第15話 アガサ・クリスティ「オリエント急行の殺人」(前)

☆前置き


今回も雑なあらすじ解析の記事になります。

備忘録的な記事であって、テーマに沿った感想記事ではないので質は低いと思いますが、よろしくお願いします。


初読時はかなり感動してS評価をつけたのですが、再読してみるとA評価まで下がってしまいました(汗)

記憶よりも、人間ドラマ部分が少なくて、こんなにトリック重点だったかなぁ、と。

とはいえ、名作だと思いますので、ミステリファンは必読の本だと思います。犯人に意外性があり、おまけにパロディ・本歌取り作品もありますので、むしろ犯人を知らない初心者のうちに読んでおきたい作品です。


☆登場人物(表)

オリエント急行乗客名簿


ラチェット(アメリカ)……アメリカ人の富豪。被害者。

ヘクター・マックイーン(アメリカ)……ラチェットの秘書。

ピエール・ミシェル(フランス)……車掌。

エドワード・マスターマン(イギリス)……寡黙なラチェットの召使。

ハバード夫人(アメリカ)……騒々しいおばちゃん。

グレタ・オルソン(スウェーデン)……羊に似た弱々しい宣教師。

ドラゴミロフ侯爵夫人(ロシア)……リンダ・アーデンの親友。ソニアの名付け親。

ヒルデガルト・シュミット(ドイツ)……ドラゴミロフ侯爵夫人のメイド。

アンドレイニ伯爵(ハンガリー)……外交官。

エレナ・アンドレイニ伯爵夫人(ハンガリー)……アンドレイニ伯爵の妻。

アーバスノット大佐(イギリス)……インドで従軍していたイギリス人。ミス・デヴナムと親しいが、それを隠そうとしている。

メアリ・デヴナム(イギリス)……アーバスノット大佐と仲が良い。

サイラス・ハードマン(アメリカ)……ピンカートン探偵社の探偵。

フォスカレッリ(イタリア系アメリカ人)……車の営業マン。

ブーク……オリエント急行の重役。ポワロの助手的役割を務める。

エルキュール・ポワロ(ベルギー)……名探偵。


☆5年前に起きたアームストロング事件の関係者


デイジー・アームストロング……殺された幼児。

カセッティ……デイジー殺害犯。

ソニア・アームストロング……デイジーの母。事件の影響で流産し、死亡。

アームストロング大佐……軍人。妻と娘を失い、自殺。

リンダ・アーデン……名女優。デイジーの祖母。ソニアの母。

スザンヌ……フランス人メイド。デイジーの子守り。冤罪を受け、自殺。



☆作中で共有されている国籍偏見について

イギリス人……内気で、打ち解けるまで時間がかかる。忍耐強く、頑固だが誠実。


アメリカ人……陽気で、単刀直入で、すぐに打ち解ける。アメリカは人種のるつぼのため、色々な国の外国人を雇うのはアメリカぐらいだという。


イタリア人……カッとなりやすく、すぐにナイフを持ち出す。



☆当時の状況について

オリエント急行の殺人は1934年の作品。

モデルになった「リンドバーグ愛児誘拐事件」は1932年。


ナチス・ドイツの誕生は1933年。

1939年から始まる第二次世界大戦に少しずつ近づいている時期だが、まだ5年の歳月があり、欧州では恐らくまだナチスへの警戒心は強くないと思われる。


ロシアは1917年にソ連へと生まれ変わったが、ドラゴミロフ伯爵夫人は老人で、ソ連の思想にかぶれている様子は全くないこと、ソ連を構成する国の一つとしてロシア共和国があるため、作中表記のままロシア人とした。


インド……当時イギリスの植民地。(アーバスノット大佐やアームストロング大佐がいたのは、そのため)


イラク……1932年、イギリスから独立したが、実質イギリスの影響下にあった(ミス・デヴナムがバグダッドで家庭教師をしていたのはそのため)


