第3話 妹はやはり可愛いものです

 二人が村に戻り、ロクサス家に行くと部屋のソファーに座り暖炉の火を眺めながら座っているトラウト村長がいた。穏やかな表情に見えなくもないが、ヴェンはこれからみっともないことを頼まなければいけないことに気落ちしていた。いくら、学院に行くため、アイリーンと肩を並べるため、自分の目的を達成するためといっても中々に言い出しにくいものだ。


「村長、ただいま戻りました」

 トラウトは立ち上がり、二人の頭をポンっと優しくたたく。

「よくやったじゃないか」

 想定していなかった。学院にはやはり行かせることはできないと話されるものだと思っていたヴェンは優しく頭をたたかれたことに驚きを隠せない。

「え、いやでも村長。僕は決闘に勝てませんでした」

「俺も勝てるなんて思っていなかったよ。ロバートはAランク冒険者相当の実力の持ち主だぞ。たかが村で修業したからと言って、決闘になるかも怪しいと思ってたくらいだ」

「そんな! お父様それはひどいです。最初から無理難題を押し付けていたのですか!」

 隣にいたエミリーが即座に反応する。


「いやいや、すまない。心が折れるようだったら学院に通う何てできないし、ここでもうひと踏ん張り修練を頑張ってくれればいいなと考えていたんだ」

「僕はまだ心は折れていません」

「私も学院の入学をあきらめてないから! 通いたいから推薦状ください!」

 エミリーは実の父に深々と頭を下げる。ヴェンは自分が言わなければいけなかったことを先に言われてしまい、あわあわしながら頭を下げる。

「負けたから推薦状はあげない・・・・・・というわけにもいかなくなった。実は二人が戻ってくる前にアイリーンが家にきていたんだ」

「姉さまがうちに?」

「転移魔術か」

 アイリーンは転移魔術を使用できる。物質を指定した座標から座標に移すことができるのだ。現在の魔術レベルでは実現不可能だと思われていたが、アイリーンの人並外れた魔力総量と天才的な発想、そして知識によって転移魔術を開発するに至った。そして、この転移魔術を世界に広げてしまうと必要のない争いに発展してしまうかもしれないという懸念から一部の人間にしか転移魔術が開発されたことは知られていない。


「アイリーンが推薦状を持ってきたよ。ヴェンのな」


 推薦状? どういことか把握できず、ヴェンはぽかんとした表情になっていた。


「それってどういうこと? 誰かが推薦状をだしてくれたの?」

「ロバート・シピンだよ」


 村長はそう言うとやれやれといった表情になっている。

「彼は自分が認めた相手となると、手順とか決まり事とか無視してきちゃうからね。ヴェンとの決闘で何か感じたものがあったんだろ」

「・・・・・・でも、向いてねえよって言われましたよ?」

「彼は実力はピカイチなんだけど、口下手なところもあるから自分の気持ちをうまく表現できなかった結果、そういう言葉になったんじゃないかな」

「よくわからない人だねシピンさんは。でも、やったじゃないヴェン! これで試験受けられるね!」

「うん・・・・・・頑張るよ僕」

「シピン君が持ってきたのはヴェンの推薦状だけだよ。エミリーはどうするつもりだい?」

 トラウト村長はにやにやしながらエミリーを見る。彼女は自分の件については全く考えていなかったのか、驚いたような顔のまま硬直している。少しずつ状況を整理してきたのか小刻みに体が震えている。

「そ、それはお父様が推薦状をだしてくれのではないですか?」

 混乱しているのかよくわからない言葉になっている。村長はまだにやにやしたままだ。

「決闘には負けたんだ。父さんとの約束は守れていないからね。ヴェンはロバートから推薦状があるからいいとして、エミリーはね」

「そんな・・・・・・」

 ショックのあまり膝から崩れ落ちるエミリー。下を向いてて顔をみることはできないが、たぶん苦悶の表情を浮かべた面白い顔をしているんだろうなとヴェンは思っていた。

 村長は彼女に近づき、一枚の紙を彼女から見えるように床に置く。

「これは・・・・・・」

「アイリーンからだされたエミリーの推薦状だよ。本当はまだ入学していないから推薦状は出せないはずなんだけど、すでにSランクの冒険者に認定されているアイリーンは特別に推薦状を発行できたらしい」

 紙を握りしめ、ぱぁーっと明るい表情になるエミリー。感情の起伏がわかりやすい。

「姉さまはどこに?」

「もうもどったよ。アイリーンが作り出した転移魔術は本当にすごいな。クレスと村の行き来があっという間にできてしまう」

「エミリーまた試験を受けにクレスには行くんだからそのときにお礼を言えばいいよ」

「そうだね。冬を越せばすぐに入学試験があるからそれまでに準備しないとね」

「さっそく修練にいきますか!」

「もう夜だからほどほどにしないとだめだぞ。体を休めるのも修練だ」


 村長の言葉に軽く返事をして、二人は家を出たのだった。

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