第27話 アイリーンは回想する②
エマ・オグレディは図書館で一人、夢中になりながら本を読んでいた。
スターズ学院の魔術学部では1週間以内に研究テーマを決め、同じような研究テーマの学生たちが集められ研究室が割り振られる。全体を集めた講義もあるにはあるが基本的には自由参加で自身の研究テーマにあった講義に自分の意志で出席すればよい。ただ一年ごとに研究成果の報告会があり、そこで賢者たちに認められなければ退学となる。テーマを設定できずに退学するもの(自身で研究テーマを決めても賢者たちから許可が出なければ他のテーマを設定する必要がある)、研究成果がだせずに退学するもの、迷宮区に入り命を落とすものとさまざまである。
研究テーマも決まり、研究室に入ったものの待てど暮らせど他に学生が入ってこない。最終日に賢者に確認を取りに行くと、エマと同じようなテーマを設定している学生はいなかったらしい。思いもしなかった事実に落ち込み、しばらく動けなかったが、このまま退学するわけにもいかないと、図書室まで足を運んでいた。そして、そこで運命的な出会いを果たす。
───《転移魔術論》
こんなにも研究テーマにぴったりとはまる本に出合うとは想像していなかった。
何と言ってもこの文章
教科書的な書き方じゃなく、物語形式になっていて胸がきゅんきゅんする。
ただ、これだと愛している人へのただのラブレターで、普通の学生がみたら本の名称と中身が合っていないと読むことをやめてしまうかもしれない。これは少し内容を書き換えないと後世に残せない。
その前にこの本の内容を実践しよう。この内容の先に、本当にやりたいことへの糸口がみつかるはずだ。
***
「では研究成果をみせてみるがよいぞぉオグレディ」
「はい。ではいまここに私の部屋にある本を転移します。っごほん」
彼女は杖を掲げ詠唱する。
「
詠唱を終えると、空間が歪みを帯びる。その歪んだ領域から、徐々に形を成す物体が浮かび上がった。光と影が交差するその場所から、物質が漸く現出し、その輪郭がはっきりとした本へと変わっていく。空間の歪みは次第に収まり、出現した本が転移の跡を残していた。
「ほぉこれはすごい・・・・・・。この研究の先に君の夢見た魔術があるんじゃな」
「そうです。私は転生したいのです!」
***
「結局、自分が転生するってことまで在学中にたどり着けなかったな・・・・・・。すべて研究に費やしたせいで友達はできなくて永遠にぼっちだった・・・・・・。けれど、最後にこの転生魔術理論を書き上げることができたし、及第点ってことでいいよね。この一人の研究室とも最後となるとさらに寂しさが増すなぁ。ちょっと試しにやってみようかな。まだ自分が転生するってことはできない思うけれど、違う次元からこの世界に転生させるってことはできそうだし、まぁどうなるかはわからないけどいいか!」
すぅーっと深呼吸をし、エマは杖を構える。誰もいない研究室で一人、杖に意識を集中させる。魔力が立ちあがるのを感じ、杖に集める。
「
杖の先から一気に魔力が放たれたかのごとく光が放出されるが、一瞬にしてその光は小さくなり消える。魔力の開放により、一瞬の風が吹いたかのように研究室内の紙が巻き上がっていた。
「成功したかどうかはわからないのが難点だよねぇ」
そう言い残し、エマ・オグレディは研究室を出ていった。
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