第18話 愚者

 目の前には学生服を着ていてもわかる鍛え上げられた体、ヴェンの倍はあるんじゃないかと思う伸長、オールバックの金髪でけつあごが特徴的ないかにも学院で上位はって、態度がでかいですと言わんばかりの男が見下すように立っていた。そして、早朝にもかかわらず学生が席についており、どこからともなく話し声が聞こえる。


<シピン先輩に挑むっていうから、どんなに体つきにいい男がくるかと思ったら、もやしっ子じゃない>


<え、でもなんとなくイケメンじゃない? 塩顔というか・・・・・・>


<となりにいるのは来年から上位学部にいきなり入学するっていわれているSランクの冒険者のアイリーン・ロクサスじゃないか!? ギルドにある写真以外で初めて見たよ>


<Sランクの冒険者の知り合いってことはやっぱり相当な実力者なんじゃ>


「ヴェン、注目の的じゃない。それよりもシピン先輩に話しかけられてるから答えないと。まぁ話しかけられたっていうより馬鹿にされてるけど」

 アイリーンに話しかけられヴェンはシピンを見つめぼぉーっとしていたところから戻ってくる。

「だれが、なんとなくイケメンじゃ!」

「ヴェンそのツッコミは少し遅いよ。いいからシピン先輩と話して」

 観客席から聞こえてきた内容にワンテンポ遅れて、突っ込むヴェンにシピンはやれやれと言わんばかりに首をゆらす。


「シピン先輩、この度は決闘を受けてくださりありがとうございます。観客までいるなんて驚きました」

 ヴェンは始めに言われたひょろいやつと言われたことは流すことにした。

「君は入学予定はないだろ? 先輩と呼ばれる筋合いはないな。ワタシはただ元団長のロクサスさんからの頼みだから受けたまでだ。しかし、その団長からの頼みという事で相当な実力者がくるものだと思っていたが、とんだ想像違いだったようだ」

 シピンが笑うと会場もヴェンをみて冷笑しているかのような雰囲気になった。

「見かけで判断しないほうがいいですよシピンさん」

「ほぉ、ワタシに勝つ自信があると」

「じゃなきゃ来ませんよ」

 すました顔でヴェンが言い放つと、シピンは怪訝な顔をし、みるみるうちに顔が紅潮していく、ふつふつと怒りがこみ上げているかのようだ。

「名前を聞いていたが忘れてしまったよ。とりあえず名無しくん、君が決闘の内容を決めたまえ。もちろんワタシが魔術のみ君は魔術も剣術も使うというルールでもかまいがね」

「ヴェン・オースティンと言います。その申し出は大変ありがたいですが、決闘のルールはもちろんどちらも剣術のみのハンデなし勝負でお願いしたい」

 紅潮していた顔が、収まってきたところヴェンの言葉でさきほどよりもさらに真っ赤な顔になるシピン。怒りで体が震えてきている。

「・・・・・・なるほど、君はバカなのかもしくは剣術で敗れれば、周りも納得してくれるとい保険のためなのか、いずれにしてもハンデなしとはずいぶん舐められたものだね」

「いいえシピンさん。勝ち筋がみえてるから剣術で勝負を挑むんですよ」


「回復魔術を起動しろ! 即死させてやる。君もいくら回復魔術が起動しているからといって、想定されるダメージ以上の攻撃を受けると死んでしまうことがあるということは把握していますね? そのうえ、これは正式な決闘だ。死んでしまってもワタシは罪にならない」

「承知の上です。そうえいばシピンさん。今日来る前に髪の長い可愛い女の子に会いませんでしたか?」

 ヴェンは背負っていた剣を右手に持ち、戦闘態勢に入る。

「たしかに来る途中に可愛らしい女生徒に会ったが、なぜそれを知っている」

「いや、まぁただの想像です。気にしないでください」

「いちいち鼻につく、態度だね。さっさと終わらせて朝食を食べに行くことにするよ」

 シピンは自身の伸長とほぼ同じくらいであろう大剣を両手にもち、構える。二人とも戦闘態勢に入り、観客席からの話声は消える。審判をまかされたであろう生徒も回復魔術を起動させている。

「ヴェンがんばりなよ。私はなにをしたって勝てばいいと思うよ」

 にやっと笑い、アイリーンはヴェンの背中をポンっとたたき、決闘場のすみに下がる。

 深く呼吸をする。審判役の学生が合図をだす。


「はじめッ!」


 ヴェンは勢いよく、真正面からつっこんでいった。

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