第2話 次の一手

 ダニーの情報収集能力はヴェンたちの想像以上だった。行商人の息子で仕事も任されつつあるダニーは様々なつながりができている。そのつながりの中で多くの情報を得る。とは言っても、あの小さな村でヴェンやエミリーをいじめていたガキ大将であった彼に、そんな人を相手にする仕事が成り立つわけがないと二人は思っていた。しかし、ダニーは違った。話し方にややくせはあるものの、人の懐に入るうまさ、行商人としての商売のセンス、それらを持ち合わせていた。ヴェンたちもいまやダニーを情報屋として信頼している。人としては信頼していないようだが。


「決闘に負けてすぐに帰らずに観光したかったよー」

「一刻も早く、学院の推薦状をなんとかしたいんだ。それに学院に入学できればまたクレスにはこれるよ」

「そうでぇすよぉ。ヴェン様が決闘に負けてしまって、トラウト村長との約束を守れなかったぁわけですがぁまだ入学できないと決まったわけでぇはないですから」

「うるさいぞダニー」


 決闘に負けたその日に二人はダニーの馬車でエスコ村へ戻ることにした。自分たちの実力がある程度把握できたため帰りの馬車には用心棒はつけていない。


「それよりもヴェン、魔術学部目指すんだよね。それは私が教えないとね。なんたって魔術学部は魔力総量でもなく、大きな魔力が必要な魔術が必要なわけじゃないから。合格に必要なものは魔術を起動する速さと正確さ。術式はあらかじめ記述してもいいけど、それを起動するまでに必要な魔力だけを使えているのか。自身の魔力を操れているかで決まる」

「あれぇ僕、エミリー様にぃ学院の試験の合格基準ってぇお伝えしてましたっけぇ」

 エミリーは一瞬息をのみ、「あれ~、言ってたよね~」と言いながら自分で頭をこんっと叩く。

「そういえばその話って行きにはしてなかったっけ」

「うーん・・・・・・記憶にはないですがねぇ。バカなんで言ったことを覚えてぇねぇのかもしれねぇです」

「そう! ダニーがただ単に覚えていないだけよ。ね! ヴェンだって聞いてた感じじゃない」

 彼女はヴェンをじとーっと見つめる。なにかを怪しんでるかのような表情にも見える。ヴェンはその視線に気づき、目を合わせないように空を見つめる。

「まぁね。もともとダニーは試験内容についても情報収集するように頼んでたし、聞いてた気がするよ」

 お互いなにかを察せられないように必死に取りつくように話すたびにジェスチャーを交えて話している。ダニーはそんな二人をみることはできない。馬車は村に向かって、森の道を抜け、開かれた草原にでる。昼過ぎにクレスから出発したが、すでに日が沈んできている。

「まず村に戻ったら、学院の推薦状について村長にもう一度頼んでみる。だめならグレッグさんのところに向かってなんとかする。とりあえず推薦状はなんとしても手に入れるとして、今日からの修練は魔術を中心にやっていこう。エミリーお願いね」

「え~今日から始めるの~」

「二人ともぉ負けたのに前向きですぅねぇ」


「「うるさいぞダニー」」


 二人は村に向かって馬車にゆられている。

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