第15話 月がきれいだと言いたかった

「シピンは大剣で防御してからカウンターを狙ってくる戦い方みたいだよね。あの冒険者が言うには」

「だから、ヴェンはあえて正面から真っすぐ踏み込むと見せて、横から切り込むって言ってたよね。冒険者の人もカウンターを恐れて、距離とっちゃうと大剣の間合いから抜けられなくて一方的にやられるみたいなことも話してた」

「そう。だから、僕は一気に正面から踏み込んで自分の間合いに入って、横から不意をつくという作戦を事前に冒険者には話してる」 


 ヴェンの言葉を聞くと、エミリーはまた、にやっと笑う。


「ヴェンがダニーに行って、クレスに行くまでの道中で情報をくれる冒険者をつれてこいって言ってたねそういえば。シピンにできるだけ近い人物をって」

「うんうん。エミリーは回復魔術と、開始直後は増幅系魔術を僕に起動してほしい」

「ヴェンはけっこう無茶言うよね~。増幅系の魔術って自分に起動するならそこまで魔力消費しないけど、他人へ使うとなると、相手の魔力の色とか、筋肉量とか考えないといけないから、集中力はいるし、他人への力の付与ってことだから魔力も消費が大きいっていうのに・・・・・・」

「でも、僕らはずっと一緒にいたから、色も筋肉量のイメージも大丈夫でしょ? なんなら今体触って筋肉量とか調べてもいいんだよ」


 ヴェンはからかうように、白い歯をいっぱいに見せながら笑う。それを言われたエミリーは一瞬目を見開き、すぐにうつむく。


「なに、馬鹿なこと言ってるの。まぁ触らなくてもなんとかなるから、あとは私にやって欲しいことある?」

「あとは、まかせる! 明日には決闘だし、寝ますか」

「寝るのはいいけど、結局このせまいベッドに二人で寝るの?」

「部屋に入ったときに言ったからね。僕はエミリーと寝られるから!」


 ヴェンは強がってはいたが、いくら幼馴染のエミリーといえども二人がぴったりくっつかないと眠れないほどの広さしかないベッドで一緒に寝たことなどなかった。アイリーンのことが好きなのだ。そう自分に言い聞かせていたが、間近でみるエミリーは可愛らしく、体も立派に成長している。寝間着姿だと肌がちらりと見えてしまい毎回どきっとしてしまう。


「ふーん・・・・・・。私だって寝られるもんね。いくらヴェンが優しくってかっこよくたって私は眠れるもの。それになんだか懐かしいし・・・・・・」

「え、懐かしい? 二人でこんな近くで並んで寝たことなんてなかったじゃないか」

「まぁね・・・・・・」

 反論してくるか、からかってくるかと思ったが、素直な反応をみせるのでヴェンは戸惑う。背中合わせで寝ていたところから、エミリーのほうに顔を向けると、エミリーもこちらに顔を向けていた。その顔には涙がつたっているようにも見える。部屋の灯りは消え、部屋に差し込む月明かりがエミリーを照らす。


「エミリー・・・・・・」

「ヴェンおやすみ」


 狭いベッドに背中合わせで眠りについたりつけなかったり・・・・・・。

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