第30話 アイリーンは憂鬱④
エミリーはヴェンを死なせないために奔走している。
死なせないために学院に行かせないようにしたり、勝てるはずのない私に決闘挑んで心を折ってしまおうと考えたり、ヴェンの一挙手一投足を観察して、近づく人物すべての情報をエミリーを襲ったダニーを使って、集めたりしている。
彼女は本当にヴェンのことを愛しているのだ。
本当は二人は結ばれるはずだったのだ。
私が生まれたことによって、ヴェンの想いは私に向かい、エミリーに好意が向いていないことをわかっていながら、彼を死なせないために彼女は動き続けていた。
そしてその願いはこの世界で達せられた。
この次元の私があいつと同士討ちで倒した。
しかし、その傍らにはエミリーを抱いて涙を流しているヴェンがいる。
「エミリー! あぁエミリー! なぜだ! なんで僕を庇って死んでしまうんだ。なんで僕をアイリーンの助けに行かせてくれなかったんだ! なんで僕だけ生き残っているんだぁ」
燃え盛る魔術学部の校舎。
「ヴェ・・・・・・ン・・・・・・」
「エミリー! 頑張ってくれ、死なないでくれ! 僕を一人にしないで!」
「あいし・・・・・・て・・・・・・」
「え、なんて・・・・・・エミリー!」
ヴェンの叫びに一瞬目を覚まし、伝えようとした言葉、アイリーンにはわかっている。ずっと前から、本来はお互いに口にしていた言葉。
私が生まれたことによって紡がれることのなくなった言葉。
自身が転生してきた目的をどの次元でも達成することができていない。
ヴェンとエミリーの命を守る。これが私が転生してきた意味だ。
***
「やっと、この本の意味がわかったよ。エミリー、アイリーン僕が助けに行くから。頼むよ別の次元の僕」
彼はなにか書いてある紙の前に逆手に持った剣を前にだし、詠唱する。
「
紙は光に包まれ、消える。そして年老いたヴェンは絶命する。
***
記憶の残滓はここで終わっているようだ。
これ以降の記憶を辿ろうとすると目の前が真っ暗になる。現実に引き戻される。
転生してきた意味。必ず誰かが死を迎える結末しかない事実。
記憶を辿ったアイリーン。
一冊の本には複数人の記憶が蓄積されていた。それは自分がこの世界に転生された理由とこれから選ぶべき人生の選択が迫られることになる。
アイリーンは憂鬱だった。この世界での記憶しか持っていなかった。しかし、記憶の残滓をみたことによって自分が生まれたときから終わりは決まっていることを知った。それを選択しなければ終わりは迎えられない。
もしくはすべてを葬り去れば自分は生き残ることができるだろう。
このチートな能力を得た状態でなに不自由なく、誰もいなくなった世界で生きていくことを選択することもできるだろう。
選ぶべきは決まっているだろうアイリーン。
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