第4話 静かに決意する夜
いつもの湖は月夜に照らされて幻想的な雰囲気を醸し出している。今の季節は夜になると寒さが増す。修練のために湖にきたのはいいものの、寒さのあまり焚火で体を寄せ合い、二人は寒さを凌いでいた。家に戻ればいいのだが、二人はすぐには戻らない。
「とりあえずよかったね」
火の明るさに照らされるエミリーの笑顔は優しくきれいだった。
「うん。ひとまず問題は一つ乗り越えた」
「シピンから推薦状もらったってことは剣の実力を認めてくれたってことだよね。じゃあ剣術学部受けるの?」
当然の選択であろう。シピンから推薦状をもらえたということは剣の技量を認められたか、可能性を感じたからだとヴェンは思っている。多少自意識過剰な部分はあるかもしれないが、推薦状をもらえたということはそうなる。剣術学部に合格の可能性を見出したからこそ、だしたのだ。
「いや、やっぱり魔術学部受けるよ」
「それはなんで?」
「決闘をして、自分の実力がある程度通用することはわかった。けれど、剣術学部の試験は実技試験で学部生を決闘をして勝つ必要がある。より強い生徒を入れるためだってダニーが言ってたじゃないか」
「シピンと対等に戦えたヴェンなら勝てるんじゃないの?」
「勝てるとは思うけど、負けるかもしれない。誰と決闘になるかは当日までわからないし、相手の実力もわからない。それなら、自分の実力のみで評価される魔術学部受けるほうが合格の可能性が高いと思うんだ」
「ふーん、そっか・・・・・・。まぁ私はヴェンと同じ学部なら嬉しいからいいんだけど」
屈託のない笑顔を見せるエミリーに少しドキッとする。
「それに上位学部に行くには学部のなかで上位に入ってさらにそこからトーナメントで勝ちあがる必要がある。学部一位なら無条件で進学できるけど、一位になれる実力は僕にはない」
「魔術学部ならトーナメントで勝ち上れる自信があると?」
「ダニーが言ってたじゃないか、上位学部への進学をかけたトーナメントは魔術も剣術も使用するって」
「魔術師は剣術の実力が劣るから自分に有利ってこと?」
「魔術師ってどちらかというと後衛的な立ち位置なことが多いから剣術を在学中に磨くことは少ない。でも、剣術学部は自分の力を高めたり、技の威力を上げることができる魔術は勉強すると思うんだ」
「私はヴェンが決めたことなら全力でサポートする。絶対に死なせないから」
「いつもそれ言うよね。僕だって絶対エミリーのこと死なせないから」
ヴェンはゆらゆらゆれる火を見つめながら強く決意し、自分自身に言い聞かせていた。
「それなら安心だ」
エミリーは嬉しそうに空を見上げながら笑う。二人とも違う方向を向いていたので互いの顔をみることはなかった。二人しかいない湖は静かで、暗闇に光る火は暖かく、互いの体温を感じる距離でゆっくりと時間が過ぎていく。
「ねぇヴェン。空を見てすごいよ!」
「え、空?」
火を見つめていたヴェンはエミリーの言葉で空を見上げる。
夜空は深い青色に染まり、星々が一つ一つ点灯するようだった。雲に隠れた月は、その薄明かりを星々にやさしく投影し、周囲の暗闇を和らげている。
星座が瞬きながら登場し、織りなす物語を空に描いているようだ。
それぞれの想いを抱えながら、空を見上げ続けたのだった。
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