしいのですか? あなたは、リネットの部屋からある男が出てきたのを見たのです。黙っている方がいいと思っているのでしょうね。殺されてしまうかもしれませんからね」
ロザリーは「……私、誰も見ていません」と言った。
ミス・バワーズがサイモンの容態を話し出すと、ジャクリーンは気が気ではないようだった。
「怪我自体よりも、敗血症になる恐れがあります。この発熱は良くない兆候です」。
「あの人、死ぬの? 死んじゃうの?」
「そうなりません。そうならないことを、祈っています」。
涙で目がかすむジャクリーンを、ポワロが支えて彼女の部屋にエスコートした。
「死んじゃう、死んじゃう、私が殺したことになるのよ。私が殺したことに」
「起きたことは仕方がないです。してしまった事は取り消せません」
「こんなに愛しているのに、こんなに愛しているのに」
「あなたは彼を、愛しすぎているのです。ともかく、バワーズさんの言う事を真に受けてはいけません。看護師さんというのは、最悪の状態を前もって伝えるものですからね」と慰めた。
「私を慰めに来てくれたの?」
「あなたはこの旅行に来るべきではありませんでした」
「えぇ、来なければよかったと思っています。でも、もうすぐ終わるわね。サイモンは病院に行って、手当をうけて、すっかり良くなるの?」
「そうして幸せに暮らしましたと、童話のハッピーエンドのようですね。
太陽が沈めば月が昇る、そうではありませんか?」とポワロ。
「あなたは誤解しているわ。彼は私を憐れんでいるだけよ……」とジャクリーンはうつむいた。
レイス大佐が、リケッティの電報のことでポワロに話しかけてきた。
「メイドのルイーズが死んだときに、私は真相を確信しました」とポワロが言った。
リネットが間違ってリケッティの電報を読んでしまい、リケッティが激怒した事件の話を、ポワロとレイス大佐はサイモンから聞いた。
その電報の内容を話そうとしたとき、
「私、言いたい事があるの! ミスター・ドイル、私、奥さんを殺した人を知っているの!」と、
オッタ―ボーン夫人が嵐のように登場した。
☆あらすじ8 オッタ―ボーン夫人殺害事件
「ルイーズを殺した犯人と、リネットを殺した犯人は同一人物、ということですよね?
私はルイーズを殺した犯人を見たの! ということはリネットを殺した犯人も知っているということよね!?」
サイモンが大声をあげた。
「最初から話してください!! あなたはルイーズを殺した犯人を知っていると言いましたね!?」
オッタ―ボーン夫人は、酒を隠れてのむために、一人で行動していた(酒に関しては、夫人は当然ごまかした)。
戸口のカーテンが動いた。
そして、ルイーズを殺した犯人についてオッタ―ボーン夫人が今まさに語ろうとした瞬間、
カーテンの陰から銃殺された。
慌ててレイス大佐とポワロがデッキに飛び出した時には、もう無人だった。
船室の外にリボルバーが落ちていた。ペニントンのリボルバーだった。
角を曲がると、銃声に驚いたティム・アラートンとぶつかった。
誰とも会っていないという事だった。
船首の方にはファンソープとファーガソン、船尾の方にはティム・アラートンがいた。
ポワロはアラートン夫人に話しかけた。
「ロザリーを連れて行って世話をしてあげてください。彼女のお母さんが殺されたのです」
ペニントンをポワロとレイス大佐が尋問した。
「ミセス・オッタ―ボーンが殺された? 全然わけがわからない……この船には殺人鬼が乗っているらしい……」
彼は、20分ほど前から部屋の外に出ていないという。
ミセス・オッタ―ボーンがペニントンのリボルバーで殺されたと聞くと、ショックを受けた。
銃声がしたとき、この部屋で書き物をしていたが、誰も証言をしてくれる人はいないという。
「私、あの子の事がとても好きなの。前からいい子だと思っていました。あのおぞましい母親に、本当に尽くしていました」とアラートン夫人は言った。
「娘さんはとてもつらい人生を送っていたのでしょう」
「プライドが高くて、誰にも話せず、他人と打ち解けられなくて、それでもとても親思いな娘さんです」とポワロが言うと、
