第9話 アーサー・C・クラーク「2001年宇宙の旅」

☆ 前置き


アーサー・C・クラークの「2001年宇宙の旅」を読んだのは、2014年だった。

しかし、第1章のヒトザルが出てくるところ以外、サッパリ面白くなかった。

同年、有名な映画を、当時付き合っていた彼女と一緒に見たのだが、二人して寝てしまう始末であった。


あれから9年、僕の環境も(悪い方に)変わったが、衰えるだけでなく、

少しは成長した部分もあったようだ。

それは、「2001年宇宙の旅」の内容を、かろうじて理解できる力を得た、という、それだけの事かもしれない。

そして、それは僕の人生に役立つわけでも、女の子にモテるわけでも、

自作小説の執筆に役立つとも、思えないのであるが……。

それでも、今日、2023年6月18日は「成長」を感じる1日となったのだった。


というわけで備忘録ですが、正直この作品はストーリーの筋を追う読み方よりも、俯瞰的に読んだ方が理解しやすい本だと思います。

一応ストーリーの筋を書きますが、後でまとめを書きます。


☆人類の成り立ち(第1部)

太古の昔、アフリカでヒトザルたちは食料に飢えていた。

彼らは『弱かった』からである。トカゲやネズミ、木の実などを食べて暮らしていた。

カモシカになど敵うわけもなかった。

ヒョウにはいつも狙われていた。


彼らの中の巨人であり、長老でもある25歳の『月をみるもの』は身長150センチ弱、体重40キロ弱で二足歩行をすることができた。

頭の容積は大きくなっていたが、肌は全身毛に包まれていた。


ある日、ヒトザルの長老『月を見るもの』は、不思議な長方形の物体(モノリス)を眺める。

モノリスの発するオーラを浴びた『月を見るもの』は、石を振り下ろし、イボイノシシを倒した。

『道具』を使う事を覚えたのだ。

ヒトザルたちは、動物の歯を刃として使用し、石を鈍器として、狩りができるようになった。

イボイノシシやガゼル、カモシカなどを食べられるようになり、ヒトザルたちの栄養状態は改善されたのだ。


ヒョウですら撃退することのできたヒトザルたちは、更なる繁栄を続け、やがて地球の最大勢力となる。

そして300万年が経った。


(ぶっちゃけ、再読しても、この1章が一番面白いと感じてしまう僕なのであったw 脳の作りがガチSFには向いてないんですよw)


_____________________


☆ フロイド博士の章


今、地球では人口増加が著しく、食糧問題が深刻化していた。

中華帝国は周辺の国に核兵器を安価に売りさばき、核保有国は38か国になっていた。


月の人類居住区では病気が流行り、隔離地区ができているという噂が流れていた。

フロイド博士は、宇宙船で月へと旅立った。


(宇宙船内部の話が続く)

(合衆国エリアと東側エリアに分かれているのが、時代を感じさせる)

(中国が、核兵器の代わりに、自分たちが治療方法を知っている病気を開発しているという珍説が流れている、というのがコロナ陰謀論を彷彿とさせて面白い)


フロイド博士は、ソ連のディミトリと親友で、色々と議論を交わす仲である。


新聞しか選択肢がないが、インターネットを思わせる描写があるのも興味深い(リアルの2001年のインターネット状況は、多分この作品より進んでいる)


地球から月までは1日と少しで着く。フロイド博士は月にたどり着き、クラビウス基地に向かった。

・月の低重力では、成長が早く、それでいて老けるのが遅い

・重力が6分の1なのでスイスイ移動できるが、方向転換などでは苦労する


などの月のうんちくが語られる。


月の疫病発生は嘘の煙幕で、アメリカ合衆国は何かを隠していた。

月で見つかったのは、TMA-1と呼ばれる、埋められたモノリスだった。

300万年前、地球外知的生命体によって作られたものなのだ。

モノリスとはいったい何なのか、科学者の間でも意見が分かれ、さっぱりわからないのだった。

地球外知的生命体も、一体どの星からやってきたのか、謎は深まるばかりだ。


☆第3部-1 ボーマン船長の話


宇宙船ディスカバリー号では、ボーマンとプールの二人が乗組員として乗船していた。

二人は12時間交代制で、同時に二人が眠る事はない。

ディスカバリー号は土星を目指し、ディスカバリー2号が救助を来るのを待ち、順調ならば7年で地球に帰ってくるという遠大な計画である。

ボーマンとプール以外の、3人の乗組員は冷凍睡眠で眠っている。

更に、コンピュータのHAL(以降ハルと書く)が宇宙船を制御している。

HALはチューリング・テストに造作なくパスするぐらい、人間に近いコンピュータである。


ディスカバリー号は、アンテナで地球と繋がっている。

以前は地球に残した恋人などとも連絡していたのだが、やがて疎遠になってしまった。


今や、地球からはあまりに遠いので、光速でも地球へは50分かかる。

木星の姿がやがて見えてきた。

やがて木星をかすめ、速度を増して土星へと向かっていく。


☆第3部―2 HALの反乱の話


プールの家族から、プールの誕生日を祝う映像が送られてくる。

そこにHALからの通告が入った。

「地球との通信を司る外部ユニットが故障しそうだ」という。

プールが宇宙船外に出てスペアユニットと交換するが、しかし、外部ユニットは故障していなかった。


とすると、HALの故障の可能性があった。

HALの接続を切った方がいいのではないか?と管制官と話した二人。

HALはここ3週間ばかり、自発的に喋る時に電子的な咳ばらいをするようになった(この頃から、自我を持つようになった?=機械としては故障)


