第6話 入学試験前
学院の一般入学者の試験は雪が解けてきた頃に行われる。推薦状をもった生徒たちが学院に訪れ、魔術学部と剣術学部それぞれ希望する学部の試験を試験当日申請する。
入学から上位学部に通う優秀な生徒もいる。これはまれですでに冒険者として名を上げているもの、騎士団から推薦され現役トップランカーの生徒と決闘をして勝つことなど、ごく少数しかいない。アイリーンはこのうちの一人で、上位学部に入学者がいない年もあるほど狭き門だ。
剣術学部、魔術学部に通うことになっても上位学部への進学のチャンスはある。学院に在籍している4年の間にその学部でトップランカーとなり、さらにそこから決闘を行い、最後の勝者が上位学部進学の挑戦権を得る。最後に上位学部に在籍する生徒と決闘をし、勝つことによって翌年の上位学部進学が決まるのだ。
というわけで、上位学部に進学できるということは超優秀の証となる。
ヴェンとエミリーは魔術学部の試験会場にいた。
「なんか思っていたよりも人少ないね」
エミリーは周りをきょろきょろしながら、会場の雰囲気を確かめているようだった。魔術学部の試験はスターズ学院の魔術研究棟の地下修練施設で行われる。二人以外には50人くらいの入学希望者がいるように見える。
「シピンとの決闘のときはほぼ全校生徒だったのか・・・・・・。そんな中で負けただなんて、あいつ意外に慕われているんだな」
「もしかしたら先輩になるかもしれない人のことをあいつ呼ばわりだなんて・・・・・・」
「いやエミリーもよくシピンのせいだとか言ってたじゃないか」
「だって私は顔見知りじゃないし、嫌いだし。そんなことより、なんの魔術で試験に挑むか決めた?」
魔術学部の試験は自身が得意とする魔術を魔術障壁に向かって放つという至ってシンプルな内容らしい。そこで魔術の起動のスピード、魔力残滓の量、使用した魔術の完成度で合否が決められる。剣術学部は現役の学院の生徒と決闘して勝つことが条件となる。剣術学部の試験もたいがいシンプルである。
「まぁ決めたよ。エミリーに教わった水系統の魔術でいくよ。っていうかそれしか教えてもらってないし」
「いいじゃん水系統。火にも強いんだよ? 火を操る人とは関わっちゃだめ」
「なんだよ急に。火系統の魔術を使う人なんてけっこういるじゃないか。ほら、そこの試験を受けている人だって、そうじゃない」
今まさに試験を受けているメガネをかけたおさげの少女はいかにも魔術師らしい自分の背丈ほどあるような杖を構え、詠唱する。
杖の先から火のうずが現れ、ゆっくりと球体と形を変える。にぎりこぶしぐらいの大きさになると、その火の玉はこれまたゆっくり魔力障壁に向かっていった。
「違うよ! もっとうまく使える人のこと! 気を付けてよね」
「エミリーもそんな大きな声で言わないで、聞こえちゃうよ・・・・・・」
合否を判断している教師たちはエミリーの発言に目もくれないが、今魔術を放ったおさげの少女は心なしかしゅんとしている気がする。魔術を起動してから杖を両手にもち下を向いたままだった。
試験官がおさげの少女を誘導し、声をだす。
「次、ヴェン・オースティン。おぉこれはうちの生徒のシピンの推薦状ですか。ということは君が早朝にシピンと決闘をしたという少年か」
あれだけ生徒が集まっていたのだ。教師陣にも知られている可能性は考えていたが、まさか本当に知られていたとは思いもしなかった。
「はい、、そうです。決闘には負けちゃいましたけど」
「面白い奴が剣術学部にきますよと聞いていたが、まさか魔術学部に入学希望とは」
「僕、けっこう魔術好きなんですよね」
思ってもいないことを口走り、ヴェンは剣を構え、詠唱の準備にとりかかったのだった。
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