第5話 想いはそれぞれ

「ヴェンもっと集中して! 魔術を起動するときは最小限の魔力量でシンプルに起動! 術式が立ち上がるのを感じて! そして立ち上げるのを早くするの!」

 エミリーの魔術の指導は頭で考えるな感じろ! という方針だった。ヴェンは理論だてて、動きの意味を考え剣術を学んでいっていたため、フィーリングで教える彼女とは相性が悪かった。ただ、当の彼女は真剣にヴェンのことを思って教えてくれていることは痛いほど伝わっていたので無下にはできない。


「うーん・・・・・・。エミリーの魔術また見せてよ」

「こんなにも理路整然と教えてるのにわからないなんて、ヴェンはおバカさんなの?」


 支離滅裂の間違いだろ! と言い返したい気持ちをぐっと堪え、彼女が魔術を起動させるのを観察する。百聞は一見に如かずである。

 エミリーの得意魔術は水系統である。水系統の魔術に関しては無詠唱で起動させることが可能である。右手を広げ、前にだす。一瞬肩以上にある美しい黒髪がふわっと風でなびいたように見えたと同時にエミリーが詠唱する。


水の銃弾アクア・バレット


 彼女の広がられた手のひらから球体となった水が現れ真っすぐに放たれる。その水の球体は木に穴をあける威力があった。魔力の残滓を感じることなく、一切無駄のない美しい魔術だ。彼女はものすごいドヤ顔でヴェンを見ている。毎回魔術を見せるたびにこの顔になる。なんだかおかしくて笑ってしまう。


「なんで笑ってるの。ちゃんと見た? ヴェンにもわかるように詠唱してあげたんだから。詠唱で魔術が起動する。その魔術のイメージを具現化するのが詠唱であり、術式、起動させるためのエネルギーが魔力ってとこだよね」

「笑ったのは、ごめん気にしないで。魔術のイメージは、グレッグさんのところで勉強してたし、頭ではわかってるんだけどなぁ」

 ヴェンは頭を掻く。理論上では理解しているつもりだが、中々それを現実にできない。魔術を起動することはできるが、合格基準に至っているかといわれると、彼には自信がなかった。魔力の残滓も感じるし、起動までの時間も多少ある。合格基準である、魔術起動までのスピード、美しさの基準にもなる最小限の魔力で起動し、残滓を抑えること、これが彼にはまだ足りない部分であった。


「魔力が手のひらに集めるイメージがうまくいかないんだよな。魔力が散ってる感じがする」

「それならヴェンが使っている剣を杖替わりにしたら? 魔術師って魔力を効率よく集中させるために杖使ってるけど、杖じゃなくていいと思う」

「それでうまくいくかなー」

 エミリーは笑顔で「試してみないとわからないでしょ!」と言って剣を持ってくる。ヴェンはその剣を手に取り、剣身をいつもとは反対にして持つ。


水の銃弾アクア・バレット


 ヴェンが詠唱すると、球体の水はエミリーのときよりもゆっくり形がつくられ放たれる。


「ちょっと感覚いいかも。前よりも魔力が集まっている感じがする」

「魔力の残滓も少なくなってる気がするよ! このままのやり方でいきなよ。でも、なんでいつもと逆に剣を持ってるの?」

「いやぁなんとなくこっちのほうがかっこいいじゃん」

「よくわかんないけど・・・・・・。じゃあどんどん魔術を使っていこう! 新しいことも覚えつつ、起動までの速さをあげていくってことで。次も水系統の魔術を・・・・・・」

「エミリーはなんでそんなに水系統の魔術ばかり教えるの?」

 ヴェンには当然の疑問だった。エミリーに指導されてからというもの常に水系統の魔術ばかり教えられる。もちろんエミリーの得意魔術であることはわかるが、彼女はその他の系統の魔術も基本的に使える。より実践で使う事なら回復魔術を覚えることも必要だし、試験に合格するだけというなら新たに生み出す魔術ではなく、物質変換する魔術の方が使う魔力も少ないため、魔術の起動の速さという部分はクリアされる。水系統の魔術を試験で使うことにメリットを感じることはできなかった。


「うーんとねぇ・・・・・・。私が得意だから、ヴェンに私には敵わないって身をもってしってもらうため!」


 ウインクしながら舌をペロッとだす姿は、あざとさ全開であったが可愛かった。


「まっエミリーがせっかく教えてくれてるんだから、頑張るよ。どうしても学院にいきたいし」

「お姉さまへの気持ちは変わっていないの?」


 アイリーンにはかつて告白している。そして、アイリーンが転生者だということを知った。信じがたい事実を確かめるため、自分の想いは変わらないことを伝えるため、彼女の肩を並べる存在になるため学院に行こうとヴェンは思い続けていた。遠くを見つめるヴェンはすぐには答えない。


「だいぶ昔の話に感じるな・・・・・・」

「昔? まぁたしかに何カ月も前の話になるけど」

「いや、なんでもない! 気持ちは変わってないよ。僕はアイリーンに並ぶ存在になりたいんだ」


 返答を聞いたエミリーは少し寂しそうに笑っていた。

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