第11話 アガサ・クリスティ「アクロイド殺し」(前)
☆前おき
アガサ・クリスティについては以前2回、自分のブログで書いたぐらい大好きな作家です。
個人的ベスト5は「終わりなき夜に生まれつく」、「五匹の子豚」、「ナイルに死す」、「鏡は横にひび割れて」、「死の猟犬(短編集)」の5つ。
他にも数えきれないぐらい好きな作品があります。
今回解析したのは、その中で大好きな「ナイルに死す」と「オリエント急行の殺人」、そこまででもない「そして誰もいなくなった」、個人的凡作の「アクロイド殺し」の有名作4つです。
トップバッターは「アクロイド殺し」ですが、
記事の文字数が1万字を超えたので、2回に分けます。
なお、本作はポワロシリーズの3作目。
3作目にして既にポワロは引退を決意し、ワトソン役を務めていたヘイスティングスはアルゼンチンに追いやられています。
恐らく、クリスティも最初の「スタイルズ荘の怪事件」では、クラシックなホームズスタイルを模倣して、ポワロ&ヘイスティングスというペアを登場させましたが、2作目の「ゴルフ場殺人事件」で既にヘイスティングスの存在なしでも、作品が書ける事に気づいたのだと思います。
ヘイスティングスは最終作「カーテン」にも登場する、ポワロの親友ですが、驚くほど長編では登場が少ないですね。
☆登場人物まとめ
この小説にはたくさんの登場人物が出てきますが、あまりキャラが立っていないなどの理由で混乱してしまうので、先にまとめをつけます。
いきなりネタバレですが。
ミス・フェラ―ズ……シェパード氏を毒殺し、『謎の男』に恐喝されていた。ロジャー・アクロイドの恋人。
ロジャー・アクロイド……タイトルになっている通り、殺された人。アクロイド氏とのみ書いている場合は、彼を指す。
ラルフ・ペイトン……ロジャー・アクロイドの養子。イケメン。フローラの許嫁。ぶっちゃけ、クズ。
フローラ・アクロイド……ロジャー・アクロイドの姪。美人。ラルフと許嫁で、ポワロに事件を頼むことを言い出す。
セシル・アクロイド……フローラの母。ロジャーの弟(故人?)と結婚していた。ウザキャラ。
パーカー……アクロイド家の執事。最初に疑われる人物。
ミス・ラッセル……アクロイド家のメイド長。アクロイド氏と一時期いい関係だったっぽい。
アーシュラ・ボーン……アクロイド家のメイド。事件当日は休んでいた。
ヘクター・ブラント……アクロイドの友だち。フローラを密かに愛している(フローラとは年の差があるため、自分の出る幕ではないと思っている)。
キャロライン……噂好きのおばちゃん(?)。シェパード氏の姉。ミス・マープルの原型とされていた。
シェパード医師……語り手であり、犯人。
エルキュール・ポワロ……紹介するまでもない名探偵
他にもたくさんいますが、最小限に絞って紹介しました。
☆事件の真相
物語解析に入る前に、いきなり真相を書きます。
フェラ―ズ氏は1年前、フェラ―ズ夫人に毒殺されました。
それをシェパード医師が知り、フェラ―ズ夫人を恐喝していました。
フェラ―ズ夫人は耐えられなくなり、ロジャー・アクロイド氏に遺書の形で自分を恐喝していた人物への恨みを書きます。
シェパード医師は窮地に陥り、アクロイド氏を殺した。
まぁ、簡単に言っちゃえば、ケチなゆすり屋の犯罪で、
当時鮮烈だったトリックを除くと、あまり面白みがないと個人的には思います。
それが反映されての低評価になります。
再読してみると、フローラとブラントの歳の差カップルが一服の清涼剤となっているのと、ラルフが記憶以上にクズだったのと、そのクズに献身的なアーシェラの存在によって
D→Cに評価をあげてもいいかなと思います。
☆アクロイド氏が死ぬまで
語り手はシェパード医師の一人称。
キングズ・アボット村で、ある日フェラ―ズ夫人が亡くなった。
家に帰り、姉のキャロラインと食卓を共にする。
キャロラインは村の情報通で、ミス・マープルの原型とも思われる。
1年前にフェラ―ズ氏は死んでおり、その時はフェラ―ズ夫人が毒殺したとキャロラインは信じて疑わなかった。
夫を毒殺した良心の呵責により、フェラ―ズ夫人は自殺したのだとキャロラインは勝手に信じている。(前者は当たっている)
夫人は遺書を残してはいなかった。
