第13話 うまくいくわけではない

「ダニー、馬鹿にしてるでしょ。怒るよ」

「はっ、いやぁエミリー様。心から思ってることでぇあります」

「嘘だね」

 エミリーとダニーはなにやら言い合いをしている。その横で目を閉じているヴェン。用心棒の冒険者もヴェンが話すのを待っている。馬車はその間にもどんどん進んでいく。首都に近づくにつれ、舗装された道は広がり、でこぼこしていた道もなだらかに整備されていっている。馬車の揺れがどんどん小さくなっている。

「シピンの弱点はある?」

 ヴェンは目を開け、冒険者を見据えている。

「弱点といえば、魔術には長けていないところだな。ほぼ才能を剣術にふっている感じだ。とはいっても、上位学校に進学できているということはある程度は魔術も使えるはず」

「君ならどう戦う? いや、どうやったら勝てる?」

「おいおい、そんなこと聞くのか? やっぱり腰抜けだったか」

「無駄口はいい。僕は勝つために最善をつくすだけだ。シピンの戦いを見たことはあるんだろ? Ⅽランクの冒険者とはいえ、実力を推し量ることくらいはできるだろ」 

 少しむっとした表情になるが、すぐにヴェンに言われたことを頭の中で繰り返しているかのように右手を顎に添え考え込んでいる。

「シピンが剣術のみで、こちらが魔術も使っていい。そして、決闘場のような場所ではなく、森の中のような入り組んだ場所でなら勝機はあるかもしれない。見た限り、まだ学院にしか通っていないシピンは一対一の勝負なら、強いが、大勢または戦場のような入り組んだ場所での戦いには慣れてはいない。戦場というか迷宮区のような場所であれば戦いなれている自分たちが有利だとは思う。まぁ実際戦ってみないとわからないけどな」

「なるほど、どういう戦い方をするんだ?」

「大剣一本で攻撃も守りも行う、まぁ言ってしまえば力任せの戦い方だな。ただ、力はすごい。大剣というと一撃はすごいが、小回りが利かず、防御には向いていない剣だが、シピンはどちらもできる。一撃が重たければ、攻撃も早い。ここが上位3位内に入る実力の所以だな」

「苦手なものは?」

「苦手なもの? そんなの知らねぇよ。一緒に生活していたわけじゃないからな」

 その後もヴェンは根掘り葉掘り、冒険者が知っているロバート・シピンの情報を聞いていた。夕日も落ちてきた頃、馬車は首都クレスに到着した。

「じゃ用心棒はここまでだな」

 小柄な用心棒は動いている馬車からひょいっと身軽に降りる。

「情報ありがとう助かった」

「ダニー坊やの頼みだからな。坊や、父さんによろしく。これからも店をよろしくお願いしますと」

「へい、伝えておきますぅ」

 馬車はクレスの中心部に向かい進み、用心棒は外れに消えていった。

 首都クレスはヴェンとエミリーの想像以上に栄えていた。見たこともないような石造りの家、二階以上もある建物、活気のある市場。二人の見たこともない世界が広がっていた。

「僕らはなにも知らなかったんだ」

「うん、なんかすごいね。人が多すぎて疲れちゃったよ」

「僕も疲れた。アイリーンに明日会って、明後日に決闘の予定だから今日は宿で休もう」

「そうだね」

 すでにダニーと別れ、首都クレスを散策していたが、二人ともつかれていたので、ダニーが予約したという宿に向かうことにした。

 ダニーが教えてくれた宿に入ると、いくつか丸テーブルが置かれ、多くの人が、食事したり、酒を飲んだりしている。その向こうにバーカウンターも兼ねているであろう、受付らしい場所があった。ヴェンはグラスを拭いている顎髭を以上に蓄えた男に声をかける。

「今日から一週間ほど泊まる予定のオースティンとロクサスです。部屋に案内してくれますか」

 顎髭の男はグラスを拭いている手を止め、ちらっとこちらを見て、カウンターの下からカギを取り出した。

「カギが一つしかないけど、中には部屋が二つあるんだよね」

 ヴェンの質問には答えず、カギに書いてある十二と書いている数字を指さし、目線を外す。

「いいからこの部屋にいけってことか・・・・・・」

「どうしたのヴェン? 疲れちゃったからとりあえず部屋に入ろうよ」

「まぁそれもそうだな」

 バーカウンター横の階段を上ると左右に部屋番号が書いてある部屋が見えてきた。ぱっとみた感じではどれも同じような部屋の作りであった。二人は特に気にせず、部屋のカギを開けた。

「へっ?」

「ヴェンどうしたの? 変な声に変な顔して」

 その部屋には大人二人が身を寄せ合わないと一緒に寝れないくらいのベッドが一つだけあったのだった。

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