第15話 同志?
魔術学部で学ぶべく、自身の研究テーマを決めろと言われてから一週間が経った。新入生は各々、テーマを賢者ローズに伝え、それぞれ振り分けられていた。ただ我らが転移魔術をテーマにした研究室にはエミリーとヴェン以外には現れていない。二人は初日に研究室に配属されてから本を読み漁っているが、これといって成果は上げられていない。まだまだ時間はあるとはいえ、ここまでヒントすら得られない状況になるとは想定していなかった。
「学院の図書館を探せば、なにかしら転移魔術のきっかけがみつかると思ってたんだけどなぁ」
ヴェンは本を閉じ、机に突っ伏す。
「だいたい同じことしか書いていないんだからー。空間に魔力を干渉させることができれば転移魔術も実現可能・・・・・・かもしれない」
「全部、かもしれない! しか書いていないんだよ! いい加減にしてくれ」
「お茶でも飲みましょ。学院生活は始まったばかり。時間はたくさんあるんだから」
「図書館に置いてある本はまだまだあるからね。全部読んだわけじゃない」
魔術学部の図書館は1階から地下までに渡る。地下階層がどこまで続くかはわかっていない。階段はどこまでも続いている。一つわかっていることは地下に行くほど空間は小さくなっている。上にいけばいくほど、下にいけばいくほど小さくなるこの構造にはなんの意味があるかはわかっていない。
「でもさ、ヴェンと同じテーマになるくらいだから他にも同じ研究テーマ選ぶ学生もいるかと思ってたけど、最終日でもこないとなると二人でやることになるかもね」
「小さい頃から二人でやってきたんだ。なにもかわらないよ」
二人はお茶を飲みながらゆったりした時間を過ごす。毎日のように修練に励んでいた日々、アイリーンに追いつかなければと必死に過ごしてきた日と比べ、あまりにも平和であった。
突然研究室の扉が開く。
扉の前には赤髪のメガネっ娘、最初の入学試験で小さな火の魔法を見せた少女が立っていた。
「あれあなた迷子? ここは魔術学院の研究室だよ。誰か探してるの?」
そのメガネっ娘の記憶がかけらも残っていないエミリーは学生とは思わず、子供扱いして対応する。
「え、いや私は賢者ローズに言われてこの教室にきたんです・・・・・・。一応、学院の生・・・・・・徒で・・・・・・す」
小さい声で答えるメガネっ娘。一冊の本を持ち、もじもじしながら下をむいている。人とかかわることが苦手なようだ。
「ということは君も転移魔術をテーマに?」
そう言うと、そのメガネっ娘は急に眼を輝かせながらヴェンにせまる。
「やはりここは転移魔術を研究する部屋なのですね! 賢者ローズにこのテーマを研究したいと伝えようと思ったときには笑われてしまうか心配でしたが、すぐにこの部屋に行くように言われて、もしかしたら同志がいるかもと思ったんです」
「そんな急に近づいてこなくても・・・・・・」
あたふたするヴェン。そして彼女が持っている本に気づいた。図書館を探し回ったが、見つけられなかった本だ。目にすれば絶対手に取っていたはずだ。
「それ持っている本って・・・・・・」
「知っているんですか!?」
「いや、知らなかったんだけど、知りたいことがまさしく書いてある本だなと思って・・・・・・」
転移魔術論
彼女の持っている本にはそう書いてあった。
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