第6話 天才との決闘③ 力の差は絶望となる

さぁ本番といこうじゃないか。


トラウトが魔法陣を記述し終わり、魔法陣からでる。


「三人とも準備はできているか? あくまでエミリーの学院入学試験を受けることがふさわしいかどうか。それを見極めるための決闘だ。エミリーは全力で挑んで私に力を見せてほしい」

「エミリーで学院に行きたいなら全力できなよ。ヴェンは学院行きたいんでしょ? グレッグさんから聞いてるよ」


 おいおいアイリーンが決闘を持ち掛けてきたのはそういうことか。とういよりグレッグさんすぐにもらしてるじゃないか、口止めもしてはいなかったかとヴェンは思った。


「ヴェンが学院にいくなら私もいく。ヴェンのことは私がフォローするんだから」

「本気でいくよ。妹だからって、手は抜かない。パンツは見せてほしい」

「お姉ちゃん言ってる意味がよくわからないけど、ちょっと馬鹿にしすぎじゃない?」


 トラウトが決闘開始の合図をだす・・・・・・。


 ヴェンはすぐにアイリーンとの距離をつめようと前に踏み出した瞬間、すぐに足を止めた。開始早々、アイリーンが魔術で攻撃してきたからではない。

 

 圧倒的威圧感。

 

 アイリーンは決闘の開始の合図がでてから一歩も動いていない。


 エミリーが無詠唱で水の中に閉じ込める魔術を発動させ、水の球体にアイリーンは閉じ込められた。しかし、剣を持たない左手を前にだした途端にその水の球体ははじける。はじけた球体から見えたアイリーンの眼は、殺気にみちていた。妹を慈しむ眼は一切していない。ゴブリンを一太刀で首をはねたときの眼だった。

 その眼をみてしまったとき、ヴェンは足を止めてしまったのだ。エミリーも開始直後に自信満々だった魔術を一瞬にして打ち破られ、茫然としている。


「来ないならいくよ」


 アイリーンが短く言葉を発する。


「エミリーさがっ・・・・・・」


 ヴェンは振り向いて、注意を促そうとするとそこにはさきほどと同じ水の球体が存在し、中にはエミリーが閉じ込められていた。この魔術はエミリーのオリジナルだ。誰かに教えられたものではないと本人は言っていた。まさか、一瞬見ただけで、魔術をコピーしたのか?


「けっこう維持するのが難しいね。常に魔力を流してるイメージじゃないとこの球体を維持できない」


 アイリーンは天才だ。そんなの知っていた。魔術を作り出すことも知っていた。だが、それは研究し、積み重ねた結果だと、思っていたのだ。こんなにも一度だけみた魔術をコピーしてしまうアイリーンは規格外すぎる。自分との差に絶望してしまう。それを見透かしたようにアイリーンは一言放つ。


「絶望して足を止めてたら、立ち直れなくなるよ」

「うわぁぁあ!」


 恐怖を抱えたまま、ヴェンは突進する。振り下ろした剣には双剣流のかけらも感じられない。ただ振り下ろされた剣。それをアイリーンは簡単にはじき、胴体に切り込む。 

 一瞬、衝撃的な痛みが走り、気絶しそうになる。少量の血が噴き出すが、回復の魔法陣の中にいるため、傷はすぐに回復する。

 その痛みはさらなる恐怖を植え付け、ヴェンはその場に崩れ落ちた。エミリーもまた水の球体から解放されていたが、意識を失っていた。


 手も足もでなかった。

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