第16話 エミリーの非日常


 どうしても変えられない現実があることを彼女は身をもって知る。学院に行かなければ死ぬことはないと考えていた。思うままに生きて、その過程で彼を救うことが一番だと思っていたが、どうも成功はしていないようだ。どこかしらの場面で前回の出来事を伝えるような手紙がある。毎回同じ結末。救えない自分に実感はわかないが、悲しくなる。今回こそはと思ったが、結局は学院に行くことになる。まだ、学院に行くことを阻止することは可能だ。だが、あんなに落ち込んでいる、ふさぎ込んでいる姿を見るのは辛かった。彼は目標があって、それに突き進んでいるからこそ輝いているんだ。そんな彼が私は好きなんだと思う。生きてさいてくれればいい。

 背中越しに感じる彼の体温をいつまでも感じていたい。今の私はこの体温が失われてしまうことの恐怖は感じるが実感はわかない。自分自身が体験していることだが、実感がわかないのだ。もちろん、今生きている私が感じていることではないのだから当たり前なのかもしれない。


 学院に行ったとしても、私が彼を死なせない。


 背中に感じていた息遣いは、だんだんとゆっくりしたものになってきた。緊張で寝られないのではないかと思ってたのに・・・・・・。ちょっと悲しくなった。本当に私たちは好き合っていたのだろうか。それについては確かめようがない。この想いが成就した世界があるのであれば、少しばかり報われた気持ちになる。でも、本当は自分の想いが届いて欲しいと思ってしまう。


 彼女はヴェンの気持ちを知っている。そばで見続けていたからこそ、憧れともとれる強烈な恋慕をみてきた。勝ち目がないのはわかっている。せめて、彼を死なせずに、生きててほしい。ただそれだけなのだ。彼とともに同じ空をみているという事実があればいいのだ。


 彼女は自分自身に言い聞かせている。いつの間にか深く息をする音が二つになり、朝日が昇るまで、静かな時間が続いた。


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