「親思いというところもとても気に入っています。私を頼りにしてくれて、とってもいじらしい娘さんです」とアラートン夫人は暖かく言った。
船首と船尾、そして手すりからぶら下がって、下のデッキに降りるという第三の選択肢があると、ジャクリーンは言う。
☆あらすじ9 ファーガソンのプロポーズ事件
「金だらけのバカ女リネットと、それに寄生するフランス人メイド、そしておぞましいオッタ―ボーン夫人。この3人が死んで、それがなんだっていうんだ」と、相変わらず冷笑的なファーガソンに対して、
コーネリアは
「オッタ―ボーン夫人が死んだことで、娘のロザリーさんがとても悲しんでいる。それに、リネットさんはとても美しくて、女神さまのようで、圧倒されるようでした。美しいものがなくなったら、それは世界の損失です」と言う。
「ポワロさん、知っているかい? このお嬢さんの父親は、あのリネットの父親に破産させられたんだ。なのに、このお嬢さんは、あのリネットが宝石で着飾って現れたとき、歯ぎしりして悔しがるどころか、『なんて美しい人なの』なんて言って、怒ったりなんて全然しないんだ!」
「私だって、少しだけ怒ったこともありました。でも、それは全部過去のことです。終わった事です」
「参ったな、コーネリア・ロブソン。あなたは僕が出会った唯一の善良な女性だ。僕と結婚してくれないか!?」唐突なプロポーズをするファーガソン。
「バカなことを言わないでください」
「いや、本気のプロポーズなんだ。僕は正面からこの女性に結婚を申し込んだんだ!」
「私、あなたは本当にバカげた人だと思います。あなたは真面目な人じゃありません。だから信用できないんです」と言うと、コーネリアは赤面して寝室へ入って行った。
「気骨がある。一見気が弱そうだが、芯が強い。あぁ、あの子がほしい! あの意地悪ばあさんの心証を損ねれば、逆にコーネリアに振り向いてもらえるかもしれないな、よし!」
とファーガソンはバン・スカイラーの元に向かった。
「バン・スカイラーさん、僕はコーネリアさんと結婚したいんです!」と言うと、バン・スカイラーは一瞬呆然とすると
「あなたは頭がおかしいようね」と言った。
「僕は結婚を彼女に申し込みましたが、拒絶されました」
「まぁ、当然よね」
「全然、当然じゃないです。彼女がイエスと言うまで、何度でも申し込むつもりです!」
「そんなことは全く問題外です」
「僕には腕が2本・足が2本あって、健康で、理性的な頭があります。それで何が不満なんです!」
「社会的地位というものがあるでしょう?」
「地位なんてくだらない」とファーガソンは一喝したとき、コーネリアが入って来た。
「コーネリア。おばさま曰く、『僕はあなたにふさわしくない』そうだ。それは確かにそうだ。
でも、おばさまが言っているような意味でじゃない。心の大きさの事で言うなら、僕はあなたの足元にも及ばない。でも、おばさまが言うには僕の社会的地位が、あなたに比べて絶望的に低いんだそうだ」
「それはコーネリアにもわかっているはずですよ」とミス・バンスカイラー。
「そうじゃない!」とコーネリアは言った。
「もし、あなたの事が好きなら、あなたがどんな地位だろうが結婚します。でも、私、あなたのことが全然わからない。あなたみたいな不真面目な人、会った事がない」と言うとコーネリアは逃げ出して行った。
「今すぐここを出て行ってちょうだい。じゃないと給仕を呼びますよ?」というバン・スカイラーに、
「僕だって船の切符を買っている。あなたに偉そうに言われる筋合いはない。ですが、まぁここは未来のおばさまのご機嫌をとっておきますよ」というと、ファーガソンは出ていった。
ポワロがバン・スカイラーに話しかけた。
「あの一族はみんな変わり者ですねぇ。あなたなら、彼の爵位がなんだかわかるでしょう?」
「爵位、ですって!?」と驚くバン・スカイラーに
「あの人は、ドーリッシュ卿のご子息です。もちろん大金持ちですよ」
ポワロは新聞で彼を見、持ち物検査で指輪を見た事で確信を得たとのことだ。
「あなたにとても感謝しますわ、ムッシュー・ポワロ」と俗物のバン・スカイラーは出て行った。
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