アガサ・クリスティは1928年に離婚し、中東を旅をし、1930年に考古学者のマローワンと再婚。

(マローワン氏と結婚してから、クリスティの作品にはナイル・メソポタミア・オリエント急行など異国での事件や、人間ドラマに深みが出来たように思う)



☆序章

タウルス急行のアレッポ駅(現シリア)で、フランス軍絡みの事件をポワロは解決した。

ポワロはこの後、イスタンブール(トルコ)に滞在し、観光することにした。

バルカン地方は大雪だとのことだが、大雪さえなければ明日にはイスタンブールに着くとのことだ。


メアリ・デヴナムはろくに眠れなかった。しかし、ポワロの滑稽な姿を見ると、少し愉快になった。

乗客はほとんどいなかった。

バグダッド(イラク)から乗ったメアリと、インドにいたアーバスノット大佐という2人のイギリス人、それにポワロだけだった。

メアリは有能そうな20代後半の女性だった。

アーバスノット大佐は40代くらい。

「おはよう、ミス・デヴナム」「おはようございます、アーバスノット大佐」とあいさつをする2人。

二人はイギリス人同士、(外国人の)ポワロを無視し、お互い、共通の知人がいることが判明し、会話が打ち解けていくようだった。

アーバスノットはデヴナムに気があるな、と観察してポワロは愉快になった。

「素晴らしい景色だわ……できれば……心から楽しめればいいのに」とデヴナムは言った。

「このようなことに、あなたを巻き込みたくなかった」とアーバスノット。

そして、ポワロの存在に気付き、話を変えた。

ミス・デヴナムは家庭教師をしているようだった。


その夜、大佐とミス・デヴナムは停車駅に出た。

アーバスノット「メアリー……」

メアリー「ダメよ、今はまだダメ。全てが終わってから、全てが終わってから」と二人の雰囲気はすっかり恋人のようだった。


翌日の昼、列車が急停車した。

「列車が遅れてしまったら大変! イスタンブールに行って、そこからオリエント急行に乗るの。時間に遅れたらオリエント急行に乗り遅れてしまう!」とミス・デヴナムは落ち着きがない。

幸い、彼女の心配は杞憂に終わった。


ポワロに電報が届き、イギリスでの仕事が舞い込んだためイスタンブールでの観光を諦め、ポワロはオリエント急行を予約した。

駅で、ブークという電車会社の重役に出会った。


レストランに行くと、30歳ぐらいの感じの良いアメリカ人と、60代とおぼしき男がいた。

60代の男からは、奇妙な悪意と緊張を感じた。

若い男はマックイーン、60代の男はラチェットといった。

「60代の男からは、まるで猛獣のような印象を受けました。外見は立派なのですが」とポワロは言った。


この真冬に、一等寝台も二等寝台もほとんど全てふさがっているとコンシェルジュは言った。

団体客ではなく、たまたまだそうだが、オフシーズンにこれだけ客が入るのは前代未聞だった。

二等寝台の7号室、イギリスのハリスという男性がまだやってきていないので、そこにポワロが入る事になった。

7号室には既に先客がいた。先ほど、ラチェットと同席していたアメリカ人のマックイーンだった。

結局、マックイーンと相席することになった。

オリエント急行は発車した。


☆オリエント急行、発車

ここにいるあらゆる階級・あらゆる国籍の人々は、3日の間ずっと一緒に過ごす。

そして、この列車を下りれば二度と会う事はないだろう。


乗客には、

とてつもなく醜く、逆に惹きつけられてしまう老貴婦人、ロシアのドラゴミロフ侯爵夫人。

別のテーブルにはミス・デヴナムもいた。

アーバスノット大佐はミス・デヴナムの後ろ姿をじっと見ていた。


ラチェットがポワロの向かいに腰を下ろした。

「あなたはエルキュール・ポワロさんでしょ? あなたに仕事を頼みたい。

莫大な金を払います。私は命を狙われている」と言ったが、ポワロはその提案を断った。

「2万ドルなら引き受けるかね?」とラチェットは言ったが、ポワロは

「こんな失礼な事を言うのも気が引けますが、あなたの顔が気に入りません」と言ってポワロは出て行った。

(失礼すぎて草wwww)


