第14話 アガサ・クリスティ「そして誰もいなくなった」(後)
☆小さな兵隊さんが4人、海に行ったら燻製ニシンに食べられて、残り3人
ピストルはロンバードの机の中に戻っていた。
夜が来た。
4人は朝まで、バリケードの中に閉じこもった。
ベラはシリルの事を思い出す。
「僕、どうして岩まで泳いじゃいけないの?」
「もちろんよ、シリル。あなたは泳げるわ。明日、お母様に話しかけて、気をそらすの。その間に、岩まで泳いでみたら?」
ヒューゴーに遺産が入り、彼と結婚するためにシリルを殺したのに、
ヒューゴーはベラの考えを見破り、去って行った。
ブロアの部屋の前を誰かが通り過ぎた。足音は階段に向かっている。
ブロアはそっと尾行することにした。
玄関から誰かが出ていくのが見えた。
という事は、誰もいない部屋があるということだ。
ベラもロンバードもいたが、アームストロングはいなかった。
ベラを部屋に残し、ブロアとロンバードの2人でアームストロングを探したが誰もいなかった。
テーブルの兵隊人形は3つになっていた。
『小さな兵隊さんが4人、海に行ったら燻製ニシンに食べられて、残り3人』
(燻製ニシン=偽りの手がかり)
☆小さな兵隊さんが3人、動物園に歩いて行ったら熊に抱かれて、残り2人
朝になった。天気は晴れたが、まだ波は高かった。
ブロアがまたもロンバードに口論を吹っかけ、ギスギスした雰囲気になった。
屋敷内よりも外の方が安心だ、とベラは言い、2人もそれに同意した。
昼食の時間になり、ブロアは一人昼食を取るために屋敷に戻った。
ベラとロンバードは2人で外に残った。
ロンバードは、ベラがシリルを殺した事実を引き出した。
突如、屋敷の方から地響きがした。
ブロアの頭が白大理石の塊に打ち砕かれていた。
ベラの部屋の、熊の形の時計が落ちたのだ。
『小さな兵隊さんが3人、動物園に歩いて行ったら熊に抱かれて、残り2人』
☆小さな兵隊さんが2人、日向ぼっこしてたら日に焼かれて、残り1人
ロンバードとベラはアームストロング医師の死体を発見した。
ベラとロンバードは互いしかいない事に気づいた。
2人は、お互いを犯人だと信じた。自分が犯人じゃない以上、相手が犯人でしかありえないのだから。
2人はアームストロング医師の遺体を、砂浜に引き上げた。
その間に、ベラがロンバードからピストルを盗み取った。
ロンバードはベラにとびかかった。ベラは反射的に引き金を引き、ロンバードに命中した。
ロンバードは死んでいた。
『小さな兵隊さんが2人、日向ぼっこしてたら日に焼かれて、残り1人』(詩に合っていない気がするけど)
☆小さな兵隊さんが1人、1人になってしまって首を吊る、そして誰もいなくなった
とうとう終わった。ベラの全身に安心感が広がっていった。
ベラは島で一人きりだった。
ベラは屋敷に向かって歩き出した。
台所の兵隊人形はまだ3つ残っていた。
ベラは2つ取って、それを放り投げた。
最後の1つの人形を握り、ベラは歩き出した。
ヒューゴーが2階で待っている気がしてならない。
階段を上りきったところで、ベラはピストルを落としたが気づかなかった。
ベラは思わず息をのんだ。
天井のフックから、輪のついたロープがぶら下がっており、椅子まで用意されていた。
それが、ヒューゴーの願いなのだろうか。
人形がベラの手から落ち、割れた。
「シリル、岩まで泳いでいいわよ」人を殺すのなんて簡単だ。けれど、いつまでも忘れられない。
ベラは椅子の上にあがった。輪を首に入れた。ヒューゴーがそこで見守っている。
ベラは椅子を蹴った。
『小さな兵隊さんが1人、1人になってしまって首を吊る、そして誰もいなくなった』
☆事件は迷宮入り
イギリス警察は困惑していた。
島に遺体が10体あったが、生きている人間は1人もいないのだ。
職業斡旋所のモリスも死んでいた。島の買い取りの全てを取り仕切った。
(ウォーグレイブ判事って、島を買い取るほど大金持ちなんですか!?
判事の給料ってそこまで高給なんですか??)