キャロラインがうっかり真相を見破ってしまい、それを村中に吹聴したら、非常に困るとシェパード医師は感じた。
今回の被害者アクロイド氏は、村の金持ちであり、たくさんのクラブに加入し、村の中心的存在である。
アクロイドは以前結婚していたが、妻はアルコール中毒で亡くなり、以後結婚していなかった。
アクロイドには、25歳のラルフ・ペイトンという義理の息子(妻の連れ子)がいる。
ラルフ・ペイトンとフェラ―ズ夫人は、夫人が亡くなる前日、内緒話をしていたのだった。
アクロイドと、フェラ―ズ夫人は非常に仲が良く、村人たちの噂ではデキていると思われていた。
フェラ―ズ夫人が来るまでは、ミス・ラッセルというメイド長とデキていると噂されていた。
アクロイドの家には、セシル・アクロイドという義妹と、その娘(姪)のフローラが居候している。
シェパード医師は往診中、アクロイド氏と出会った。
「恐ろしい事が起きた。すぐに話し合いたい」とアクロイド氏。
隣の家に、最近外国人が引っ越してきた。カボチャ栽培をしているポロット氏という男だそうだ。
シェパードが庭いじりをしていると、ポロット氏のカボチャが飛んできた。
これが、シェパードとポワロの出会いだった。
ポワロは探偵稼業に嫌気が差して、田舎に隠遁したのだが、事件から離れてみるとまた事件が恋しくなったのだという(この時、シェパードはポワロを理容士だと信じていた)。
ポワロは、旧友ヘイスティングスを懐かしんでいた。アルゼンチンに行ってしまったようだ。
シェパードは、1年前遺産を相続したのだが、無茶な投資をしてしまい、結局再び医者の仕事に戻ったのだった。
ラルフ・ペイトンと、フローラ・アクロイド(アクロイド氏の姪)が結婚することを、
アクロイド氏は喜んでいたそうだ。
ラルフは、早くアクロイド氏が死ねば遺産が手に入るのになぁと、誰かと話していたとキャロラインは言った。
ラルフがシェパードに相談に来た。「自分一人で何とかやらなきゃいけないんだ」とラルフは言った。
(『アクロイド殺し』があまり得意でないのは、主要人物以外の村の人々が多すぎて、
一人ひとりのキャラが弱いからだったりする。
僕の好きな『終わりなき夜に生まれつく』『五匹の子豚』『葬儀を終えて』『ナイルに死す』などのクリスティ作品は、キャラが絞られていて感情移入しやすいのである)
夕食が終わり、シェパードはアクロイド氏に呼び出された。
フェラ―ズ夫人に、フェラ―ズ氏の毒殺を告白されたというのだ。
そしてアクロイド氏は、フェラ―ズ夫人が殺人者だと知ると、結婚する気をなくしてしまったのだ。
「一人の人物が全てを知っていて、フェラ―ズ夫人を脅迫し、大金を巻き上げていた」のだった。
シェパードはフェラ―ズ夫人とラルフが親しそうに話していたのを思い出した。
シェパードは一瞬不安を感じた。しかしその後、ラルフが親しそうに対応してくれたのを思い出し、不安を打ち消した。
「その者の名は言おうとしなかった」とアクロイド氏は言った。
アクロイド氏は、恐喝者が自分の家庭内にいるんじゃないかと心配しているようだった。
告白された瞬間、アクロイド氏はフェラ―ズ夫人を告発すべきか、黙っているべきか非常に迷っていた。
そして、迷っている間にフェラ―ズ夫人が自殺してしまったことで、アクロイド氏は非常に苦しんでいるのだった。
(完全に後出しジャンケンでこの解析を書いていますが、こうしてみると確かに伏線は張られていますね。普段のテキトー読みでは流してしまうところですが)
アクロイド氏は、フェラ―ズ夫人を強請っていた者を絶対に許しちゃおけないと言った。
そして、フェラ―ズ夫人が遺言を絶対に残しているはずだと言った。
シェパードとアクロイド氏が話していると、そこに手紙が届いた。
フェラ―ズ夫人が亡くなる前に投函した手紙だった。
「これは、私一人で読みたいんだ」とアクロイド氏は言った。
結局、シェパードが帰宅するまで、アクロイド氏は手紙を読まなかった。
シェパードの帰宅中、謎の男から「ファンリーパーク(アクロイドの家)はこっちかね?」と聞かれる。
シェパードが帰宅すると、アクロイド氏の執事パーカーから電話がかかってきた。
アクロイド氏が殺された、というのだ!
