第3話 この世界で生き抜く手段
昨日の異世界召喚から1日が経った。
祐希ゆうきたちは賢者の有り余る部屋で睡眠をとったが、部屋には何もなく地べたで寝た。
部屋は洞窟の壁に穴を開け、ただ扉をつけたようなまるで独房みたいなものであった。
祐希たちの体はバキバキで首が少し痛む。
祐希たちは目が覚めると昨日いた長机があった場所に向かった。
向かった場所には既に賢者がいた。
「おう、お主ら起きたか!早速皆を呼んでくれ、この世界についての説明じゃ〜!」
今日の賢者は昨日に比べてだいぶ明るくまるで別人であるかのようだった。
祐希たちは眠い目を擦りながら、とぼとぼと歩きつつ寝ているクラスメイトを起こしにいった。
起こしに行くのは良いが、地べたで寝たということもあってみんな苛々している。
祐希たちは起こすたんびに不満を押し付けられ、愛想笑いするしかなかった。
そして、賢者の言われた通りみんなを集めた。
賢者はずらりと並ぶ本棚から世界地図とこの国の地図を長机に広げ祐希たちに見せた。
「まずこの世界地図とこの国の地図を見てもらおうか。まずこの世界は五つの大陸で成り立っておる。今、わしらがいる大陸は一番大きく『スパイン大陸』と言う。そして、スパイン大陸で認可されている27か国のうち、大陸の大半を占める領土を持つ大国が『ブランドン王国』。そして、今わしらはブランドン王国の首都・スピナタス付近の洞窟におる」
祐希たちは地図を見つつ、真剣に賢者の話を聞いている。
賢者の話によると、やはり日本と異なることばかりだった。
植物や動物、そして大きく異なるのは魔法の存在であった。
この世界では大気及び生命全てに魔力が宿っていると言う。
そして、文明も異なる。
異世界=中世ヨーロッパのイメージがあったがそうでもなかった。
話を聞いた感じ、中世ヨーロッパと産業革命の頃のヨーロッパが混じっているように思えた。
そんななか、厄介なことにこの世界は貴族社会であった。
「この国というより、この世界の大体は貴族社会で成り立っておる。お主ら貴族とやらは知っておるかの?」
「はい!」アニメ、小説好きの晴人はるとが賢者に確認も含め鼻を高くして説明しだした。
「階級順に公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。国の政治に関わり深く、血統を重んじる位の高い人たちのことですよね?」
「まぁざっくりにはそうじゃな。この首都の街の構造として中心にブランドン城があり、そこを中心に階級順に貴族たちの家々が建ち並んでいるんじゃ」
元はじめが賢者に問う。
「つまり、貴族と平民では生活する場所がはっきりと別れてるってことですね?ちなみに、この社会では貴族であれば安心な生活を送れるんですか?」
「はっきりとは言い難いがまぁそうじゃの〜。平民と比べりゃ安心な暮らしはできると思うが、貴族社会であっても戦略争いとかは頻繁にある。じゃから、はっきり安心とは言えん」
賢者の話を聞き、クラスの皆は考え込んでしまった。
(どうしたら良いのか)
(どうしたらこの世界で生きていけるのか)
賢者は考え込んでいる皆の表情を見て、髭をもしゃもしゃ弄りながらこの問題に対する答
えを教えてくれた。
「人は生きる為に働かなければならない。ようは職に就けば良いのじゃ。職にもよるが、職を見つけ働き、お金を稼げればそこまで困る生活はしないじゃろう。平民であっても職を持つものは、毎日楽しい生活を送ってるぞい」
賢者の発言に驚いたのか祐希たちは目をまんまるとさせ賢者の方を見た。
浩也こうやが椅子から勢いよく立ち上がった。
「仕事をするだけで、この世界では生きていけるのか?」
賢者はぽかんとした表情で首を傾げた。
「当たり前じゃろ?仕事をしてお金をもらって、ご飯を食べて、寝て。その繰り返しじゃろ?それだと生きていけんのか?」
「いやいや、そうじゃなくて。貴族とやらに殺されたりとか、その…」
賢者は体を縦に揺すり自分の膝を叩きながらゲラゲラ笑っていた。
