第12話 ばかってことではない

 首都クレスまでは馬車で向かう。のどかな村を出てからしばらくは同じような風景が広がっている。舗装されている道には魔物はほとんど現れない。冒険者が魔物を排除し、安全な道を確保する。これも冒険者の仕事である。そして、万が一に備えて、馬車には用心棒の冒険者が同行する。ランクの高い冒険者は迷宮区の攻略にかり出されるので、用心棒と言っても、Ⅽランク以下の冒険者がほとんどである。


「ロバート・シピンってどんな人なんだろうね」

 エミリーが馬車に乗っている道中にふとつぶやいた。エスコ村から首都クレスに向かう馬車にはヴェンとエミリーの他、用心棒の冒険者、そして御者のダニーのみだ。

「トラウト村長が準備した相手だから相当の強さだと思うけど、僕らは村からほんとどでたことないからどれほど強いのかわからないんだよな」

「やってみなきゃわからないし、学院に行くには勝つしかないんだから!」

 エミリーはぐっと手に力を入れ、決意したかのように話す。そんなエミリーをみて、ヴェンは笑う。

「エミリーは冷静に物事を判断しているようで、全然考えていないよね」

「それって私がばかっていうこと⁉ 私の目的はヴェンを死なせないことだから、それしか考えていないの」

「死なせないって大げさだな」

 馬車はクレスに向かい、ゆっくりと進んでいく。

「そういえばダニー、ロバート・シピンの情報は仕入れてくれたのか?」

 ヴェンは御者で元いじめっ子のダニーに話しかける。行商人の家系で、多くの土地を周り、さまざまなつながりを持っていく中で、ダニーは情報屋としても仕事を請け負っている。もちろんヴェンたちに対しては無償で請け負っている。

「そりゃぁもちろんですよぉ。そこにいる用心棒の冒険者が情報を持ってますのでなんでも聞いてやってくださいぃ」

「お前なんでそれ早く言わないんだよ」

「いや、僕なんかがぁ、自ら発言する権利なんてぇ、持っていないと思ってぇ」

「ダニー、大事なことはすぐに報告してね」

 エミリーの笑っているようで、笑っていない雰囲気をダニーは感じ取って、体が震え始めている。

「それにあなたもそうです。ダニーから話はある程度聞いてるはずですよね。自分から話しかけてもいんじゃないかしら」

 長い槍を持ち、フードを深くかぶって、馬車の隅に縮こまっている冒険者に彼女は話しかけた。男か女か、見た目だけでは判断しかねる風貌だ。

「自分から話すなんて恥ずかしいので」

 小さい声で話す、その冒険者は声では性別は判断できなかった。ただ年齢はある程度若いのではないかと思うくらいの声のハリは感じられるようであった。

「まぁまだクレスまでの道のりは長いし、今から話を聞いても遅くはないよ」

「・・・・・・。とりあえず、私が驚いたのはあなた方二人が、本当に剣豪のロバート・シピンを知らないということです。最初にダニー坊やから話を聞いたときにはなにかの冗談かと思いましたが、まさかです」

「それってどういうことですか」

「歴代のスターズ学院の生徒の中でも、剣術学校出身で最強と言われるシピンを知らないと?」

 冒険者の顔を見ることはできないが、その声には驚きしか含まれていない。

「私たち、村からほとんどでたことないので、情報は全然・・・・・・」

「はぁ・・・・・・。シピンと決闘するという人物だから、さぞ有名な冒険者かと思えば、こんなひよっこ共だったとは。話すかわりに、有名な冒険者と仲良くなれるという浅はかな考えは、やはり浅はかでした」

「勝手に落胆しないでください。あなたの勝手な思惑は僕らには関係ないので、さっさと情報を教えてください」

 ヴェンは冒険者に馬鹿にされたのも意に介さない。皮肉というか馬鹿にしたつもりの冒険者は思っていた反応と違ったためか、顔を二人のほうに向ける。

「思ったよりも肝は座っているみたいですね。ランクは低いとはいえ冒険者の私にそんな口の利き方ができるとは。まぁその度胸に免じて、話します。ダニー坊やの頼みですし」

「シピンは学院の中で剣術学校を首席で居続け、上位学校においても3本の指に入る実力者です。恐らく、卒業後に冒険者になれば、いきなりAランクは間違いない」


「いやぁヴェン様なら、シピンにも勝てちゃうんじゃないですかぁ。ししししっ・・・・・・」


 ヴェンは静かに目を閉じた。

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