第10話 最厄との遭遇
春を迎えた。ヴェンとエミリーは学院の中の噴水広場で待ち合わせをしていた。
「ヴェンはやっぱり制服似合ってるね」
「やっぱり?」
スターズ学院に入学が決まり、制服が配給されたがお互い当日まで来ている姿は見せないようにしようと約束していたはずだが、まさか合格の嬉しさのあまり家に帰って即制服をきて家の前で素振りをしていたところ見られていたのかとヴェンはあたふたする。
「え、いや、あの、想像していた通りってこと! ヴェンは筋肉質すぎないほど良い体つきだし、体にフィットするようにデザインされてるし。でも、星の主張が強めだよね」
魔術学部の男子の制服は、深い夜空を思わせる紺色のブレザーで構成され、そのブレザーの襟や袖には、明るい金色の星々が輝く刺繍が施されている。紺色のネクタイが、その星座の夜空に溶け込むように調和し、清潔感と優雅さを漂わせていた。
背中には星を模った刺繍が大きく存在感を放っている。色味はかっこいいのだが、どうもスターを意識した制服だ。
「見た目はかっこいいんだけどね。まぁ制服だし、毎日着ていれば慣れてくるよ」
「そんなもんかねぇ」
雑談をしながら大講堂へ向かう。スターズ学院は広場を中心として三方向に分れている。中央には学生の数が少ないにもかかわらず、3つの学部の中で最も大きく、豪華なつくりの上位学部、右にいけば決闘場が多く設置され、鍛冶場も用意されている剣術学部。左は二人が通う、魔術学部の校舎となっており、魔術を起動しても周りに影響のないような作りになっている体育館、多くの蔵書がある魔術研究棟などがある。薬草の研究も魔術学部で行われるため植物園も完備されている。そのためか魔術学部は自然が多い。入学式は3つの学部合同で、中央の上位学部大講堂で催される。
「そういえば、今年は上位学部に2人も生徒が入学するらしいよね。お姉さま以外にもいるってことだよね。絶対ろくなやつじゃない」
「どういう根拠でそんなこと言ってるんだよ。上位学部に入れるってことは天才ってことでしょ。アイリーンと同列だなんて・・・・・・」
ヴェンは悔しさからか下唇を噛んでいる。大講堂に近づいていくと、見知った男が近づいてきた。
「おっやっぱり入ってきたか後輩」
ロバート・シピンだった。ヴェンに決闘で勝ちながらも推薦状をだし、入学のきっかけを与えてくれた人物だ。ヴェンは深々と頭を下げる。
「これはシピン先輩。先輩にはなんとお礼を言ったらいいのか、言葉であらわす・・・・・・」
ヴェンが話している途中で、首根っこをつかまれ、シピンの顔の前に引きずられる。
「え、先輩、急にどうして・・・・・・」
「その制服魔術学部だよな。制服が届かなくて渋々その制服をきているだとか、うっかりさんで剣術学部の制服ではなくて魔術学部の制服を発注しちゃったとかそういう理由があるんだよな?」
シピンはすごい剣幕でヴェンに迫る。
「いや、それがですね。僕は剣術学部ではなくて魔術学部に入学しまして・・・・・・」
シピンは思わず額に手を当てる。首根っこをつかんでいた手を離し、ヴェンは地面に足をつけ、呼吸を整え、シピンから距離をとる。
「ちょっとシピン先輩! いきなりヴェンになにするんですか!」
エミリーは抗議の声を上げているが本人には届いていないようだ。なぜかうろたえている。
「向いてないとか言っちゃったからな。あれは本当はオースティンを鼓舞するためにいったつもりだったのだが・・・・・・」
小さい声でヴェンたちにはなにを言っているか聞こえていない。やっと頭の中が整理されたのか額から手を離す。
「まぁスターズ学院に入学できたのはワタシにとっても嬉しいことです。剣術はやめてはいないんでしょ? その体つきをみればいまもなお修練を積んでいることはわかりますが」
「もちろんです。もしまた決闘する機会がありましたら、負けませんよ」
「寝言は寝て言いいなさい。修練を積んでまた機会があればお相手します。では、失礼するよ」
そういってシピンはその場から離れていった。
大講堂の中に入ると、魔術学部、剣術学部ともに三十人程度の新入学生が入学式が始まるのを待っているようだった。
「僕ら遅刻したかな。ほとんどの生徒がいる気がするけど」
「えぇそんなことないと思うけど、まだ時間あるし。それにまだお姉さまが見えない。お姉さまは朝が弱いからね。寝坊してるのかも」
「誰が朝に弱いですって」
聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、エミリーの豊満な胸が揉みしだかれる。「やめてお姉さま!」とエミリーはその腕を振りほどく。
「昔はもっと揉ませてくれたのに。色々大人になっちゃって」
「うるさいです」
いつものやり取りだなと思うヴェン。そして、アイリーンの後ろに一人の男子学生がいることに気づく。先ほどのやり取りを見ていたからか、不潔なものを見るような目でアイリーンをみている。
「久々だねアイリーン。後ろの人は誰だい?」
ヴェンの指摘でエミリーもその男子学生の存在に気づく、そして急ににらめつける表情になる。一言も発せず、ただその学生をにらんでいた。
「こちらはエレラ・オーランド。上位学部のもう一人の入学者だよ」
その男は褐色の肌に鋭い目、体の大きさはヴェンとさほど変わりないが、鍛え上げられた体であることはわかる。髪は長髪で腰のあたりまで伸ばしている。少し不気味な雰囲気というか中性的な雰囲気があった。
「どーも」
それだけ言い残し、彼はこの場から離れた。アイリーンも「ごめんね」と言い残し、彼のあとを追う。
「エミリーそんなににらんでどうしたのさ。話したことあるの?」
「・・・・・・。あいつは最悪よ。ヴェン絶対に近づいたらだめだからね」
「どういうこと? 全く状況がつかめないんだけど」
「いまは説明できないけど、あいつは最悪なのよ」
エミリーはそれきり彼のことについては話してくれなかった。
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