第29話 アイリーンは後悔する

 アイリーンは自分自身がこの本の記憶の残滓として残されていることに驚いていた。

 誰が自分を転生させたのか。冴えない人生を送っていた自分が最後の最後で善い行いをしたから、気まぐれな神様はご褒美としてこの魔法のある世界にチートな状態で転生させてくれたのかと色々考えた。誰かが自分を転生させたとしたら、接触してくるのではないかと思っていたが、そんなこともなくただ年を重ねた。これはもう自分の人生をやり直しを認めてくれたものだと思って、呼ばれたという可能性を自身の中から排除していた。

 だが、やはり自分は呼ばれていたのだ。自分の妹に呼ばれてこの世界に転生したのだ。

 もともとは双子を身籠ったもののもう一つの命は生まれてこずに、天才となるはずだったエミリーの人生を奪った上で、私は生まれてきたのだ。


 今見えている記憶は前回の次元とほぼ変わりない。

 廃墟となった魔術学部、燃え盛る建造物。

 絶命しているヴェン。


 ただ違うことは絶命しているヴェンの傍らにはエミリーと自分がいることだった。

 自分がいたとしても、ヴェンの命を救うために転生してきたのに彼を救うことができていない。なんて気楽に生きてきてしまったのだろうと思う。

 私はあいつを殺さなければいけない。そして、ヴェンを死なせてはいけない。それが妹の望みだから。

 あぁ私はこの世界でも生きる意味を持っていないのか。生きている意味などなかったのか。天才だともてはやされ、迷宮区を一人で攻略し、Sランクの冒険者になり、スターズ学院に何年ぶりの特待生として入学した。

 順風満帆な人生だ。二度目の人生はなにもかも満ち足りている。ただ性別は前世と変わってしまったりとイレギュラーはあったが、ほぼほぼ満足できたものだ。

 この人生も誰かに敷かれたレールの上を走っていただけだった。

 妹により転生され、その才能たる所以の魔力総量は本当は産み落とされるはずのなかった命に転生することにより2倍以上になった。エミリーが得るはずだった魔力を奪った上で成り立つものだった。


 この力はエミリーに返したい。そう思う。


 アイリーンは記憶の残滓をみながらそう思っていた。そしてこのもそう思ったのだろう。

 転生魔術理論をもとに自身のすべての魔力と引き換えにエミリーを記憶を保持させたまま転生させようとする。

 この世界における魔力総量とは文字通り、総量である。魔力総量とは命だ。これがなくなってしまえば死んでしまう。生きる源である魔力。だからこの世界には魔力上限、自分に使える魔術の規模が決まっている。アイリーンは学院にきた短い間で魔力についてそう結論をだしていた。


 そしてそれがこの記憶の中で実証されようとしている。記憶の中のアイリーンが詠唱する。


再生転移リジェネレーション・シフト


 記憶の中のエミリーは光につつまれ、アイリーンは詠唱を終えると絶命した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る