第14話 かつては甘く愛しい時間だった
「これ二人で寝るには狭すぎるんじゃ・・・・・・」
ヴェンは困惑した顔で、扉の前に立ち尽くしていた。しかし、エミリーはどこか嬉しそうな顔をしているように見える。そのまま部屋の中にはいり、ベッドの前に置いてある椅子に座る。
「二人で寝るには十分だよ。小さい頃は三人で寝てたこともあるんだし、全然問題ないよ」
「いや、もう小さくないし。僕は決闘に向けた作戦会議をしたいんだ」
「じゃあ寝ながら作戦会議やればいいじゃない。あっヴェンってばもしかして緊張してるの? 幼馴染と一緒に一夜を過ごすことに」
「そっソンナコトないし!」
エミリーはいたずらっぽく笑い、ヴェンはあたふたしていた。二人は十五歳。まだまだ子供であるが、大人へと成長していく段階である。それは身も心もである。
「エミリーのこと、僕が襲うかもしれないよ?」
さきほどからかわれたことの仕返しとばかりににやにやしながらヴェンは言う。エミリーは間髪入れずに答える。
「別にいいよ? ヴェンがそれで満足するなら」
一瞬沈黙が流れる。
「ごめんごめん僕が悪かったよ。エミリーにそんなことしないって。それよりも決闘に向けて作戦会議しよ。もちろんそこのテーブルに座ってね」
荷物をおろし、準備を進めるヴェン。エミリーはどこか悲しそうな表情をしていた。
「そうだね。学院にいくためにも、まずは決闘に勝たないと」
下の階は冒険者で溢れ、騒がしい音が聞こえてくるが、部屋の扉を閉めてしまえば、そこまで気になる音ではない。二人は部屋の灯りをつけ、椅子に腰かける。
「聞いたかぎりでは僕に勝ち目はない」
「いきなりの敗北宣言だね。お父様に啖呵きって、勝ちますって言ったのに。まぁ勝ち目はないっていうことを踏まえてどうするかってことをヴェンは話し合いたいんでしょ? なにか作戦でもあるの?」
「エミリーは理解が早くて助かるよ。僕は学院にいってアイリーンに勝つ。この目標を絶対に達成する。そのためにはなんだってやるつもりだ」
話を聞いているエミリーの顔は一瞬曇った表情に見えたが、すぐにまた屈託のない笑顔を見せる。
「うんうん。私はそんなヴェンを死なないようにサポートする」
「死ぬのは大げさだけど、今回の決闘はもしかしたらそんな危険もあるかもしれない。治癒魔法陣の中で、行われるといっても、一撃が回復魔術で追いつかないくらいのダメージなら死ぬ可能性はゼロじゃない」
「そんなことになる前に私が止める」
エミリーは真剣な表情である。
「可能性なだけでそんなことにならないと思うけど、まぁその対策のためにエミリーに魔法陣とは別に、決闘中に回復魔術をかけてほしいんだ」
「体力がなくならないようにして、筋肉の疲労もたまらないようにすればいいんだね」
ヴェンはばつの悪そうな顔から一転し、目を大きく見開き、驚いたような表情をみせる。
「エミリーはそれでいいの? 決闘なのに正々堂々戦わないって僕は暗に言っているのに」
決闘というのは己の力を出し尽くす、一対一の真剣勝負だ。魔術も使う場合はもあれば、剣術のみで行う場合もあるが、外野からの介入はご法度である。介入を許せばそれはもはや決闘ではないからだ。
「ヴェンはどうしても学院に行きたいんでしょ。私はそれを全力でサポートするって決めてるの。死なせないために。第三者の介入は普通は許されないけど、私たちならできるからその作戦を提案したんでしょ?」
「まぁそうなんだけど。僕らは無詠唱で魔術を起動することができる。ということは周りにばれずに干渉することができる。シピンとの決闘は二人で勝ちに行こう」
二人は顔を見合わせてにやっと笑ったのだった。
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