第26話 アイリーンは回想する①
エスコ村のいつもの湖
見知った二人が立っている。
「ヴェンはやっぱりこの村に残るの?」
悲しげな表情でヴェンを見つめる。ヴェンと湖を交互に見ながらもじもじしている。
「うん。僕には才能がないから。魔術も剣術も上達しなくてすぐ辞めちゃったし、勉強も続かなかった。でも君には才能もある。近くで努力し続けるとこも見てきた。学院に行ってもきっと大丈夫だよ」
「離れ離れになるけどいいの?」
ますます悲しげな表情になり、一筋の涙がこぼれる。
「・・・・・・。まあそうなる・・・・・・かな」
「ヴェンはそれでもいいのね! 愛し合っている二人が離れ離れになってしまうっていうのに納得しているんだ! 才能の違いとかただの言い訳じゃない!」
深呼吸をする。そしてやれやれといった表情で彼女の頭を撫でる。
「学院なんて馬車でいけば1日くらいでつく距離にあるんだよ? いつでも会いに行けるし、僕も行商人として首都クレスにいくことだってある。そりゃいままでもみたいに毎日顔を合わせるってことはなくなるけど・・・・・・」
「毎日ヴェンの顔を見れないなんて嫌なの!」
「もう困らせないでよぉ。瞬間移動できるような魔術があればいいのにね」
抱きしめてとんとんと背中をヴェンはたたく。
彼女は顔をうずめたまま声をあげる。胸の部分が息で温度があがる。
「・・・・・・ぇよぉ」
「え、なんていったの?」
突然ヴェンは押された。驚きの表情を浮かべ、その一瞬、浮かぶ不安と驚きが顔に滲む。
湖の浅瀬に後ろ向きに倒れ込んだ。彼の背中が水しぶきを上げ、ヴェンは不意に水に触れ、驚いたように顔をしかめた。
「ヴェンはやっぱり才能あるのよ! それよぉ! 瞬間移動ができる魔術を作り出せばいいのね!」
「すぐに魔術って作り出せるものなの? 新しい魔術なんて聞いたことないけど。既存の魔術以外は数十年、数百年生み出されてないって」
「私は毎日ヴェンに会いたいの! 生み出されていないのなら、私がその最初になる!」
「ホントに君はすごいね。僕も村で頑張るから、いつか二人で、同じ場所で生きていこう」
「うん!」
彼女は満面の笑みを浮かべている。
──────
「ただの本じゃ私のヴェンへの気持ちが伝わらないから物語形式にしようかな。いつかヴェンにも読んでもらって、その子供にも見せて、きっと二人の子供だから天才の子が生まれるはずよ。へへっ楽しみだなぁ。これで毎日すぐに会いに行けるから寂しくないよね」
彼女は書き終えた本を静かに閉じ、魔術を起動する。その姿はすぐに部屋からなくなる。
幸福の始まりだ。些細な理由から始まった物語だ。
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