第24話 一縷の望み
「そんな眩しいだけの魔法を使って、なんになるんですかぁ!」
仮面の下では道化師が笑っているのがわかる。男の低い声だが、女の子が話しているような感覚。こいつは気持ちが悪い。道化師が再び手をこちらに向ける。ヴェンは
自由に動くことのできない異空間で必死に体を動かそうとするが今までのダメージと相手のダメージを与えることのできない魔力消費の大きい魔術を起動したせいで体を動かそうとすることが出来ない。空間が揺らぐ、道化師が無詠唱で魔術を起動させた。避けることが出来ない。まともに魔術を受けてしまう。
「変えられなかったか・・・・・・」
ヴェンは目を瞑って覚悟する。願うのはエミリーが生き残れる世界になりますようにと。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。ん?
想像していた衝撃が襲ってこない。ゆっくり目を開けるとそこには一縷の望みにかけていたことが目の前にいた。
「ヴェン生きてる? まっ君はこんなことじゃ死なないよね。やることあるものね。それにしても、ヴェンの魔術が起動した形跡はあるのに姿が見えないから探すのに苦労したよ。まさか別の空間にいるとは少しだけ悩んだ」
ヴェンの前にはアイリーンが立っていた。わずかな可能性にかけて、自分がだせる上限いっぱいの魔術を起動させ、アイリーンに自分の位置を知らせる。対峙してわかった。埋まらない実力差。自分の力だけでは敵わない。無力だ。エミリーを守るには恐らく倒さなければいけない奴が目の前にいる。ただ自分一人では倒すことができない。それが理解できただけでも上出来だろう。転生者でもなければ天才でもない自分は誰かの手を借りて困難を乗り越えていくしかない。
「・・・・・・死ぬわけないじゃないか。まぁ勝つことも中々難しい状況だったから、アイリーンが僕の思惑通りに来てくれてホントにほっとしているよ」
「ヴェンの思惑通りってところが少し気に食わないけれど、期待には答えちゃおっかな」
「ごちゃごちゃ話してうるさいよ君たち! アイリーン・ロクサス! 君は私の邪魔ばかりする・・・・・・。いや、今回の件は君のおかげで殺すべき人間を見つけられたから邪魔ばかりでもないか。でも、君は私にとって最大の障害だ。ここでやるよ」
道化師はアイリーンに向かって真っすぐに剣を振りかざす、アイリーンもどこからか急に飛び出してきた剣で応戦する。激しく剣と剣がぶつかり合う音が響く。ヴェンは何が起こったのか理解できずにいた。
「これはぁ、転移魔術を応用した魔術で、任意の場所から自分の手元に持ってこれるっていう私が開発した魔術で・・・・・・」
「話しながら闘うなんて余裕あるところもむかつくよアイリーン・ロクサス!」
激しくぶつかり合う二人。アイリーンはいったん距離をとる。道化師にむけ手を広げる。
「
アイリーンがそういった途端、彼女の身体から爆発的なエネルギーが放たれ、まるで震動のように広がりながら周囲に響き渡った。爆発は道化師を襲い、彼を宙に舞い上げると、地面に叩きつけた。
「すげぇ・・・・・・」
ヴェンはただただ感想をいうことしかできなかった。
「いやぁ意外と急造の魔術でも威力をあげられるものだね。存在している魔術だと塞がれる可能性もあったから今考えてみたけど、いい判断だったね」
「え、いま作ったの?!」
彼女は本当に天才だ。
道化師は体の痛みに耐えながらも、少しずつ起き上がろうとしていた。服は破れ、傷だらけだったが、苦痛に満ち、息づかいが荒い、かろうじて道化師の仮面は壊れ顔が半分のぞかせる。褐色の肌が垣間見える。
「はぁはぁ・・・・・・。なにが起こったんだ。痛い、痛いよぉ。許さない・・・・・・許さないんだから」
憎しみの表情を見せる道化師。ヴェンは再び腸がねじれるようなkン核に襲われ目を閉じる。
目を開けるとそこは学院の女子寮前だった。
「あちゃー逃げられたね。別々に異空間から移動させることも可能なのか・・・・・・。あれ? こんな本あったんだ」
転移魔術論。エマ・オグレディが大事に持っていた本だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます