第34話 二人は途方に暮れていた

 二人でアイリーンを助けることに決めたまではよかったが、別空間に行く方法が検討もつかなかった。だって、研究しているのは転移魔術だし、研究を始めたばかりだし、なんの成果もあげられていなかったし。

「二人で行こうよって言ったのに、行く方法がわからないの?」

 おでこに手をあて、はぁっとため息をつくエミリー。

「いや、だって僕は魔術に精通していないし、二人みたいに魔力総量が多いわけでもないし・・・・・・」

「これじゃお手上げ状態じゃない」

「そうだねぇ・・・・・・」


 いままさにアイリーンがあの道化師の仮面を被った男と対峙しているかもしれないというのに、なにもできない。歯がゆさとどうすることもできない絶望感が広がる。


「姉さまはなんて言ってたの? 今回の事件に関して」

「詳しくは話してくれなかった。ヴェンはついてこなくていいって言うし、上限が決まっているとかなんとか言ってたけど」

「上限ね・・・・・・」


 ちらほらいた学生たちも各々、自室に戻ったようだ。日も暮れ、周りには学生の姿はみえなくなっている。そのかわりに学生寮の大部分の部屋に灯りがついている。


「どうすればアイリーンの元にいけるかな」

「単純に考えれば、私たちが研究中の転移魔術を応用して別の次元? 空間? にいくしか方法はないと思うけど。そもそも転移魔術すら転移魔術論を見つけたっていう段階で、内容を精査したわけでもない、ましてや魔術の起動実験もしていない。こんな状態で姉さまと同じ魔術を起動させるなんて不可能だよ」

「僕らは無力だね。待つしかないのか」


 二人に沈黙が流れる。なにかを思案しているのかはたまたもうなにも考えられず無言の時間が流れているのかは互いにわかっていない。

 そしておもむろにヴェンが剣を構え、振るう。なにもない空間に向かってただ剣を振り下ろす。


「突然どうしたのヴェン? なにか少し魔力の残滓のようなものを感じた気がするけど」

「さすがだねエミリー。万が一アイリーンが事件の犯人に勝てなかったことを考えて、今までにないことをしないとあの道化師に勝てないと思って。剣術と魔術を融合させようと」

「融合って、冒険者の中には剣術と魔術を両方使う人もいるじゃない。前からあることよ」

「両方使う人はいるけど、剣術に魔術を込める人って見たことないなって思って。剣術だけじゃなく、振るう剣に魔術を施すんだ」

「・・・・・・たしかに剣に魔術を起動させてる人って見たことないかも。それがその犯人に対して有効なの?」

「それは・・・・・・わからない。けれど、この束の間の時間になにか対策を考えないと。最悪の状況を考えて」

「なるほどね・・・・・・。私もなにか考えないとね・・・・・・。魔術が見えないっていうのはどうかしら。効かないとしても突然魔術をぶつけられれば目くらましぐらいにはならないかな」

「それはいいね! そのすきに僕が剣で切れればな・・・・・・というかエミリーこの状況を呑み込むの早すぎない? そもそも僕がどこにいくとか道化師とか全然質問してこないし」


 エミリーは突然現れ、ヴェンの手をとり急に説得を始めた。その後の話にも自然に話、なんのよどみもなく会話が継続されている。


「まぁもう言っちゃたからね。転生してきたし、なんどもこの事件は経験してきたからある程度は話わかっているから」

「なんだかわけがわからないよ」

「それは私も同じ。どうすればヴェンを助けられるのか、姉さまを救えるのかわけがわからない」


 二人は途方に暮れ、だれもいない空間に剣を振るい、魔術を起動させ続けていた。

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