第28話 アイリーンは回想する③
再び場面が、記憶が変わる。
場所は変わらず、スターズ学院だ。ただ周りの状況は全く違うものになっている。三角錐型の魔術学部は傾き、先端は破壊され燃えている。剣術学部がどうなっているかこの記憶からは見ることができないが煙が上がっているのが見える。魔術学部は最悪の景色となっている。
学院の壁はかつての栄光を物語るべく立ち並んでいたが、今やその荘厳な姿は失われ、破壊と混乱が支配していた。煙が立ち込め、焼けた匂いが漂う中、学院は荒れ果てた姿を晒していた。
庭園は炎に包まれ、一度美しい景色が消し去られたかのように、木々や花々は灰に変わり果て、悲惨な光景を映し出していた。学生たちの声は聞こえない。悲惨な光景の中に二人取り残されている。二人のそばには転生魔術理論の本が落ちていた。
教室の壁は崩れ、書物や実験道具は散乱し、壊れた窓からは吹き込む風が残骸を舞い上げた。魔法の爆発による跡が至る所にあり、学院の建物は構造が歪んでいた。何世代にもわたって築き上げられた知識の三角錐の魔術学部は今、廃墟と化していた。
一人はよくみるとエミリーだ。エミリーが大粒の涙を流している。誰かを抱きかかえている。心臓を貫かれ、血を流している。全身から力が抜けているからだろうか手足がだらんとたれ、地面についている。その眼には生気は感じられず、絶命しているのがわかる。
ヴェンだ。ヴェンが死んでいる。
私はこんな未来、過去を知らない。
「なんで・・・・・・。なんでヴェンが死ななければいけないの。なんでこんなに人を殺す必要があるの? あなたが戻るためにはこの無差別な殺人は必要なの? ねぇ答えてよ!!!」
二人しかいないと思っていたが、燃え盛る景色の中に浮遊している人物がいた。糾弾されたその人物はエミリーの言葉に反応することなく想像を絶する魔力を放ち、光とともに消えた。
「ヴェン・・・・・・。私が絶対助けるから・・・・・・」
──────
三度場面が変わる。
エミリーが杖を構える。
「この世界の魔力総量は文字通り、総量だからこの魔術を起動してしまえば私は死んでしまう・・・・・・と思う。転生は空の器に別の次元の魂を入れることで成立する。私の人生で空の器が存在していたのは生まれたときしか知らない。でも、これで世界を救う存在を転生させることができればヴェンはその世界線では救われるはずだ。どこかの世界線でヴェンが生き残れる可能性があればいい。もし、うまくいけばこの世界が変革するかもしれない。彼にまた会えるかもしれない。ただ私はヴェンに会いたい」
構えた杖を掲げ、魔力を集中させる。
「
光に包まれ、しだいに消えていくと場面が切り替わる。
***
「よく頑張ったね。双子の女の子だ」
アイリーンとエミリーがエスコ村に誕生した。そしてその隣にはヴェンが生まれていた。
アイリーンが初めて転生したのだった。
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