第5話 レイモンド・チャンドラー「高い窓」
☆前おき
本作は、前回紹介した「水底の女」と並んでミステリ要素の強いチャンドラー作品だと思う。
チャンドラー作品6作(「プレイバック」以外の長編全部)を再読して、
一番気に入ったのは『ロング・グッドバイ』。
2番手は抒情性を取るなら『さよなら、愛しい人』、
ミステリ要素を取るなら『高い窓』or『水底の女』。
悪女の魅力全開の変化球なら『リトルシスター』。
さすがに悪女の魅力をもってしても『大いなる眠り』は駄作だと思う。
さて、本書『高い窓』の感想……というか、あらすじに進みます。
☆あらすじ
マーロウはミセス・マードックの依頼を受けた。
マードックの亡き夫が大事にしていた金貨を、義理の娘リンダが盗んで出奔したというのだ。
ミセス・マードックの家から出ると、マードックの息子レズリー(リンダの夫)が訪ねてくる。
感じ悪く凄んでみせるが、それだけだった。
彼はモーニーという人間から借金をしているらしい。
(モーニーというキャラと、モーニングスターというキャラがいるので、一瞬混乱した)
古銭商モーニングスターの事務所に電話をかけ、ミセス・モーニングスターと接触しようとするマーロウ。
ミセス・モーニングスターは、以前リンダがルームシェアしていた相手だ。
彼女を訪ねると、バニヤーという男がタフぶって邪魔をしているが、ヘミングウェイという愛犬がマーロウに懐いてしまい、台無しになってしまう。
情報は何もなかったが、シフティという運転手から協力を得た。
(しかしその後、シフティの協力を得たシーンはなかった気がするがw)
ここで登場したのがフィリップスというへぼ探偵。
マーロウを尾行していたので捕まえた。(なんだか、殺されそうなキャラだなと思ったら、やっぱり殺されてしまったw)
フィリップスはリンダに雇われたらしい。
フィリップスは、怪しい男に尾行されているらしく怯えていた。
古物商のモーニングスターをマーロウは訪ねる。
リンダが盗んだ(と思われる)コインが持ち込まれたのかどうか、調べに行ったのだ。
だが、モーニングスターはそのコインについては知らないと言った。
その後マーロウは聞き耳を立てたところ、モーニングスターは男がコインを見せに来たという話が聞こえた。
フィリップスの住居まで彼に会いに行くと、フィリップスは死んでいた。
マーロウはフィリップスのアパートの管理人に話を聞きに行く。
上階では騒音をまき散らすDV男が住んでいた。
彼は銃を振り回したが、やがて彼は、自分が振り回している銃が自分の銃ではない事に気づいた。
誰かが銃をすり替え、その銃から弾丸が発射されたのだ。
ミセス・マードックに電話をすると、彼女の元にコインが戻って来たと話した。
モーニングスターは死んでいた。
☆あらすじ2
モーニーの秘書、プルーにマーロウは会いに来た。
プルーのバーに行くと、リンダがバンドに戻って来たという話だった。
結婚生活から出奔し、バンド出演していたらしい。
マーロウはリンダと話すが、例のコインについてリンダは知らないらしい。
25000ドルもらえれば、離婚してあげるとリンダは言う。
ミセス・マードックに今までの事情を伝えに行く。
金貨を盗んだのはレズリーだった。モーニーへの借金返済のためにコインを渡したのだ。
彼は、リンダがどこにいるかも最初から知っていた。
マードックの秘書であり、マードックに虐げられているマールは、レズリーに同情的のようだった。
マールはマードックに恩義を感じているのだが、マードックは意図的にマールの古傷を抉っているのだった。
☆ 余談(愚痴)
しかし、元々はミセス・マードックのコインと、リンダの失踪騒ぎだったはずなのに、
いつの間にかへぼ探偵フィリップス殺しの話がメインになるので、こちらとしても困惑する。
モーニングスターに至ってはほとんどスルーされている。
もう慣れっこになってしまったが、複数の事件を展開しながら、片方の事件を完全に後回しにするのはチャンドラーの悪癖だと思う。
読んでいる人間としては、ミセス・マードックがコインをどうやって取り返したのかと、
リンダ&レズリーの関係性が知りたいのであって、
フィリップスの殺害事件など真底どうでもいいわけで。
チャンドラーはいくつかの中編をミックスして、長編を作っているという話を聞くけれど、それがうまくいったのはそれこそ『ロング・グッドバイ』1作だけじゃなかろうか。
☆あらすじ3(結)
精神状態を破壊されたマールが、マーロウのもとにやってきた。
ミセス・マードックは、バニヤーから脅迫を受け、お金を何度も強請られていたらしい。
マールはバニヤーの家に行き、彼を殺したとマーロウに言った(これは嘘。殺したのはエリザベスの息子レズリー)。
マールは以前、マードック(エリザベスの夫)に触れられて恐慌をきたし男性恐怖症になり、気絶した。
そして気づいてみると、マードックは高い窓から落ち込んで死んだ。エリザベスが嫉妬のあまり、突き飛ばしたのだ。
その、マードックが窓から落ちる瞬間の写真をバニヤーが撮影し、強請っていたのだ。
そしてエリザベスは、マールがマードックを殺したと刷り込むように洗脳していたのだ。
この呪われた家、マードック家から秘書のマールを連れ出し、実家に送り届ける。
それが本事件のマーロウの最後の役割となった。
☆感想
初読時、最も印象に残っていたのはこの作品だった。
それはやはりラストシーン、『高い窓』から突き飛ばされた男の姿。
そしてエリザベスという、意外な犯人。
大抵ミステリというのは、『最もいけ好かない老人』というのは犯人じゃないものなんだがw
で、へぼ探偵フィリップスと、古銭商モーニングスターはなぜ殺されたんだっけ?
多分、コイン偽造関連の別事件の方なんだけど、メイン(?)のマードック事件と絡んでないから興味がなさすぎる……。
プロット解析と言いながら、またも適当に読んでしまったではないか……。
「高い窓」にまつわるマードック家の殺人事件と、全く興味を惹かれないコイン事件が並行して語られるのが、相変わらずしんどかった。
前者の事件は結構面白いのだけど。
あ、あと老女が悪女なのであれですけど、本作では若い女性の『悪女』は出てこないですね。
チャンドラーにしては珍しいです。
ところで、最も邪悪だったエリザベスは何の咎めも受けないんでしょうか?
あと、読んでいる最中には、
マールはレズリーを好きなように思えたんだけど、気のせいだったのかなぁ。
次回 チャンドラーシリーズ最終回 レイモンド・チャンドラー「ロング・グッドバイ」
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