第10話 その決意は揺るぎない
エミリーから学院にいくなと涙ながらに言われてから二人は一言も交わさず湖にただ膝を抱えたまま座り込んでいた。だんだんと日も沈んでいく。自分がどうしたいのか、エミリーの涙の理由はなんだったのだろうか。ただヴェンには才能がないから学院にいくなと言ったのか、他に理由があるのか、頭の中にはたくさんの考えが浮かんだが、ヴェンの中ではっきりする答えは出すことができなかった。湖には二人以外には人はいない。時折、魚がはねて、水に落ちる音が聞こえる。それくらい静寂が広がっていた。
「あのさ、エミリー。やっぱり僕は学院に行こうと思う」
散々考えた上での答えだった。いや、答えというよりも、もやもやした想いを払しょくするために、答えを出すために学院に行こうとヴェンは決意した。エミリーに止められたけれど、小さい頃に決めたアイリーンの隣に立てる男になるという目標を追い続けようと思った。背中なんてまるで見えない。でも、まだこの村で頑張っただけ。もっと死に物狂いでやってみようと。
「まだ合格できるかわからないよ落ちるかもしれない」
「落ちたらまた次の年に受けるよ。合格するまで、学院に通えるようになるまでなんでもやる。まだ僕にはできることがあると思うんだ」
「だめだよ。ヴェンはお姉ちゃんに追いつけない」
エミリーの表情は悲しみに溢れているようにヴェンには見えていた。心の底から否定しているようには思えない。
「追いつけないかもしれない。でも、まだ追いつけないと決まったわけでもない。それならやってみたいと思うんだ」
「エミリーはやっぱり行かない方がいいと思う?」
学院に行くという決意はしたものの最後の一押しがヴェンは欲しかった。一番長くそばにいた人からの一押しを。
「ヴェンに・・・・・・、死んでほしくないから」
「死んでほしくないって、そんな大げさだよ」
「私は死んでほしくないの!」
エミリーの頬には涙が流れていた。死ぬとはどういうことがわからない。学院に行くと自分は死んでしまうのだろうか。なぜだかは全然わからない。でも、ただエミリーの言っていることを否定することも、なぜ自分が死ぬのかということを聞くことも違う気がした。エミリーの表情は本当に悲しみに暮れていて、本気だと感じたからだ。なんと言えば正解なのかはわからない。だが、自分が決意したことと、エミリーを納得させる可能性がある言葉を選ぶほかない。ヴェンはどんな手を使ってもアイリーンに追いつこうと決めた。もはやこれは意地だ。今までの努力を無駄にしたくはない。なかったことにしたくない。これまでの積み重ねを意味あるものにするためには挑み続けるしかない。
「僕は絶対しなない。だって隣にはエミリーがいてくれるでしょ?」
涙を流したままエミリーは少し笑った。
「なにそれ。他人の力頼りじゃん」
「僕一人じゃ死ぬかもしれないけど、エミリーがいてくれたら死ぬ気がしないよ」
そういった直後にエミリーは座っているヴェンに向かって飛び込んできた。ヴェンは慌てて受け止めたため、そのまま倒れてしまった。エミリーの顔はヴェンからは見えない。
「わかった。絶対ヴェンのことは死なせないから。ヴェンは自分のやりたいことに向かって全力で。私がいつまでも隣にいるから」
「ありがとう。じゃぁこれからどうやって学院に合格するか作戦を考えよう」
すっかりあたりは暗くなっていた。湖は月夜に照らされて美しく、細く光る。一筋の可能性でもそれに懸けてみようとヴェンは思った。
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