「絶海の孤島で、一週間生き残れるかの実験が行われる。だから救助信号があっても気にしないように」とモリスが住民に言っていたというのだ。
レコードは、アマチュア演劇の劇団員が吹き込んだものだった。
モリスは、一行が島に行く前に死んでいる。
ベラ、エミリーが日記をつけ、ブロア、ウォーグレイブもメモをしている。
ベラが死んだ後、誰か他の人間が椅子を動かした人間がいたということも捜査で判明した。
☆真犯人からのボトルメール
私は、ロマンチックな性向がある。
だから、この犯罪告白をボトルに閉じ込め、手紙を海中に投じた。
私は、生き物が死んだり、殺したりするのを見るのが好きだった。
一方で、相反する強い正義感も持っていた。
だから法律を職業に選んだ。
被告席に座る死刑囚が、苦しむのを見るのがとても楽しかった。
一方で、無実の人間が苦しむのを見るのは耐えられなかった。
シートンの判決も、確たる証拠があり、私には明らかな有罪だった。
ところが、この数年、自分の手で人を殺したくなってきたのだ。
私は犯罪芸術家になりたくなった。
しかし罪もない人を苦しませてはならない。
法律の手の届かないところで人が死ぬことが多い、と町医者が言った。
ロジャーズ夫妻が、雇い主に薬を与えなかったために雇い主が死んだ。
この手のことは立証できない。
私は獲物を探し始めた。アームストロング医師の話は、病院で聞きだした。
クラブで、マッカーサー大佐の話を仕入れた。
ロンバード、ブロワなどの罪も仕入れた。
最後に探しだしたのはベラだった。ヒューゴーという男と同席したのだ。
「ぼくも、人を殺した女性を知っています。それどころか、僕はその女性に夢中だった。
彼女は、僕のために人殺しをしたようなものだった。明るくて気立ての良い普通の女性が、子供を海に連れ出して、溺れさせるなんて。
僕がその子(シリル)を愛していたことを、彼女(ベラ)は気づかなかったんです」
10人目はモリスだ。彼の売った麻薬で、命を落とした者がいたのだ。
(モリスから職業斡旋を受けて兵隊島にやってきた人たち、現代だと闇バイトに引っかかるぐらいのリテラシーしかなさそう……
1人でも兵隊島に来なかったら、この犯罪は成立しないので、はっきり言って万に一つの奇跡というか、まず不可能な事件だと思うんですが)
私には余命がもう少なかった。死ぬ前に、この犯罪芸術を成し遂げなければならない。
客は全員8月8日にやってきた。モリスは既に殺してある。
ロンドンを出発する前に、カプセルを渡しておいたのだ。
殺す順番は慎重に考えた。
罪の最も軽い者が最初に死ぬべきだ、と考えた(個人的に僕の考える罪の重さとは別なんだが……)
まずマーストンを、次にロジャーズ夫人を殺した。
ロジャーズ夫人は、ロジャーズにそそのかされての犯行だったに違いない。
仲間が必要だったので、アームストロング医師を仲間に引き入れた。
アームストロングはひたすらロンバードを疑っていたので、それに同意するだけで良かった。
ロジャーズを殺した際に鍵を盗み出し、ロンバードのピストルを盗み、エミリーに青酸カリを注入した。
犯人に罠を仕掛けようということで、私を次の犠牲者に偽装しようというのだ。
海藻を事前に仕掛けておいて、ベラの悲鳴で皆が二階に駆け付けた隙を狙って、
アームストロング医師の検死を受けた。
深夜2時15分に、相談の為と称してアームストロングを誘った。
崖の下を覗いたアームストロングを後ろから押して、殺した。
ピストルはロンバードの部屋に隠しておいた。
ピストルは一時的にビスケットの缶詰の一番下に隠しておいたのだ。
ブロアを殺し、ベラがロンバードを殺すのを見ると、ベラの部屋に自殺装置を仕組んでおいた。
洋服ダンスに隠れながら、私はベラが自殺するところを見た。
椅子を元の位置に戻し、この手紙を書き、ピストル自殺した。
第一の手がかりは、完全に無罪なのは私だけだからだ。(←唯一、推理可能に思える手がかり。とはいえ、かなり弱い)
第二の手がかりは、燻製のニシンであり、アームストロングが騙されたことがわかるはずだ。アームストロングが信用しそうな人間は私しかいない。(←燻製ニシンまではわかっても、アームストロングが誰に騙されていたかまでは凡人にはわからないと思う)
