第7話 天才の脅し
会場が静まり返った。放たれた魔術があまりにも美しく、一切無駄のない魔力残滓を感じるとることさえ難しいほど洗練された魔術。もちろん威力もある。教師陣も息を飲むほどの水の銃弾が魔力障壁にぶつけられ、魔力障壁を破壊する。これまでの修練が、実を結んだのだ。
「文句なしの合格です」
試験官を務めていた教師陣が一斉に拍手する。
「さすが天才のご親族ですね」
「あなたのような才能あふれる方を我が学院に迎えられることは大変喜ばしいです」
「いえそんな」
一応謙遜したようなそぶりを見せるエミリー。
「では、合格ついでにお願いがあります。私の目的は先ほど試験を受けたヴェン・オースティンをサポートすることです。彼が入学できない・・・・・・ということがもしあれば、私も入学しない・・・・・・かもしれません」
試験官が苦虫を嚙み潰したような表情になる。先ほどの試験を振り返っているのであろう。ヴェンの魔術は言ってしまえば可もなく不可もなくというところだろうか。彼はエミリーに助け船を出されていることに不甲斐なさを感じずにはいられなかった。自分でもわかっていた。実に微妙な内容であったことは。
水の障壁を展開する魔術を披露したが、実践に使えるほど早くはなく、かといって魔術の起動に時間がかかりすぎたわけでもない。合否はその場で言い渡されず、保留となっていた。そして、その直後エミリーが試験を受け今に至る。
エミリーは想像以上にすごい実力者だったらしい。周りの反応を見ていればわかる。いつもそばにいたせいで実力が見えていなかったようだ。
「エミリーがそう言っているのでぜひ僕の合格も検討ください」
不甲斐なさを感じてはいたが、学院に入学できるのであればすべての手段を使うつもりだった。自身のプライドはすでに捨て去っている。目的達成のためのならエミリーの金魚の糞になっても構わなかった。
「もちろん。オースティンくんも・・・・・・まぁすごいというわけではないですが入学するには十分な力を示してくれましたから。しかし、まだすべての生徒をチェックしきれていないのでそこはなんとも」
「私はヴェンがいなければ絶対に入学しませんから。今日はありがとうございました」
エミリーは一方的に話を切り上げ、魔術研究棟からでようと歩き始める。ヴェンもそれに続いた。
「エミリーあんな啖呵きって大丈夫なの?」
「正直ヴェンの魔術もすごかったよ」
あれ? と疑問に思うヴェン。自分の思っている手ごたえとエミリーの印象はだいぶ違うようだった。
「僕的には起動までの時間もかかったし、魔力残滓も多かった気がしたけど・・・・・・」
「魔力残滓っていうけど、けっこうフィーリングによるじゃない。本当に試験官に見えてるのか怪しいわ。それに何人か見たけど、みんな思ってた以上に魔術使えていないじゃない」
「そう・・・・・・かもしれない」
たしかに僕らの前に受けていたおさげの女の子もたいした魔術は使っていないように見えた。火系統の魔術もあれでは焚火ができる程度の力しかないように見えた。
「でも、僕が受けたとき試験官の先生渋い顔してた気がする」
「たぶんそれはヴェンの魔術がどれほどのものか理解しきれなかったんじゃないかな。だいたいみんな攻撃につながる魔術を披露していたのに、ヴェンは水で障壁を作るっていう反対の性質をもつ魔術使ってたから」
「それはエミリーの教えじゃないか! いつも魔術を教えてくれるときは水系統だし、身を守る魔術に対してはすごい力の入れようじゃないか」
ヴェンが意見すると彼女は「まぁまぁ」となだめていた。
「一応、ほんのちょっと心配だったから、私がヴェンの合格を確実にするためにあんなこと言ったんだけど。間違いなく二人とも合格だよきっと」
「そうだといいねぇ」
エミリーは晴れやかな表情で、ヴェンはなんとなくもやもやした表情で学院をあとにした。
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