第三部

第1話 剣でダメなら魔術の方向で

 早朝から集まっていた生徒たちがぞろぞろと決闘場を後にする。決闘場に残ったのはヴェンを入れて三人だけであった。


「ヴェンよくやったよ。シピン先輩と決闘するって聞いて、ほんとに心配した。けど、ヴェンは互角の戦いをしたと思う。胸をはっていいと思う」

 アイリーンが決闘場の壁に寄りかかって青空を仰ぐヴェンに優しく話しかける。

「でも勝てなかった」

「そりゃあのシピン先輩だったし、実際決闘中には・・・・・・」

「あいつ魔術使ってた」

 アイリーンの話を遮る。彼の言葉を聞いて彼女は目を大きく開き驚いたような表情を見せる。

「ヴェンわかっていたの?」

「まぁ・・・・・・。重たいはずの大剣を時間が経てばたつほど、振り回せるようになっていたし、制服を切り裂いたときに少しだけ腕に術式を書いているのが見えたし」

「ふーん・・・・・・あの決闘の中でそこまで見えていたんだ。すごいよ」

「僕もエミリーに頼んで、決闘前にシピンの大剣に魔術かけてもらったし、決闘中は僕に身体機能回復させる魔術を無詠唱でかけ続けてもらったし、おあいこだよね」

「・・・・・・。私はシピン先輩のとこにいってくるからエミリーあとはまかせたよ」

 二人が話している間に観客席にいたエミリーが決闘場の中まで下りてきていた。ゆっくり歩きながら二人に近づく。アイリーンはエミリーとすれ違う時になにかをつぶやき方をポンっとたたき決闘場からでていった。


「ヴェン学院に行くのあきらめなよ」

 エミリーは励ますのでもなくねぎらいの言葉をかけるのでもなく、慰めてくれるわけでもなかった。

「僕はあきらめない。ダニーから情報はもらってるし、トラウト村長からは推薦状をもらうことはできないかもしれないけど、別の方法を考えるさ。たとえば、グレッグさんに土下座するとか」

 ヴェンは強がっているわけでも、おどけているわけでもなく至って本気だった。

「まぁあきらめないよね。それよりもさ、ヴェンの実力ってすごいんだね。Aランク級冒険者の実力相当だっていうシピンとほぼ互角なんだもん」

「多少ずるはしたけどね。負ける直前くらいに回復魔術の効果が実感できなくなってたんだけど、途中で魔力切れでも起こした?」

 最初の一撃で倒すことができなかった場合、エミリーに回復術式をヴェンにかけ続け、持久戦に持ち込む予定であった。あの大剣を振り回すには相当の体力が必要となる。ヴェンの片手剣は双剣流を扱うため、連撃がくりだせるように軽量化したものを使用している。回復し続けることで永続的に連撃を出し続け、体力がなくなったところでとどめを刺すつもりだったが、ヴェンは体力が底をつき、剣を飛ばされた。長い闘いであったため、エミリーの魔力切れを心配したのだ。

「え? 私最初から回復術式なんて起動していないよ」

 ヴェンは エミリーを見つめ、ん? という言葉がでてくるような表情をしていた。

「・・・・・・。じゃあ僕はあの時間すべて自分の実力で決闘してたってこと?」

「だからすごいねっていってるじゃん」

 エミリーは満面の笑みだった。

「いや、それ回復術式つかってくれたら勝てたじゃん!」

「ヴェンってば私が回復術式を無詠唱でできると思いこんじゃってるから、そんなことできないよって言えなくて」

「え、回復術式の無詠唱できないの?」

「私、無詠唱で回復魔術起動できるって言ったことないんだけど」

「あぁ、、まぁたしかに・・・・・・。それなら作戦考えたときにいってよ!」

「だってヴェンあんなに悪い顔でにやって笑うから、さぞ名案だと自分で思ってるんだろうなと思って」

「ひどいよエミリー・・・・・・」

 そう言って、二人は顔を見合って笑いあった。自分たちの実力で強者にも通用するかもしれないと思えたからだ。

「やっぱり僕は学院にいくよ」

「ヴェンがそう思うなら私は全力でサポートする。このまま剣術学部を目指すの?」


「僕は魔術学部に入ろうと思う」


 二人はまたにやっと笑いあった。

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