館に急行したが、パーカーはそんな電話を掛けた覚えはないという。
アクロイドの部屋に駆け込むと、アクロイド氏はやはり死んでいた。
背後から短剣で刺されていたのだ。
シェパード氏はやるべきことをこなし、帰宅した。
☆前半
警察の捜査が色々と行なわれる。
シェパードは21時15分には家に帰っていたが、21時30分にアクロイド氏が誰かと話しているのを聞いたと、館の執事レイモンドが答えた。
漏れ聞いた声によると、「最近とても物入りなので、あなたの要求に応じる事はできかねる」。
つまり、誰かが金の無心をアクロイド氏に行い、アクロイド氏が断る声を聞いたということだ。
アクロイド氏を刺した短剣は、チュニジア製の短剣という珍しい骨董品だった。
椅子の位置が引き出され、いつの間にかまた戻されていた(シェパードの仕業)
21時15分にフローラがアクロイド氏と話し、『アクロイド氏は以後誰とも話したくない』とパーカーに言ったそうだ。
シェパードが帰宅した後に、フローラがおじのアクロイドにお休みのあいさつをしたとのことだ。
アクロイドの死去をフローラに伝えたのは、アクロイドの旧友ブラントだった。
そのフローラを部屋に通し、フローラが去る時に声をかけたパーカーが怪しい、というのが警察の最初の見立てだった。
シェパード氏が家に帰ると、キャロラインは『パーカー犯人説』をバカにして一刀両断する。
フローラ・アクロイドが家にやってきた。
ここで、シェパードはポロット(ポワロ)が名探偵だという事を知る。
シェパードは、ポワロを事件に引き込まない方が良いと反対する。
ラルフは夜9時から、失踪していた。21時25分にアクロイド邸の近くで目撃され、それ以降誰も彼を見ていない。
そのため、警察はラルフを疑っていた。
フローラは、恋人のラルフが疑われているので焦っていた。
フローラに頼まれ、ポワロは事件に乗り出した。
シェパードは昨夜、ラルフにも会いに行ったのだった(既に読者に情報を隠している)
ポワロは「事件の当事者全てが何か隠し事をしている」という。
警察が作ったアリバイリストでは、メイドのアーシュラ・ボーン以外はアリバイがきちんとあるようだ。
そのため、犯人はラルフ・ペイトンにほぼ絞られた。
ポワロは助手として、シェパードと行動を共にする事となった。
フローラ・アクロイドが一人でいるのを目撃する。
叔父が死に、恋人が容疑者な割には楽しそうだった。
フローラとブラントが会話をしていた。
「そのうち上等な毛皮を、あなたに届けましょう」とブラントが言うと、フローラは喜んだ。
そろそろアフリカへ戻る時が来たと語るブラントに、
フローラは「すぐにはいなくならないでください」と頼んだ。
「私たちみんながあなたにいてほしい」と語るフローラに、
「あなたの気持ちを聴いているんです」とブラントが言った。
「私も、あなたにいてほしいです。あなたと話すと、心が慰められる気がします」と言うと、
ブラントは「それならば、留まりましょう」と話した。
そして、ブラントは「ラルフが犯人ではないよ」とフローラを慰めるのだった。
フローラが楽しそうな理由は、アクロイド氏が2万ポンドも遺産を残してくれたからだった。
これで自由になる、これでお金の心配をしなくてもすむようになる、嘘をつかなくてもすむようになる、とフローラは言う。
「何をするのも、何をしないのも、自由」だとフローラは言った。
(何をしない=財産目当てに、ラルフと結婚しないで済む、の意味です)
フローラは、ラルフについては心配していない、ポワロに頼んでいるからと語った。
池の中に光るものを見つけ、ポワロは泥だらけの池から光るものを取り出した。
池の中に落ちていたのは女性用の結婚指輪。『Rより』
ラルフ・ペイトンは浪費癖があり、アクロイド氏に金の無心をしていたらしい(最近はしていない)。
ラルフ・ペイトン、セシル・アクロイド、フローラ・アクロイドに大金が、
ミス・ラッセルに1000ポンド、レイモンドに500ポンドの遺産が残されたようだ。
ブラントもまた、お金に少し困っているようだった。
1年前に遺産が入ったのだが、怪しい投機をして失敗してしまったのだった
(1年前に遺産が入って、怪しい投機をして失敗した奴2人目w
世界大恐慌と関係あるのかな?と思ったけど、この作品が書かれたのはまだ1926年でした)
セシル・アクロイドは遺産がたくさん舞い込んできたにもかかわらず、不満があるようだった。
ロジャー・アクロイドはお金についてケチで、フローラにお小遣いもあげなかったと故人について文句を言った。
自由になるお金がないことに、フローラは不満だったとのことだった。
アクロイド氏のお金が40ポンド盗まれていた。
メイドのアーシュラ・ボーンは昨日、テーブルを乱してしまい、アクロイド氏から解雇通告を受けたらしい。
アーシュラ・ボーンの前の雇い主に話を聞きに行くシェパード。ポワロと離れて単独行動となった。
アーシュラの過去に関して、前の雇い主は言いたくないようだった。
シェパードが家を離れている間、キャロラインの元にポワロが訪ねてきたようだ。
ラルフが指名手配された。
フローラはラルフの行方を全く知らない、ということだった。連絡もないらしい。
セシル夫人がラルフに対して当てこすりを続け、財産の話までして、空気をひどく悪くする。
そのせいで、フローラは「明日、ラルフとの婚約を発表する」と決めてしまった。
ポワロは、フローラに対して「2日だけ、婚約発表を延期してほしい」と懇願する。
ラルフに対しても、その方が良いという。
シェパードに道を聞いた謎の男はアメリカ訛りがあり、他の村人にも道を聞いていた。
アクロイド氏の部屋からは40ポンドと、ブルーの封筒(フェラ―ズ夫人からの手紙)がなくなっていた。
ラルフは怪しすぎた。だからこそ、ラルフは犯人ではないのでは?とポワロは言うのだった。
次回はこの続きから!
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