列車の旅は2日目になり、乗客同士打ち解けてきた。

アーバスノット大佐はマックイーンと話をしていた。

おしゃべりで騒々しいハバード夫人が、羊に似たスウェーデンの女性宣教師グレタを気遣っている。

ハバード夫人はラチェットの隣の寝室なので、とても不気味だと言っていた。

ポワロとハバード夫人は別れ、お互い自分の部屋に戻り灯りを消した。


夜中、どこかでうめき声がしてポワロは目覚めた。午前0時37分だった。

ヴィンコビチ駅(=現クロアチア・当時ユーゴスラビア)で停車していた。

車掌がラチェットのドアをノックしたが、「何でもない、間違えたんだ」と男の声がした。フランス語だった。

ポワロがミネラル・ウォーターを頼むと、ミシェル車掌は、

「『ハバード夫人が同じ寝室に男がいる!』と言ってきかないのだ」、と困り顔でポワロにぼやいた。

雪だまりに突っ込んで、列車は止まっていた。

赤ガウンの女の後ろ姿が目についた。


それからポワロは朝まで眠った。

朝9時45分に起きても、雪で列車は止まったままだった。

「ここに何日いるのかしら!」とハバード夫人は憤っていた。

「自分もミラノに商用がある」とイタリア人のフォスカレッリも怒っていた。

「妹が待っているんです」とグレタが涙声で言った。

ミス・デヴナムは予想に反して、あまりいらだっていないようだった。

以前はあれだけ取り乱していたというのに。


ブークに呼ばれポワロが行くと、「ラチェットが死んでいる」と言うのだった。

推定死亡時刻は午前0時から2時の間。

0時37分に、ラチェットの声が聞こえたのが最後ということだった。

死体は12か所も刺されていた。

「そういう刺し方をするのは女だけだ」とブークは言った。

「傷のうち、1か所か2か所は強烈な一撃で、冷静な犯行ではなさそうだ。出鱈目に好き勝手に刺した感じで、ナイフが逸れてかすり傷のようになっているものもある」とのことだ。


ギャングの犯行ではないかという意見も出たが、どう見てもプロの犯行ではない。

ブークから、この事件の解決をポワロは依頼された。


犯人は、イスタンブール~カレー(フランス)間の乗客に絞られる、とブークは言った。

雪に足跡はなく、誰も外に出た様子はないようだった。


☆捜査開始

まずはラチェットの秘書、マックイーンから事情を聴くことにした。


マックイーンはペルシャ(イラン)でラチェットと出会った。

仕事がなくて困っていたので、ラチェットの秘書になった。

あちこち旅行をして回る事になった。

「ラチェットというのは多分本名ではなく、あちこち旅行をしているのもアメリカにいられなくなって、逃げている」からではないか、とマックイーンは言った。


最初の脅迫状が来たのは2週間前だった。

「お前を捕まえてやるぞ、ラチェット。お前を始末してやる、もうじきだ、いいな」という手紙だった。

この手紙は2人以上の人物が書いている、文字や単語を各自が1つずつカッチリした活字体で書かれたものだった。


「ラチェットに好意は持っていなかった。ぼくは、あの人が嫌いだったし、信用してもいなかった。残酷で危険な人だった。根拠はないんですけどね。ただ、ラチェット氏とはとてもうまくいっていましたよ」

