第6話 レイモンド・チャンドラー「ロング・グッドバイ」

前おき

チャンドラーのプロット解析シリーズ、最終回は

いよいよ、レイモンド・チャンドラー人気No1「ロング・グッドバイ」の登場だ。


今回、本作を再読する事によって、初読時に比べて評価が上がった。

(60点→68点ぐらいではあるけれど)

これだけでも、再読した価値がある。


それでは、まずあらすじから。


☆チャンドラー史上最高の序盤(3章まで)


泥酔しているテリー・レノックスとの出会いから物語は始まる。

女に捨てられているレノックスを、マーロウは家に送ってやった。


二度目の出会いは、レノックスがまたも泥酔し、警察にしょっぴかれそうになっている時だった。

マーロウはまた、レノックスを助けてやった。

次に出会ったときは、レノックスは更に落ちぶれていて救えない状況になっているような気がしたのだ。

前回レノックスを捨てていた女は、彼の元妻シルヴィアだった。

レノックスは金目当てで結婚したのだ。


テリー・レノックスがシルヴィアと再婚し、ハネムーンに出かけた事をマーロウは手紙で知った。

酔いどれで無一文のテリーと、金のために結婚し、女の愛玩動物になるテリー、どちらが本人にとって幸せなのだろう。

少なくともマーロウは前者の方を好ましく思った。

テリーもまた、自分を恥じているようだった。

だが、テリーはアルコールから手を切れたようだ。

ランディというヤクザと、レノックスは友人らしい。


それ以来、レノックスはよくマーロウを夕食に誘った。

だが、レノックスとマーロウでは住む世界が違ってしまった。

マーロウがレノックスに「愛玩動物」だと嫌味を言うと、

レノックスは、「なぜシルヴィアが自分を側におきたがるのかの方を考えるべきだ」と答えた。


マーロウとレノックスが、最後に一緒に飲んだのは5月の事だった。

レノックスは、自分の性格が弱いと話す。

「君は、自分の事を喋りすぎるね」とマーロウが言い、去るとレノックスは顔面蒼白になった。

レノックスの痛いところを突いてしまったのだ。

マーロウは後悔したが、レノックスはそれ以来、マーロウの元を訪ねて来なかった。


経済力の低い男性代表のDOIとしては、

「男が働いて女を養うべきだ」とは全く思っていない。

専業主夫なんて羨ましい、とすら思う。

結婚できない男性が多いのも、結局はそういうことなのだろう。

男性の方が稼ぐもの、という、『何の意味もない』男女観を一新しない限り、これからも結婚氷河期・少子化は続くだろうとすら思う。


しかしそんな考えを持つ僕ですら、レノックスの恥ずかしさに共感してしまうのは、先天的な種としてのものなのか、後天的な教育によるものなのか。


ここまでが3章である。

チャンドラー作品の『起』の部分は基本的に出来が良いのだが、ここまでなら80点レベルで面白い。



☆あらすじ 続き(4章・5章)


それから1か月、マーロウはレノックスを見かけた。

手には拳銃が握られていた。

「空港まで送ってもらいたい」とレノックスはマーロウに言った。

メキシコのティファナに行くという。

シルヴィアが他の男と性行為をしていたのを目撃した、とレノックスは言った。

また、身の危険を感じているともレノックスは言う。

メキシコ行きをレノックスはいつから用意していたのか、とマーロウは言った。


シルヴィアは今まで6人の男と結婚している。

空港で、レノックスとマーロウは握手をし、別れた。

「事態が荒っぽくなってきたら、無理をしないでほしい」とレノックスは言った。

「幸運を祈るよ、テリー」とマーロウは言い、二人は別れた。


☆あらすじ(承)


空港からの帰り道、警察がマーロウに呼び止められ、逮捕された。


テリー・レノックスの妻、シルヴィアは全裸で死んでいた。

タイミングを考えると、『シルヴィアを殺したレノックスが、国外へ高跳びした』と警察は思っているのだ。

警察はレノックスの友人であるマーロウから話を聞きたがっていた。


しかし、いけ好かない警察の取り調べにあい、マーロウは態度を硬化させ、レノックスについての一切の供述を拒絶する。

そこに連絡が入り、レノックスが自白をし、自殺した情報が入りマーロウは釈放された。


(この情報は嘘である

恐らくシルヴィアの父、金持ちの男が裏で絡んでいるのだろう)


メレンデスというマフィアがマーロウを脅しにやってくる。

彼はレノックスの友人だった。

戦争中ナチスとの戦いで、レノックスの活躍により、メレンデスは命を助けられたのだ。

その際にレノックスは顔に傷を受け、髪が総白髪になったのだ。

その縁もあり、レノックスはいろんなヤクザとも友だちとなったのだ。

(メレンデスが連発する「半チク」ってどういう意味ですか?)


