第11話 父は娘が心配
アイリーンは首都クレスに旅立ってしまったが、ヴェンとエミリーは修練を続けている。アイリーンがいたときよりも厳しさを増して修練を行っていた。勝つために、学院に入学するために。
スターズ学院に通うためには実技試験と筆記試験を受けなければいけないが、その試験を受けるためには学院の卒業生または元を含む関係者から推薦を受け、さらにその上で学院の教員たちが試験を受けるに相応しいか判断する。ヴェンとエミリーは推薦の件についてはなにも考えていなかった。なぜなら、エミリーの父は村長であり、元騎士団長。スターズ学院出身で卒業生だ。さらには知識を授けてくれる先生であるグレッグさんは元スターズ学院教師。関係者しかいなかったからだ。自分たちの周りには関係者が多く、推薦をとれないわけがないと、そう二人は考えていた。
「ダメだ」
予想していなかった反応に二人は凍り付いていた。
ある冬の日の修練終わりに、二人はトラウトの部屋を訪れていた。春に学院の試験があるため、その前に推薦状をもらっておこうと考えたためだ。軽い気持ちで部屋に向かったものの予想もしていなかった反応をされた二人。
トラウト村長はヴェンとエミリーの二人を見据えながら答える。
「二人とも修練には真剣に取り組んでいるし、実力も間違いなくついている」
それならなぜトラウト村長は推薦をしてくれないのかと言いたいような顔をヴェンはしていた。
「村長。僕は学院に行き、自身を高めたいのです。この村で一生を過ごすのではなく、外の世界を知りたいのです。もちろんアイリーンに追いつきたい、ということもあります。しかし、ここまで修練を重ねてきた上で、自分の力を試したいと考えるのは仕方がないことだと思いませんか」
「その気持ちはわかる。だが、エミリーも連れていくとなると話は変わってくる。エミリーは本当に学院に通いたいのか」
「私は・・・・・・、私はヴェンについていきたい。ヴェンの力になりたい。ただそれだけ」
トラウトは目を見開いている。もっともらしい理由を言ってくると思ったが、ストレートに自分の望むことを言うエミリーに驚きを隠せていない。
ほとんど告白しているような言葉を言っているがヴェンは意に介していないようで、それもトラウトの驚きを増長させていた。
「あっそうか・・・・・・、ヴェンの力にね・・・・・・。き、君たちは実績がないんだ!」
突然思い出したかのように声を上げるトラウト。
「実績? 僕たちに迷宮区の攻略をしてみろということですか?」
「それは意地悪すぎます、お父様」
「俺が決闘相手を準備する。ヴェンがその相手に勝てたのなら、二人の推薦状を用意しよう」
話が唐突すぎてヴェンは答えに迷っていた。決闘の相手が誰なのか、どれほどの実力者なのかもわからない。もちろん、今まで、誰よりも修練を積み重ねてきた自負はある。負けない自信もあったが、学院に行くための最善を尽くしたいと考えていた。が、隣の少女は違った。
「わかりました」
エミリーはすぎに力強く返事をする。ヴェンはその光景に唖然としたのか、エミリーを見たまま口が開いている。
「いいのだな。ヴェン」
唖然としていたヴェンだったが、ごちゃごちゃ考えていたものの答えは決まっていた。なんとしても学院にいき、アイリーンを超す男になるためには超えなければいけないことだと、その眼には闘志がみなぎっているようだった。
「もちろんです。どんな相手でも、アイリーンよりも強くなければ僕は負けません」
「わかった。では来週にクレスに向かうのだ。俺が学院に手紙をだしておく。学院に向かいそこで、決闘をしてもらう」
翌週、ヴェンとエミリーは首都クレスに向かったのだった
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