と、マックイーンは言った。

ゆうべの22時頃にラチェットを見たのが最後だという。

マックイーンは冷静な人物で、12か所もめった刺しにするような行動はとてもとりそうにない人物だった。


死体は12か所刺されていて、致命傷と言える傷が3か所あるとのことだ。

既に死亡した後にも刺されていた。

また、右手ではつけられない傷も残っている。

2人か、複数の人間が刺したのだろう。


「犯人は怪力であり、非力であり、右利きであり、左利きであり、男であり、女である。話にならん!」とポワロは苛々してきた。

しかも被害者は無抵抗のまま刺されている。


捜査中、『R』のイニシャルが付いたハンカチが落ちていた。

被害者の胸ポケットには、ひどくへこんだ金時計が入っていた。

午前1時15分で止まっている。

1時15分が犯行時刻だ、と医師は言う。


犯人は男なのか、女なのか。

犯人を男性だと見せかけるために、わざとパイプクリーナーを落としていったのか、

犯人を女性だと見せかけるためにわざとハンカチを落としていったのか、

男女の犯人が、2人ともそそっかしくてお互いに自分のものを落としていったのか。


平べったいマッチ。これだけは犯人のものだと思われる。

証拠の手紙を燃やすために、使われたのだろう。

紙片を復元していくと、『小さなデイジー・アームストロングの事を忘れ……』


これでラチェットの本当の身元がわかった。

カセッティ。

アメリカで起きた、『アームストロング誘拐事件』の犯人だった。


☆アームストロング事件


アームストロング大佐はイギリスとアメリカの混血で、大佐の妻はソニア。

その母親が女優のリンダ・アーデンだった。

アームストロング大佐とソニアの間には娘のデイジーが生まれたのだが、3歳の時にカセッティに誘拐され、莫大な身代金を要求された。

身代金を渡したにもかかわらず、デイジーは殺された。

ソニアは妊娠中だったが、ストレスで早産してしまい、母子ともに死亡。

更にアームストロング氏も絶望のあまり自殺した。

また、フランス人メイドのスザンヌは冤罪を受け、身を投げて自殺してしまった。

カセッティは金を積んで、無罪放免となった。

その後アメリカを離れ、ラチェットと名乗り外国で暮らしてきたという。


☆フランス人の車掌ミシェルの証言


夕食のすぐあと、ラチェットはベッドに入った。

その後、召使とマックイーンがラチェットの部屋に入っているが、それ以外の入室者は知らないという。

0時40分頃、ベルが鳴らされた。駆けつけると、「間違えたんだ!」とフランス語で声がした。

ハバード夫人が何度もベルを鳴らしていたのに対処し、ポワロにミネラルウォーターを渡し、

マックイーンの部屋にベッドメイクをしに行った。アーバスノット大佐が一緒にいたようだ。

アーバスノットはベッドメイクが終わるころに、自室に戻った。2時前だった。

その後は、朝まで自分の席にいた。

ご婦人が一人、車両の向こう側のトイレに行ったようだった。後ろ姿しか見えず、龍の刺繍がある真っ赤なガウンを着ていた。

その頃、ポワロも一瞬顔を出した。

大きな音に関しては、ミシェルは聞かなかったとのことだった。

ラチェットの部屋をノックしているとき、ドラゴミロフ侯爵夫人の部屋からベルが鳴った。

メイドを呼んでほしいとのことだった。



☆秘書マックイーンの証言


ラチェット=カセッティだということを知ると、マックイーンは激怒した。

もし知っていたら、あいつなんかの秘書になるわけがなかった、という。

マックイーンの父は検事で、あの事件にかかわっていたという。

マックイーンは昨日の事をポワロに回顧した。


ベオグラード駅(現セルビア・当時ユーゴスラビア)では寒くてすぐに列車に戻った。

イギリス人のアーバスノット大佐と話し中にポワロが通りかかった。

ラチェットのところに行き、手紙の口述筆記をし、お休みのあいさつをした。

その後、またアーバスノットを誘い、お酒を飲みながら語り合った。

車掌がベッドメイクをしている間、煙草を吸い、その後ぐっすりと眠った。

アーバスノット大佐と、ヴィンコブチという駅に降り立ったが、あまりに寒かったのですぐ車内に戻った。

通路を一度車掌が通った。それから反対側から女性が一人歩いて行った。

真っ赤な服を着ていたのをちらっと見た。

戻ってくる姿は見ていない、という。

煙草を吸うときは、パイプは使わない。


☆召使マスターマンの証言


ラチェットの召使マスターマンから話を聞くことになった。

ゆうべは、ラチェットの服を畳んだり、ハンガーにかけたり、入れ歯を水につけたりした。

ラチェットは手紙を読んで、神経をピリピリさせていたようだった。

睡眠薬を飲んで、寝たようだった。

「気前のいいかたでした。ただ、アメリカ人はどうも苦手と申しますか……」とマスターマンは言った。

アームストロング誘拐事件を「何ともいたましい事件でした」と言ったが、

ラチェットが主犯だと聞くと、「到底信じられません」と彼の言葉に熱が入った。


ラチェットの寝室を出た後はマックイーンに連絡をし、その後は自室で本を読んでいた。

同室者はフォスカレッリだった。

フォスカレッリが寝たがっているので、自分も寝る事にしたが、歯が痛くて眠れなかった。

自分は全然眠れなかったが、フォスカレッリはずっと寝ていた。

パイプは吸わない、とマスターマンは言った。

「差し出がましいかもしれませんが、アメリカの年配のご婦人が興奮しているようです」とマスターマンは言った。



☆ハバード夫人の証言


興奮していたのはハバード夫人だった。

「犯人は私のコンパートメントにいたんです!」と彼女は取り乱していた。

「ベッドに入って、ふと目が覚めたら、コンパートメントに男がいました。もう怖くて怖くて、悲鳴もあげられなくて、怯えていました。

どうにか気力を振り絞ってベルを何度も鳴らしたのに、車掌が来てくれなくて本当に怖かったし、電車は止まったままだったし。

ドアにノックが響いて本当にほっとしました。

そうしたら、なんとコンパートメントには誰もいなかったんです。

男がいたことを車掌に話したんですが、全然信じてもらえませんでした。

私は妄想を抱くような人間ではありません!

隣の部屋との扉の閂が外れていたので、車掌に閂をかけてもらって、スーツケースも立てかけておきました。


男がいた証拠として、ボタンを取り出した。車掌のボタンだった。

ミシェルは閂をかけたけれども、窓の側には一度も行っていない。

けれど、車掌のボタンは窓のところに置いてあったという。

グレタに閂がかかっているかを確認してもらったら、かかっていると言われたので、閂はかかっていたと思うと言う。

グレタはアスピリンをもらいに来たのだった。


グレタは一度間違えて、ラチェットの部屋を空けてしまい、笑われたらしい。

「私 間違いします あの人いい人じゃないです 『私じゃ歳をとりすぎです』 言われました」とのこと。


殺されたのがカセッティだったと知ると、ハバード夫人は興奮した。

真っ赤な絹のガウンは持っていないと、ハバード夫人は言った。

真っ赤なガウンの女は自分の部屋に入ってはこなかった、と言う。

となると、ラチェットの部屋に入ったのだろう。

ハバード夫人が出ていくタイミングを見計らって、ポワロはハンカチを渡した。

しかし、『R』イニシャルのついたこのハンカチは、ハバード夫人のものではないと言った。



☆スウェーデン人女性グレタの証言


グレタ・オルソンは、羊みたいに大人しそうな女性だった。

フランス語はできるので、フランス語でやりとりをした。

イスタンブールで寮母をしていて、看護師の資格を持っているという。


うっかりラチェットの部屋を開いてしまい、謝ってドアを閉めたら、笑いながら下品な事を言われたという。

生きているラチェットの姿を見た最後の人間はこの時のグレタだった。


その後、ハバード夫人の部屋に行き、アスピリンを分けてもらったという。

ハバード夫人の部屋の閂を確かめ、アスピリンを飲んで自室でベッドに入った。

しばらくの間、眠れなかった。ウトウトしていたとき、どこかの駅に停車したという。

同室者はイギリス人の若い女性、ミス・デヴナムだ。

デヴナムは部屋を出て行ってはいないという。

グレタ本人も部屋を出ていない。真っ赤なガウンは持っていない。

ミス・デヴナムも真っ赤なガウンを持っていない。


アメリカに行った事はない、とグレタは言った。

アームストロング誘拐事件についても知らなかった。

説明を受けると、グレタは激怒した。

「世の中に、そんな悪魔のような男がいるなんて。胸が痛みます」と涙しながら出て行った。

…)

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