レノックスから、手紙が来た。

「次にコーヒーを飲むときに、僕の事を考えてギムレットを入れてくれ。

そして、ぼくの事を忘れてくれ」という手紙とともに、大金が同封されていた。

マーロウはレノックスの事を考えながら、2人分のコーヒーを用意し、彼のためにギムレットを作り、レノックスとの友情を偲んで心の中で別れを言った。


あらすじ(転)

ロジャー・ウェイドというアル中人気作家の代理人から、依頼が来た。

ロジャーは飲むと暴れ、妻のアイリーンにも暴力を振るうという。

そのロジャーが行方不明となり、アイリーンから再び捜索の依頼を受けた。

このウェイド夫妻は、テリー・レノックスのご近所さんでもあった。

すぐにロジャーは見つかり、家に連れ戻すが、ロジャーはすぐに自殺してしまった。

アイリーンはマーロウが殺したと主張するが、警察のバーニー・オールズは懐疑的だった。


また、メレンデスがやってきて「半チク」を連呼する。


(なんか知らないけど、チャンドラー作品はこの手のキャラ好きねぇ。「おとといきやがれ」しか言わない奴、「てめぇでファックしやがれ」しか言わない奴、「アミーゴ」を連呼する奴、なんなんだろ……)


アイリーンが大切に持っているペンダントの話が出る。

昔、大切な人からもらった、ということだ。しかし、それは嘘だとマーロウは喝破した。

アイリーンは1942年、テリー・レノックスと結婚していた。

しかし、戦死したものだと思われていた。


しかしアイリーンは戦後、テリー・レノックスを一度見たことがある。

レノックスは、シルヴィアという新しい妻と一緒に歩いていた。

レノックスはアイリーンを見て、発作的にシルヴィアと離婚したのだが、再び再婚してしまった。

そしてロジャーはシルヴィアと不倫をしていた。


アイリーン・シルヴィア・ロジャー・レノックスの四角関係が物語のメインになっているのだ。


「シルヴィアを殺したのは不倫相手(アイリーンの夫)ロジャーだった。

そのことを忘れたまま、ロジャーは自殺をした」

とマーロウは推理する(推理ミス)

しかし、真相はそうではなかった。


キャンディ(チリ人の使用人)から電話がかかってきた。

アイリーンが死んでいる、というのだ。

アイリーンは睡眠薬で自殺していた。遺書には真相が書いてあった。


アイリーンが、自分の大切な人だったレノックスを奪ったシルヴィアと、自分の夫ロジャーを殺したのだった。


「悲劇とは、美しいものが失われることではなく、美しいものが、年老いて醜く変質していくことなのです」的な言葉が印象的(印象的ならちゃんと引用しろよ←すみません)


真相は闇に葬ることにし、ロジャーの自殺ということで決着をすることにしたのだ。


新聞の第一面には、ロジャーの自殺、アイリーンの事故死、シルヴィア殺しはレノックスが犯人で、レノックスは自殺済み、ということで決着したのだった。


メレンデスが三度やってくる。

「この事件から手を引け」と言っていたにも拘らず、事件を解決に導いたマーロウを殴るためにやってきたのだ。

マーロウは「友だち(レノックス)の命よりも、自分を大物に見せる事にしか興味がないんだな。

お前は大物なんかじゃない。みんなに笑われてるぜ」と言って、メレンデスを殴り飛ばした。

(珍しくカッコイイことを言ってくれるマーロウである)


☆リンダについて


その後、アイリーンの姉リンダとマーロウはキスをし、求婚までされてイチャイチャする。


ここで少し脱線。

チャンドラー作品はとにかく中だるみが酷い。

「大いなる眠り」・「リトルシスター」はかなり丁寧にマーロウの行動を追っていたのでは、膨大な文章量になってしまった上に、退屈で無駄なシーンも多く、「さよなら、愛しい人」あたりからはメモが雑になってしまった。


個人的にこの判断は正しかったと思ってはいるのだが、本作でリンダについてただのサブキャラとして、あらすじで全く触れなかったのは僕の失策だった。

なんと、2作後の「プードル・スプリングス物語」では、マーロウはリンダと結婚する予定になっていたらしいw

つまり、原作者公認のカップルなのである!

そう考えると、もっとリンダまわりのイベントはあらすじに書いておくべきだったかもしれない。


(しかし、悪女が散々出てくる作品ばかりが出てくるシリーズで、既婚者のマーロウというのも、想像しづらいなw)


☆あらすじ(結) さよならは済ませてしまった


ある日、メキシコ人のマイオラノスという人物が、マーロウの事務所を訪ねてきた。

それは、テリー・レノックスの変装だった。


ギムレットを一緒に呑もうと言う話も出たが、レノックス自身、「ギムレットにはまだ早すぎるね……」と自嘲した。

レノックスは何とかマーロウと和解しようとしたが、マーロウは冷たくあしらった。


「さよならを言う事は、少しだけ、死ぬことだ」。


「かつて、我々は心が通っていた時期があった。その時に、さよならは済ませてしまった。

悲しく、孤独なさよならだった。今の君はここにいない、空っぽの人間だ」


レノックスはそう言われ、「かつては自分も空っぽではなかった」と悲しげに答え、帰っていくのだった。


それ以降、マーロウはこの事件の関係者とは二度と会っていない

(って言っておきながら、リンダと結婚してるんでしょ!!!)


☆感想


こうしてまとめてみると、ロジャー夫婦の事件に唐突さがあり、中だるみもあるもののチャンドラー作品の中では割とまとまったプロットです。


そして、序盤と最終盤にはレノックスとのほろ苦く、甘い友情があり、

中盤の事件も将来の嫁リンダや、アイリーン&ロジャーの夫婦もレノックス&シルヴィアと関係があり、一つの線としてまとまっていることがわかる。

キメ台詞もいつになくカッコよく、なるほど、本作が名作と呼ばれる理由は何となくわかった気がする。


個人的な好みとしては10点満点の6点ぐらい、水準作程度なのだが、

チャンドラー作品に限れば、頭二つ抜け出た作品だとは思う。



次回はイアン・フレミング「ドクター・ノオ」を予定(ハートが全くつかなかったらやらないかも)

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