第5話 天才との決闘② 全力で挑まないと得るものはない

 翌日決闘の日の朝を迎える。

 勝っても負けてもヴェンにとってはなにも起きない。本番は成人を迎えたあとだと思っていてもなんだかもやもやしていた。


 本当にこれでいいのだろうか。アイリーンは妹の願いのために決闘を提案し、トラウトは姉妹の今後を心配し、本気で実力を見極めようとしている。その中で本気で挑むわけではなく、アイリーンの手の内を知るためだけに決闘をするなんて、何の得にもなりはしないのではないかと考えていた。


「そんなことも言ってられないか」


 ヴェンは自分に言い聞かせ、決闘の場所へと向かった。


 決闘の場所はアイリーンに頼んで、いつも修練で使っている湖ということにしてもらった。

 環境に慣れきっている点と、昨日発覚したエミリーの水系統なら無詠唱で魔術使えるよ発言によるものだ。物理的に水があれば、発動の速さ、強さも変わってくる。これがアイリーンのいうイメージというものなのだろうかとヴェンは思っていた。

 湖にはすでにトラウトが回復の魔法陣を地面に大きく記述し、魔術を起動させている。


 その魔法陣の中には向かい合うロクサス姉妹の姿があった。


「エミリー遅れてごめん」

「いいよ別に」


 なんだか素っ気ない。アイリーンにずっと視線を固定したままだ。


「なんかあった?」

 そう聞くとすぐに眉を吊り上げ、間髪入れずに返事が来る。


「もうむかつく! 昨日からお姉ちゃんが私のこと無視するの。話しかけても答えてくれないし、肩たたいたら、手ではねのけたのよ? こっちは本気でやるつもりなんてさらさらないし、学院にだって行く理由は・・・・・・あるっちゃあるけど」


 そういうとやっとこちらに視線を戻す。少し上目使いでヴェンをみてくる。可愛い。


「決闘するって自分から言い出して気が立ってるのかな。言い出したのはアイリーンなのにね」


「ふん! だからねヴェン。昨日は時間を稼いでお姉ちゃんの魔術や剣術をじっくりみるって、できるだけ生き残るように戦うって言ってたけど、あれもうなし」

「え、どういうこと?」


「勝ちにいくよ。最初から全力でいく」


 エミリーの顔はもう何を言っても聞かないような決意のあるギラギラした目をしていた。だが一応ヴェンは確認した。


「昨日の考えた作戦はどうするのさ。勝ち目なんてないじゃないか」

「勝ち目のことなんて考えたってしょいがないよ。実践のときに勝ち目とかそういうこと考えないでしょ。挑むでしょ? それに全力で戦ってくれようとしてくれるお姉ちゃんに失礼だよ。最初から飛ばすよ」


 その考えには同意だったし、エミリーの言葉を聞いてもやもやが晴れた気がした。


「わかった。最初から全力で行こう。勝ちに行くんだ。でも、僕が剣術で前に出て、エミリーがフォローってことは変えないでいこう。お互いの得意分野で全力でぶつかりにいこうじゃないか」


「うん。お姉ちゃんに負けないんだから」


 二人の目は生き生きとしだしたのだった。

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