「そんなこと滅多にないない。まず、さっきも言ったように平民と貴族の生活環境は違う。仮に平民が貴族街に行ったとしても揶揄されるぐらいじゃろう。と言っても、もし貴族と関わる機会があり、貴族に無礼を働かねければの話じゃ。ま、真っ当な貴族なら尚更殺さん。いくら貴族であっても平民とは持ちつ持たれつの関係者じゃからのぉ。」
浩也は顔が引きつりながらもその言葉を聞き安心したのか椅子にゆっくりと座った。
ここで琴ことが鋭い質問を投げた。
「職に就くって、そんなに簡単に就けるの?私たち異世界から来たんだよ?」
琴のこの発言に場は凍り付いた。賢者もその発言にハッとした様子だった。
浩也は再び立ち上がり賢者に問い詰める。
情緒不安定だ。
「琴の言う通りだ!そんな簡単に見つかる仕事なんか賃金安くて生活なんてまともにできねぇだろうが!!」
「確かに、彼女が言ったように異世界から来たお主らがこの世界の職に就くことはかなり厳しいことじゃ。じゃが、安心せい。ある程度の地位も獲得できて、職も見つける方法はある」
賢者の声は徐々に自信がついていったように聞こえる。クラスの皆が息を呑む。
喉をゴクリとさせる。
賢者はまた髭をもしゃもしゃと弄り出した。賢者は目色を変えた。
「…するんじゃ。」
賢者は何かボソッと言ったと同時に立ち上がった。
「『ブランドン学園』に通い卒業するんじゃ!!」
賢者の予想斜めの発言に皆困惑する。
しかし、そんなことは気にせず賢者は続ける。
「ブランドン学園はブランドン王国にある8つの学園のうち一番優秀な学園じゃ。貴族との繋がりも他の学園に比べ深く、支援も多い。じゃから、学ぶ環境が最高峰!平民出身の卒業生であっても、貴族社会に参入する者もいれば、普通に酒場の従業員をする者もいる。幅広い将来が約束されている場所じゃ!!」
祐希が少し疑問に思ったのか賢者の話を遮る。
「ちょ、ちょっと待ってください!そんな名門に異世界から来た俺らは入学できるのでしょうか?」
賢者は小さく咳込み、多少落ち着いた。
「その通り、入学はとても厳しい。今のままでは・・・・・・な?」
「今のままでは?」
「そう!今のままでは入学は無理じゃ。じゃから賢者であるわしが入学するまでに必要なことをお主らに叩き込んでやろう!!」
浩也が再び口を開く。
「待て待て!誰が勝手に入学するって決めてんだよ!」
「じゃが他に方法はないじゃろ?」
「俺らはこの国の言葉も知らねぇんだぞ?適当なこと言ってんじゃねぇよ!!」
賢者は耳をほじりながら呆れた顔で浩也を諭す。
「この国の言葉が分からなければ学べば良いじゃろう?何を言うとるんだこの坊主は」
浩也の顔は真っ赤に染まり賢者に飛びかかろうとするが、男子数人に押さえ込まれる。
賢者はその様子を欠伸しながら呆れて見ている。
「入学まであと1ヶ月ちょいもある。じゃから全然問題ない。」
浩也は抑え込まれながらも発する。
「1ヶ月ちょいで言語なんてマスターできねぇだろうが!!」
浩也の言う通り、言語をそんな短期間で習得できるものではない。
それは周知の事実である。
しかし、賢者の表情は自信で満ち溢れてた。
「要するに時間があれば良いんじゃろぉ?」
賢者はスタスタと自分の研究机まで行き、研究机に自分の手を置き何か呪文を唱え始めた。
呪文が唱え終わると高く天辺が見えない天井から青白く輝く物体がゆっくりと降りてきた。
その物体は幾何学模様に文字が掘られた菱形のペットボトルサイズの宝石であった。
賢者はその宝石を手に取ると、研究机の近くにある菱形をした壁穴にそれを埋め込んだ。
その時、その宝石を中心に青白い線が電気回路のように洞窟内に広がっていった。
まるで洞窟に心臓ができたかのように。
「何をしたんですか?」
祐希が賢者に尋ねた。
賢者はニタリと笑い、自慢げに答えた。
その賢者の回答に祐希たちは驚愕した。
「時の流れを変えたのじゃ」
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