第17話 出っ歯は説明する

「さぁ行くか」


 ヴェンは身だしなみを整え、決闘場所に向かう。隣にはエミリーがいる・・・・・・はずだったが、寝坊して遅れてくる。一緒に寝ると意地を張っているからこうなるんだと歩きながら彼は考えていた。


「あんなせまい空間で熟睡できるわけないよ。僕はどこでも寝られるからなぁ」


 だれがいるわけでもなく、一人つぶやく。決闘は朝早くから行われる。学院の生徒に迷惑がかからないようにと配慮されてのことだ。首都クレスはエスコ村と景色がまるで違う。建物は高いし、石造りの家が多く並び、道は複雑に入り組んでいる。渡された地図を見ながら、ヴェンは学院を目指すが、細い道に入ってから自分のいる位置が分からなくなってしまった。身長の2倍以上もある、建物が右に左に続いている。大きな通りにでるためにはどこにいけばいいかヴェンは途方にくれていた。彼は決して地図が読めないわけではない。


「案外緊張しているのかもな・・・・・・」


 そうつぶやき、ヴェンは無詠唱で右手から光を生み出し、それに向かって放つ。ゴブリンを討伐したときに光を出す魔法を使用してから、基礎的な光魔術は無詠唱で起動できるようになっていた。魔術を起動してから少しすると前方に見知った姿が見えてきた。


「ヴェン! こんなところでなにしてるの?」

「アイリーン! 久しぶりだね。なんだか迷ったみたいで」

「少し抜けてるところあるよねヴェンって」


 細い道を抜け、少し大きな通りをでたところですでに学院に通っているアイリーンに出会った。今日決闘の前に学院の前で落ち合う予定だったが、予定は未定である。


「わざと私に見つかるように魔術使ったでしょ」

「ばれた?」


 にやっと笑うヴェン。


「アイリーンは僕とエミリーの居場所がわかる地図もってるし、魔術起動すれば僕の位置がわかると思って。迷っちゃったから、アイリーンに学院まで連れてってもらえばいいやって」

「来ないなーっと思って、地図広げてたら、黒い点が光り始めたからすぐにきちゃった」

 そう言って笑うアイリーンは無邪気で可愛い。

「そういえばアイリーン、制服似合ってるね。すごく可愛い」

 スターズ学院の女学生の制服は膝上まで上げられたスカートに、独特な形状をした大きな襟つきの上着。真ん中にはリボン、中心には星のバッジが装飾されている。

「え、本当? 学院の男子からエロい目線でみられるように限界までスカートを上げてるからかな」

「いや、そういうわけじゃないんだけど・・・・・・」


 ヴェンは少しがっかりしたのか、肩を落とす。アイリーンはパンツが見えるすれすれのラインでスカートを広げている。

「それよりも学院にいかなきゃ! 勝てるの?」

 ひょこっと上目遣いで顔をのぞかせるアイリーン。

「え、い、いや、うん勝てるかどうかはやってみなきゃわからないけど、勝つ気でいるよ」

「シピン先輩は強いよ。私は決闘しているところを見ただけなんだけど、剣術だけでいったら実力はAランク以上ね」

「それはここに来る間に、用心棒の冒険者にも言われたよ」

「そ、知ってるならいいんだけど」

「アイリーンはどう思う? 僕は勝てると思う?」

 ヴェンは真剣なまなざしでにアイリーンを見ていた。

「正直に言っていい?」

「うん、いいよ。むしろ正直に言ってくれたほうが覚悟が決まるよ」

「真正面から、剣術のみで勝負したら勝てる見込みはないと思う。もちろんヴェンの実力は相当だと思う。学院に来てからわかったけれど、ヴェンもエミリーも相当な実力者だよ。でも、シピン先輩は剣術に関しては別格。大剣をあんなに簡単に振り回せるし、マスターレベルの剣術。二つの流派を習得している私でも剣術のみの決闘だと楽には勝てないと思う」

「楽にはね・・・・・・。なんかいまいち強さがイメージできないよ」

「だって、私強いんだもん」

 てへっという効果音が聞こえてくるような舌を少し出して笑うアイリーン。話ながら歩いていると、いつの間にか目の前に大きな星を模した門が見えてくる。スターズ学院だ。

「ここが学院か。広いなぁ」

「むちゃくちゃ敷地広いからね。ここに三つの学部が入ってるし、決闘場もあるし、研究棟もあるし、すごいよねぇ」

 学院に入ってからまたしばらく歩く。早朝のためか決闘場までの道のりには学生はあまり見当たらない。しかし、決闘場に近づくにつれ、なぜか騒がしくなってくる。

「なんかあそこ騒がしくない?」

「あそこは目的の決闘場だけど、なんでかな」


 観客席にいる出っ歯の少年がいかにも脇役ですと言わんばかりにセリフを吐く。


「やっときたか。まっ時間には間に合ってるからよしとしよう。想像していたよりもひ弱そうなやつがきたな」


 ヴェンの目の前には高い壁に囲まれた決闘場、そして観客席にはすべての席がうまるほどの学生と思われる人々がいたのだった。


「シピン先輩が決闘をやるっていうから、学院に言いふらしたら、こんな早朝にもかかわらずこんなにも生徒が集まるなんて・・・・・・。けっこう期待していたのにこれならすぐに決着はついちゃうかもな」


 なぜ出っ歯はわざわざ聞こえるような声で説明してくれるのだろうか。

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