第13話 研究テーマ

 食事を終えた二人は魔術学部の1年生の教室へ向かう。ヴェンは入学時に渡された学部内の地図と校内を交互に見ながら歩く。エミリーは地図には目もくれず、自身の興味のあるものに目を向け、「すごーい」とか「変な顔の人いる」だったり、騒がしい。魔術学部内は小さな部屋がいくつもあり、入学式を行った上位学部のような大講堂は存在していないのだとヴェンは魔術学部内の校舎について考察していた。

「大講堂はないみたいだけど、学年が全員集まれるくらいの大部屋みたいなのは各階にあるみたい」

「1年生は2階だっけ? 学年が上がるごとに階数があがるって言ってたよね。でもこの研究棟って上に上がるにつれてどんどん狭くなっていくよね」

「そうだね。三角形の構造になってる」

「そしたら、上の学年の先輩たちって狭い部屋に全員で集まってるってこと?」

 この魔術研究棟については入学前にダニーから聞いていた。

「学年が上がるにつれて生徒数が減っていくんだよ。現役の冒険者もいるし、学院生に依頼があることもある。学内で順位付けされて成績が悪ければ退学」

「でも、それって下位5名とかそんなレベルでしょ? やっぱり部屋がせまくなるんじゃ」

「迷宮区に行って、死ぬ学院生もいるってことだよ」

「そうだったそうだった・・・・・・」

 エミリーはさも、もとから知っていたような態度を見せる。いつものごとく、負けず嫌いからくる、知ったかぶりかと思い、ヴェンはちょっとした疑問を頭の隅に追いやった。

「ここだ」

 魔術研究棟2階の奥、階段のように長机が並び、中央には大きな黒板がある。すでに魔術学部の新1年生が各々思うままに席についている。50名ほどの人数だが、それよりもゆとりのある席数が用意されている。二人は中央のやや後ろの席に腰かける。

「魔術学部生って、引っ込み思案で女の子が多いのかなって思ってたけど、そうでもないね」

 村では剣術と言えば男子、魔術は女子というようなイメージであったが、いまここにいる学生は半々といったところだった。ヴェンは見知らぬ顔がいないか注意深く周りを見ている。

「特にかわりなしか・・・・・・」

「え、なんか言った?」

「いや、なにも。僕口に出してた?」

「聞こえなかったけど、ヴェンってよく独り言みたいなことよく言ってるよね」

 不用意な発言は気を付けないといけないとヴェンは気を引き締めた。


 突然扉が開き、長いひげを蓄えたメガネをかけたご老人が講堂に入ってきた。


「あのおじいちゃん部屋間違えたのかな。散歩の途中かな」

 ヴェンにしか聞こえないような声でエミリーがつぶやく。


「エミリー・ロクサス。聞こえておるぞ。おじいちゃんだが散歩の途中ではないわい。君らを担当することになった賢者トレバー・ローズじゃ。覚えておきぃ」


 一気にエミリーに視線が集まる。顔を真っ赤にしてうつむくエミリー。その横でいたたまれない表情のヴェンであった。


「入学おめでとう。君たちは選りすぐりの魔術師のたまごたちだ。知識もある程度蓄えているはずじゃ。ここでは君たち自身でテーマを決め、そのテーマについて深めていく。決まった講義はなく、君たち自身で魔術を学んでいきなさい」


 魔術学部での学びについては今初めて説明された。うまく解釈できず、講堂内が静まる。


「あの~」


 赤毛のおさげの女子が恐る恐る手をあげる。それをみたローズは長いひげを触りながら発言を許可したといわんばかりにうなずく。


「講義は一切ないということでしょうか? すべて自分たちで決めるということでしょうか?」

「そうじゃ。必要とあらば、話を聞きたい先生に講義をお願いしたり、蔵書から自ら学び、実践する。わしらはあくまでテーマを深めるお手伝いをするだけじゃな」

「剣術は学ぶことだできるのでしょうか? 学院内での順位戦では魔術だけでなく剣術も駆使したいと考えているのですが」

 黒髪オールバックの男子生徒が急に立ち上がり発言をする。やっぱりとても剣術をやる体には見えないなとヴェンは思っていた。

「それも自由じゃ。魔術学部内には剣術学部に比べれば数は少ないが決闘場も修練場もあるでな」


 講堂内が再びざわめく。ヴェンとエミリーはただ話を聞き、次の言葉を待っていた。


「ということで、自身のテーマが決まったものはわしのところに来なさい。テーマについては把握しておきたいからの。ほいじゃ解散」


 まだざわついている。「急に解散って言われても」と誰一人立ち上がらない。ローズはそのまま講堂をでていってしまった。と同時にヴェンとエミリーも立ち上がった。二人のテーマは決まっていた。

「え、ヴェンももうテーマ決まってるの? 水系統の魔術でも極めてくれるのかしら。師を見習って」

「誰が師だよ。半年ばかりスパルタで教えてくれただけじゃないか」

「それでも立派な師じゃない」

「まぁそれもそうか。ひとまず賢者ローズを追わないと」

「そうだね」

 二人はローズのもとへと向かったのだった。

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