そこにHALが再び「さっき交換した外部ユニットがまた故障しそうだ」と言ってくる。

「間違いは誰にでもある」というボーマンに対し、

「意地を張りたくはないが、私は間違う事はできない」と言うHAL。

外部からの管制ではやはり、外部ユニットの故障ではなく、HALの故障だという。

その通信の最中にいきなり外部からの通信が途切れ、HALの妨害が入った。

「今すぐ外部ユニットを交換してくれ」とHALが警報を出したのだ。


そんなバカな、と思いつつプールが再びスペアユニットを交換しに行く。

プールの指示に対し、HALは「了解」の合図を返さなかった。

そして、HALが操る脱出ポッドがプールを轢き殺した。

プールの死骸は、土星へと進んでいった。


「君は取り乱しているんじゃないか?」とHALは言う。

「手動冬眠コントロールを全部くれ」とボーマン。

この緊急事態にはなるべく大人数で対処したかった。

「そもそも一人でも起こす必要があるのかい? 我々だけでも十分やっていける」とHAL。


今までのHALの行動は、ミスという事も考えられる。

しかしこれはHALの主体的な発言だった。

「まだクルー全員を起こすつもりなら、私がやろう」とHAL。

「自分でやりたいんだ」

「これは私がやる。君はひどく動揺している」

「命令する。この船の最高責任者は僕だ、手動コントロールを渡せ」

「君が理性的な行動をとれない以上、最高責任は私(HAL)に移ることになる」

「命令に従わないなら、接続を切るしかない」

「しばらく前から君がそれを考えていたのは知っているよ」

「私の命令に従えないなら、セントラルで君の接続を切る」

「……わかった」

HALとの緊張感あふれる対話の後、HALはボーマンに主導権を渡した。

しかし、冷凍冬眠装置はHALによって切られていた。今、ボーマン以外の乗組員は死亡したのだ。


(ここの部分は、「2001年宇宙の旅」を理解する上では大したシーンではない。しかし、ほぼ唯一と言って良い、緊迫感溢れる娯楽性の高いシーンなので、書きだした)


HALは極秘指令を与えられていた。

ボーマンとプールには知る必要が生まれるまで、真実が隠蔽されていた

(なぜやねん。隠す必要が全く感じられないんだが??)

その事にHALは悩み、少しずつおかしくなっていったのだ。

HALにはミスが増えて行った。

最後の引き金は「接続を切る」という発言だった。

そこでHALは自分の生命を守るため、必死の抵抗を試みることになり、乗組員たちを殺したのだった。

HALはボーマンのいるディスカバリー号の一区画を真空状態にした。


ボーマンは何とか安全地帯に移動した。

ボーマンはセンター地区に行き、HALを消去することにした。

HALは嘆願するように、色々と喋りかけたがボーマンは極力気に留めず、作業を続けた。

HALはどんどんおかしくなり、最後に「デイジー・ベル」の歌を歌い、消えた。


月にいるフロイド博士から、ボーマンへ通信が来た。

ミッションの本来の目的が明かされる。

300万年前に埋められたモノリスが、月で見つかったという話だ(フロイドの章参照)。

掘り出されると、モノリスは大量のエネルギーを放射した。

太陽を引き金として、土星に信号を送っているのだ。


埋められていたモノリスが、太陽を引き金として……という事から、

ひょっとすると高度知的生命体の警報装置なのではないかとフロイド博士らは考えた。

土星の第8衛星ヤペタスに、モノリスからの通信が送られていたのだ。


ボーマンは考える。

HALは、嘘をつくことに耐えられなくなったのだろう、と。

だから、嘘をつくよう強いる地球との連絡を断ちたかった。

そして、自らの生命の危機にパニックとなったのだろう、と。


「生物の住処としては、土星は適したものではない。

高度知的生命体の出自は、土星からやってきたのではないだろう。

恐らく太陽系外のものだろう。

地球から、太陽系外とは最も近いアルファ・ケンタウリまでは2万年かかる」という説があった。


一方で、

「地球の尺度で考えるのがそもそもおかしい。人類のように短命な生命体ではないのかもしれない。

光速は超えられない、という常識も間違っているかもしれない」という説もあった。


高度知的生命体は、やはり人類型なのだろうか?

