第18話 アイリーンは憂鬱③
上位学部に1年生が2名も入学することは異例である。その年に上位学部へ入学者がでないこともあるくらい狭き門である。それが今年に限っては2人も入学者がでた。そんなこんなで上位学部への学生に与えられる研究室は一人一つであったが、1年生ということもあり、2人で1つの研究室が与えられている。部屋は広々としていて2人で使うにも広すぎるほどの大きさである。ただ個室があるわけではないので、研究を進めるにしても顔を合わせる必要はでてくる。上位学部に来るくらいの実力者であれば1人で研究することは造作もないだろう。また剣術の修練に関しては専用の修練場が与えれる。しかし、これもまた異例の年だったため共用となっている。
アイリーンはすでに剣術に置いて2つの流派を習得している。なので、剣術を高めるというよりも日々の修練を怠らないようにすればいい程度なのだ。もはや剣術においては高めるということはない。まだ、上位学部の先輩方と決闘はしていないが、上位学部で剣術において最強と言われているシピン先輩とヴェンの決闘をみて自分より強くないなとアイリーンは思っている。だからこそ、かつて自分が手を下したイヴァゴブリンのような、人間に転生できなかった悲惨な人たちを救う手立てを探したい、勉強したいのだ。集中して研究に打ち込みたいが、同じ空間に誰かいると中名k集中できないものである。
「はぁ・・・・・・」
深くため息がでてしまった。入学式のあとさっそく研究に没頭しようと思い、研究室に向かったが、すでに窓際の陽が心地よく入ってくる位置にある机は同じく上位学部の新入生として入学したエレラ・オーランドに占領されていた。入学式の日からであるが、挨拶してもなにを話しかけても、最初に「どーも」と言った以降、全く話してくれない。オーランドはいくつもの文献を読み、術式を記述し魔力を流しなにかを試している。何をしているか興味があったので何度かなにをしているか聞いてみたが完全に無視される。少しだけ目は合うが、一切話そうとしないのだ。
「黙々とやるのはいいんだけど、気になっちゃうし、一緒の空間にいるなら少しくらい会話したいよねぇ。私、なにかしたのかなぁ」
エレラ・オーランドは褐色の肌に長い髪、顔はほぼ髪で隠れていて、表情はよく見えない。全く返事をされないので、肩をたたいたり、ボディタッチしてみたが効果はなかった。頑なに会話しようとしない。
「無視されすぎて、最近独り言が増えてきたからまずいと思うんだよね私としても」
アイリーンは会話する相手がいないのでここ数日は自分自身と会話している。先輩方と話すという手もあるが、上位学部に通う先輩方はもれなく冒険者登録しているかもしくは迷宮区攻略に同行している。ほとんど学院にいないのだ。
「なんとしてでも、オーランドと話せるようになりたい。というか、無視されるのむかつくからなんとかしたい」
オーランドに聞こえるような声で話すが、相変わらず無視される。
「オーランドの記憶を辿っちゃうか」
かつてゴブリンの記憶を掘り起こした魔術でオーランドの過去をみれば仲良くなるきっかけがみつかるかもしれない。
「まぁ見られるのは嫌だけど記憶とか恥ずかしいし、まっオーランドが悪いし、ちょっと見ちゃお」
そろーっとオーランドに近づく、アイリーン。気づかれないように後ろに回り込み背中に触れる。生きたもの相手にこの魔術を起動するのは初めてだが、試してみるのだった。
「
一瞬懐かしい風景が見えた。女子高生がわんさかいるように見えたと思った瞬間。全身に痛みが走る。目をあけると研究室の天井が見える。どうやら床に激しくたたきつけられたようだ。
魔術を起動したのがわかったためか、アイリーンはオーランドに投げられていた。激しくにらみつけるオーランド。
「女の子を投げつけるなんて、最低だね」
ゆっくり体を起こしながら、オーランドに向かって話す。彼は警戒してか距離をたもったまま彼女をにらみ続ける。
「まぁいきなり魔術を使った私も悪いんだけど。ただね私は仲良くしたいだけなんだよ。少しくらい話してくれてもよくない?」
回復魔術を起動しながら彼女は話し続ける。すると彼は羊皮紙に何かを書き始めた。そしてその紙を見せる。
【自分の声が嫌いで、どうしても話したくない。こうやって話していいなら会話できる。さっきの魔術はわたしに何をしようとしたの?】
「声が嫌いなだけで、あんなに無視してたの?」
【見た目も嫌い】
「なんじゃそりゃ・・・・・・」
アイリーンは憂鬱だった。
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