第19話 不安は伝染する
「賢者ローズの話、どう思う?」
「放任主義もひどすぎるよね。こんなんで卒業、いえ上位学部への進学なんてできるのか私心配だよ」
そう言ってエミリーは机にうなだれている。
「違うよ。新入生がいなくなっているって話。行方不明だって」
「あぁその話ね・・・・・・」
「ヴェンとエミリーは行方不明の生徒はどうなったと思う?」
エマはローズの話を聞いてから、自分たちの研究室に戻るまで一言も話さなかった。うつむきながら、少し震えてるように見える。二人の話しかけているいまもなお、肩は小刻みに揺れているようだ。
「エマ大丈夫? 体調悪いの? 顔青いよ」
「・・・・・・う、ん大丈夫ではないかも・・・・・・。二人は賢者ローズの話を聞いて怖くないの? 新入生がいなくなっているんだよ? 上級生ならまだしも、入学したばかりの生徒が行方不明だなんて、なにかの事件に巻き込まれているってことでしょ! あの話を聞いてから震えが止まらないの。もちろん単純に怖いって思っているんだけど、それ以外にもなにかとてつもなく嫌なことが起きそうな気がするの」
「そりゃあ私だって怖いよ・・・・・・。大丈夫、エマは絶対守るから」
「エミリーすごい自信だね。教授たちもこの件は調べてるって言ってたし、僕らができることは少ないかもね」
「二人ともすごく冷静ですね・・・・・・。まさか犯人とかじゃないですよね」
「そんなわけないでしょ!」
顔を真っ赤にしてすぐさまエミリーが否定する。怒りすぎて頭の血管がきれてしまうのではないかと思うくらい怒っている。ヴェンとエマは驚きのあまり、声を荒げたエミリーをじっと見つめる。
「・・・・・・ごめん。こんな状況私にはわからないし、私が犯人なわけないじゃない。ちょっと外の空気吸ってくる」
エミリーは研究室をでていった。
「私、本当に怖くて、言わなくていいことをいってしまいました・・・・・・」
「そうかもね。今のはオグレディさんが悪かったように思う」
「・・・・・・。後で部屋に戻ったら謝ります」
「オグレディさんはどうしてそんなに不安なの?」
「さっきも言いましたけど、新入生が行方不明になるのは変です。それと、私夢を見るんです」
「夢?」
「私が何者かに殺される夢です。黒いマントを被った人が急に目の前に現れて、いつの間にか殺されているんです。そして私はその死体の前に立っているんです。最近この夢を見るようになって、もう怖くて怖くて。でも夢だと思いこもうとしていたら、賢者ローズから新入生が消えているって話があって、次は私じゃないかって考えちゃって」
肩を震わせながら涙を流すオグレディ。その夢と今学院で起きていることにつながりはあるのだろうか。まだ事件の真相もつかめていない。
「大丈夫だよ。だって、それは夢なんでしょ」
そういうとこちらを涙目で見つめながら、ヴェンを見上げる。信じてほしいと表情で訴えているかのように見える。
「夢だけど・・・・・・。すごく現実味のある夢なんです。痛みも状況もすごく感じる
んです」
「でも! 賢者ローズが言っているのは魔力消失を感知したあとに行方不明になったっていうし、死体はみつかってないから・・・・・・、夢とは関係ないんじゃないかな。僕もこの件調べてみようと思う。不安なら一緒にいるし、部屋にはエミリーもいるから大丈夫」
ヴェンはなにも根拠はないが、安心させようとエマに言葉を投げかける。新入生の行方不明の事件、エマの夢の件。つながりがあるとは思えない。そして、エミリーがあそこまで怒った理由はなんなのか。エミリーは基本的には楽観的な女性だ。何事も前向きにとらえ、決して自分の意見のみで怒りを示したりはしない。学院にきてからというものの、エミリーから怒りの感情を感じることが多かった多かった気がする。ヴェンはつながりがあるとは思えない事象だが、不安を拭えずにいた。
「大丈夫、大丈夫・・・・・・」
エマの肩をさすりながら、自分の不安を消し去るようにヴェンはつぶやいていた。
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