第三の手がかりは、死んだ私の遺体に残るカインの刻印だ(←わかるわけねーだろ)。
以上が「兵隊島殺人事件」の真相である。
☆ 法的根拠ゼロ、100%独断のキャラ診断
マーストン……クソガキ。他人を轢き殺しても全く反省の色がない。
こんな奴は死んでほしいので、処刑を支持。
ミス・ロジャーズ……非常に怯えている夫人。遺産目当てで夫と共に前の主人を殺害。
確実に有罪だが、処刑されるほどかは不明。
マッカーサー将軍……妻の不倫相手を、死地に赴かせた軍人。
有罪ではあるが、情状酌量の余地が大いにあり、本人もずっと引きずっている。処刑は不支持。
本人もあまりもう長く生きていたくない様子ではあるが……。
ミスター・ロジャーズ……夫人と同じく。性格がほとんど出てこないため、何とも言えない。ただ、ウォーグレイブの推測によれば事件は彼が主導したものなので、それが当たっているならミセス・ロジャーズよりも罪は重い。
エミリー……狂信的なキリスト教信者だが、独善的で不愉快な女。身ごもったメイドを解雇し、自殺へと導いた。
非常に不愉快なので死んでくれてもいいが、いくらなんでもこの程度の罪で処刑は不可。
ウォーグレイブ判事……真犯人。非常に頭が切れる。
勝手に自殺してしまうが、独善的(たまたま彼の直感・観察眼は当たるようだが)。10人殺しているわけだからさすがに処刑が当然。
アームストロング医師……すぐに狼狽する気が小さい医師。医療事故は明らかに有罪だが、それ以来悔い改め、断酒に成功している事を考えると処刑は不可。ただ、ウォーグレイブに騙されて事件の片棒を担いだ愚かしさは度し難い。
ブロア……自分を棚に上げて他人に疑いをかけ続ける、いけ好かない男。探偵のくせに無能で、ウォーグレイブ(偽探偵)やロンパ―ドよりも頭が悪い。
金のために偽証をし、ジェイムズを有罪にし、結果ジェイムズは獄死した。
正直嫌いなキャラで、明らかに有罪だが処刑されるほどではない気がする。
ロンバード……危ない香りがするダーク・ヒーロー的存在。生きるために食料を持って逃げたのは卑怯な行為だが、犯罪と呼ぶべきか否か。処刑は不可。
ベラ……愛のために子供を殺し、生きるために相棒を殺す。生きるためならなんだってする人間だが、個人的に情状酌量の余地あり。処刑は不可。
☆感想
正直なところ、原文が悪いのか、訳が悪いのか
「ベラは言った」「ウォーグレイブは言った」のような単調な文章が続き、退屈さを感じます。
やはり10人のキャラを同時に動かすのは難しいのでしょうか。
ベラとロンバードの関係は、映像化された映画版やドラマ版と比べ、淡泊というか惹かれ合っている感じはあまりしません。
個人的にクリスティは大好きな作家なのですが、『終りなき夜に生れつく』、『五匹の子豚』、『ナイルに死す』、『死の猟犬』あたりに比べるとだいぶ落ちる感じがします。
一番売れた作品にこんなことを言うのもなんですが💦
☆映画版(1945)
モノクロ映画ですが、面白かったです。
ロンバードとベラが信じあい、真犯人のウォーグレイブを炙り出すハッピーエンドは原作とは別ですが、やはり結局はこの2人が信じあえるかどうかで運命が変わってくるんですね。
ドラマ版(原作も)の方がリアリティがありますが、こちらの方が後味も良いし、これはこれで良いなと思いました。
☆ドラマ版(2015)
サスペンス色を極限まで高めた、非常によくできたドラマ。
BBCドラマは質が高いものが多いですね。
今まであまり考えた事がなかったのですが、これは「バトルロワイアル」もののご先祖様なのかなとも感じました。
ジャンル的にはスリラーなんですが、ホラーに近い。
1人ずつ人が死んでいく、人が減れば減るほどお互いへの不信が募っていく、
そんな作品でした。
ストーリーを知ってる・知らない以前に、真犯人の俳優さんが悪役顔すぎるけどw
原作も含めて、犯人の情報収集能力や犯罪遂行能力が凄すぎて超人じみているのは、不可能に近い気がしますが、
彼こそ兵隊島に君臨する『GOD』(神)だと考えるのが、正しい観方・読み方なのかもしれないと思いました。
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