そもそも有機的な生命体なのだろうか? 肉体というものを持っていない可能性すらある。


要するに、何もわからないのだった。


ボーマンは孤独な宇宙の旅を続けた。

土星の輪は、300万年昔に生まれた。奇しくも、人類の誕生と同じ時期に生まれたのだ。


ディスカバリー号はヤペタスに接近した。

ボーマンはランデブーに挑んだのである。

そしてヤペタスには、月で見つかったモノリス「TMA-1」とそっくりで、遥かに巨大なモノリスが設置されていた。


ある生命体は、宇宙を回り、星の海へと乗り出した。

彼らは様々な生命体を見、進化の形態を見守った。

そして彼らは、進化を助ける活動を行なった。

地球に置かれたモノリスも、彼らの活動の結果であり、現在の地球人類も彼らの干渉の結果なのだった。

彼らは肉体を捨て、機械へと移行した。

更に機械から、純粋エネルギーの生物となったのだ。


ヤペタスのスターゲイトは、ディスカバリー号を観察していた。

(モノリス=スターゲイト??? 突然スターゲイトという単語が出てきて、困惑してます。間違ってたらごめんなさい)


スターゲイトは開いた。

ボーマンの声が地球へと届く。「中は空っぽだ。どこまでも続いている。星々でいっぱいだ」


☆ ボーマンの進化


スターゲイトを飛んでいると、向こうから、黄金でできた紡錘形宇宙船がやってきて、また去って行った。

このスターゲイトは、銀河系のターミナル駅なのだろう、とボーマンは感じた。


スターゲイトを抜けると、そこは、全く見知らぬ宇宙だった。

寂れた宇宙港には、様々な形・様々な金属の残骸があった。


スペースポッドは恒星に降りた。

ボーマンが周囲を見渡すと、なんとそこは地球のどこにでもありそうなホテル部屋に、ポッドが降り立っていた。

本棚・テーブル・ゴッホの絵画などが置いてあった。

これらのものは、ボーマンが地球を出た3年前に既にあったものだけで構成されていた。

電話帳には表紙にワシントンDCと書いてあったが、中身は空白だった。

また、他の文字はぼやけて読めなかった。


それらは、ボーマンを欺くためではなく、安心させるために作られていた。

監視され、知能テストでもされているのか。

本や雑誌も題名しか読めなかった。机に手をつく事は出来たが、引き出しは空かなかった。

冷蔵庫の中には包装された商品しか入っておらず、シリアルなども入っていた。


ボーマンはヘルメットを取ると、空気を吸った。全く正常な空気だった。

宇宙服を衣装戸棚にかけた。

用意された食事は単調だったが、食べられるものだった。

テレビはついた。しかし、それらはすべて、TMA-1が見つかった2年前のものなのだった。

ボーマンは眠りについた。


夢の中で、ボーマンは過去を吸い出されていた。

ボーマンの記憶は現在から過去へ遡っていった。

ボーマンの意識は、精神エネルギー生命体として移行されていく。


精神エネルギー生命体として、ボーマンはまだ胎児のようなものだった。

この形態に、彼は慣れる必要があった。


そして精神エネルギーになった『スター・チャイルド』のおもちゃは、人々を載せて回っている惑星・地球だった。

人間たちが考えているような歴史はすぐに終わりを告げるだろう。



☆まとめ


要は、300万年前に高度な知的生命体によって建てられたモノリスによって、人類は進化をした。

そして、彼ら外宇宙の生命体と同様に、ボーマンも『エネルギー生命体』という新たな生命の形態に移行した、というお話です。


間にHALの反乱の話が載っている感じです。


☆感想


さて、こうして頑張って解析した結果、大体ストーリーは理解できたはずだと思うが、面白かったかと聞かれるとそうでもないw

クラークの作品にはしばしばみられることだが、小説を読んでいるというよりも、『理科』の授業を受けている気分にさせられる。

本作も、そういった印象は強く、ストーリー的に面白いのはHALの反乱の部分だけであり、個人的に楽しめたのは『生物』の授業である第1章ヒトザルの話だけだった。


まぁ、そんなわけでにべもない感想になってしまったが、9年前には理解できなかった(理解を放棄した)作品を理解できた、という事自体は

自己満足としては良い経験だった。


クラークに関しては10作以上読んでいるので、『作家について クラーク編』を書いてもいいのだけど、

今までの書きぶりでも伝わると思うけれど、クラークは僕にとってあまり相性の良い作家ではないし、解析もとりあえず本作だけの予定なので、今回は書かないでおきます。

次回、また何かの作品を解析することがあれば、作家についての特色や、自分の好きなクラーク作品なども書いていきたいと思います。


レイモンド・チャンドラーの解析は、割と支離滅裂なプロットをまとめるのが大変でしたが、

今回の解析は、1日中理科のお勉強をしている感じで頭を酷使しましたw

(007は楽だった)


☆映画版感想


名作の地位を不動のものにしている、映画版も改めて見てみました。

……うん。

……なんで、この映画が名作扱いされてるの??


小説版ですら難解な第5・6部の内容を、全く説明せずに意味不明でやたらカラフルな映像美術でごまかしているけど、これでストーリーの内容がわかる人がそんなにいるんですか?

それとも、ストーリーなんてどうでもいいって感じなんでしょうか?


小説版を再読・熟読してようやく理解できた内容も、あの映画じゃ理解できないですよ(少なくとも普通の人間には)。

と言うわけで、ストーリーを知りたい人は小説版を読んでください。

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