第14話 転生者たち

 テーマの決定には一週間ほど期間が与えられていた。すでにテーマを決めていたヴェンとエミリーはさっそく図書館で文献探し、関係がありそうな本はすべて手に取り、与えらえた研究室に持ってきていた。


「さすが魔術学部だよね~。研究テーマ決めたら次は、同じようなテーマを扱う生徒たちをグループに分けて研究室を与えるなんて」

 ページをめくりながら、先ほど食堂で注文した芋を素揚げして塩をまぶしたちょっとした小腹を埋めるべくうまれたであろう食べ物を頬張るエミリー。太るよというと烈火のごとく怒るので、心の奥にしまい、代わりに憐みの視線をヴェンは送る。

「ねぇなんか私が起こるようなこと考えてない?」

 ヴェンを見ていないはずだが、心を見透かしたようなことを言うエミリーに冷や汗をかく。焦ってしまったばかりに読んでいた本をどこまで読んだかも覚えていないまま途中で閉じてしまった。

「そ、そんなことあるわけないよ。僕は勉強しているんだから、変に疑うのはやめてくれよ」

「・・・・・・。まぁ口に出さなかっただけ、よかったと思っておくね」

「ありがとうございます」

 沈黙が流れる。羊皮紙にペンを走らせる音、ページをめくる音だけが研究室内に響く。ヴェンが選んだ研究テーマは転生魔術についてだ。アイリーンとの決闘に勝利し、その後に知った驚愕の事実。アイリーンは転生者ということ。これがきっかけといってもさしつかえないとは思う。学んできた中では転移魔術ですら、理論上は可能であるが実際に魔術を起動するに至っていないという記載であったが、実際に目の前にその現象が起きていたのだ。幼なじみが転生者だった件だ。ローズ教諭に決めた研究テーマについて伝えると、「ほぅ」と髭をとかしながら短く答え、否定も肯定もせずに終わった。ヴェンは転生魔術を研究テーマに選んだと伝えれば否定されると思っていた。転移魔術ですら世の中では実践されていない(アイリーンはすでに実践するに至っているが、公表はされていないため一般的には現実味がない)ので、転移魔術よりもさらに発展する転生魔術など夢のまた夢のテーマだったからだ。ローズ教諭は否定せず、受け入れてくれたように思え、ふざけたおじいちゃんではく、案外いい教諭なのかもしてないと思えた。

 後から聞いた話だが、あまりにもいい加減なテーマだったり、一週間以内に決めることができなければ学院から去ることになるらしい。本を読み進め、いったん休憩をと思い、本を閉じると、エミリーもちょうど休憩に入るところだった。


「エミリーもいったん休憩?」

「そうだね。文字ばかりみていると肩がこるね」

「それはエミリーのが立派だから・・・・・・」

 と言いながら胸に目線をついやってしまう。小さなころからアイリーンが執拗に言ったり触ったりするのでいつの間にかヴェンもその箇所に目が行くようになってしまった。

「・・・・・・えっち」

「ごめん! アイリーンの癖がうつっちゃってるよ・・・・・・」

「姉さまは変態だからね」

「それは否定できない。それよりもエミリーはなんで転生魔術をテーマに決めたの?」

 ヴェンとエミリーは同じグループに分けられ、同じ研究室が与えられていた。グループといってもほぼ完ぺきに同じ研究テーマだ。二人とも転生魔術に関してテーマにするとローズ教諭に伝えたのだった。

「姉さまが転移魔術完成させてるじゃない? だから・・・・・・そう・・・・・・そのテーマにしたの!」

 若干顔が引きつったまま答えるエミリー。

「ふーん。そういう引きつったみたいな顔をしているときはエミリー嘘ついてることが多い気がするけど、まぁいいや」

「な、失礼だよ! ほ、本当のことだし! それよりヴェンはなんで転生魔術なんて選んだの。さすがに研究テーマは違うだろうなと思ってたのに」

 ヴェンは右手を顎にあて考えるそぶりをみせる。

「僕はアイリーンが転生者だって言うから。あまりにも衝撃的過ぎて、疑ってはいないんだけど、アイリーンの言っていることが本当かどうか白黒つけるためにテーマに選んだって感じかな」

「愛だねぇ」とエミリーは優しく微笑み、ふっと悲しい表情をしたように見える。

「まぁある意味、愛なのかもしれない」


 幼なじみが転生者だった件がヴェンの研究テーマだった。

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